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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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43、鼓膜が破れそう!!

 

「あはは……何だか苦労されてるんですね」

「来たばっかのお前にこんなこと言うのもあれだが、騎士団の中でも一番……人手不足なんだ!」


 流石に面白いとは答えにくく曖昧に笑ってみれば、ディルさんから胸を張ってまた不安になる言葉が返される。だが、調査班にまで人が回らないという話は見習いの段階で耳にしたことがあるため驚くことではなかった。


「討伐班に人がとられたんでしたっけ?」


 私が入るよりずっと前は調査班の方が多かったらしいが、近年の魔物の暴走で各地からの救援要請は絶えず討伐や救護に向かう人員を割かねばならないという。確信を持って尋ねれば、ディルさんは彼の声と同じくらい大きな動作で肯定を示した。


「そうなんだよ、各地で魔物が暴走してそれの討伐で手一杯だからな! だが、俺たちの仕事も軽く見られてるわりには大切なんだ」


 溌剌とした表情が少し影って、声量の落ちたディルさんは何だか見た目通りの無口そうでクールな実力者といった雰囲気だ。

 紺に近い青髪は癖がなくストレートで切り揃えられているし、切れ長の灰色の瞳はアンニュイな印象を感じる。ただ喋り出すと暑苦しくて、勢いのある声に鼓膜がやられてしまいそうだけど。


「大切な仕事だからこそ、今も調査班が継続しているのだと思いますが」

「その通りだ! 俺たちの仕事は……」

「……生体の変化から魔物の動きを予測して未然に被害を防げる、アンタはこういうの好きそうだよな」


 調査班の業務内容がディルさんの口から語られると思ったら、彼のセリフは聞き慣れた軽い調子の声に奪われた。でも、今彼の声が聞こえるのはおかしい。だってここは蔵書室でも修練場でもないのだから。


「ええ!? この声はユリオプスくん? こんなところで何してるの?」

「……何って、オレも調査班だからこの部屋に来たっておかしくないだろ」


 どうやら開けっ放しになっていたらしい扉を閉めたユリオプスは、慌てて振り向いた私に向き直ると得意げな顔で肩を竦めた。


 ユリオプスが調査班? そんな話聞いたことないような、それとも私が聞き流していただけ? いや、そんな情報を聞き流す程ぼうっとしているわけない。


「おい、ユリオプス。サボりまくってるくせに大口叩くんじゃない!」

「いや、調査にはちゃんといってるだろ。オレの観察記録が役立ってるってアンタも言ってたじゃねえか」


 ディルさんは、直ぐに元の音量でユリオプスを叱っている。だが、うんざりした顔で大袈裟に耳を塞いだユリオプスには響いていなそうだ。


 もしかして、彼がサボり過ぎていたせいで全く調査班の片鱗が見えなかったというのだろうか。いや、こんな感じでも根は真面目な彼が仕事を完全に投げ出せるとも思えない、調査は行っていると本人も言っているし、要領よく手を抜いているのというのが正解か?


「そういうことじゃない! っていうわけだカルミア君……この班は問題児が多い。ユリオプスと面識があるなら言わずとも察したと思うけどな!」


 どういうわけだよ、とツッコミたくはなったが、そもそも性格難が集まる騎士団のさらに問題児なんて深く聞きたくもない。いずれ出会うことになるとは思うが今日のところはやめておこう。


「面識どころかオレたち、お友ダチだぜ。どうだディル、コイツのこと不安になってきただろ?」


 ついでに私のイメージダウンを狙っているのか、私の肩に何故か得意な顔で手を置いてそんなことを言ったユリオプスにため息をつく。友達なのは本当だけれど、これではまるで私も問題児仲間の一員ではないか。


「お前に友達がいたのか! それはいいことだな。友人が同じ班になってさぞ嬉しいだろ、さあ、やる気を出せ!」

「う、うるせえ……嬉しいとは言ってないだろ」


 真っ直ぐな瞳でディルさんは、笑顔でユリオプスに無自覚に酷いことを言っている。友達がいない、という認識がデフォルトらしい、人付きは何だかんだ上手そうな印象を彼に持っていたため少し意外だった。


「ユリオプスくん、一回も調査班だって教えてくれなかったよね」

「はあ? 別に聞かれてねえし。問題児班に詰め込まれてるなんてわざわざ言う必要もなかったって言うか」


 怯んでいる間にユリオプスにチクリと言ってやれば、フンと顔を背けてブツブツ言っている。この拗ねてるような態度は、都合が悪い時に見せるやつだ。


 もしかして私が話で聞いているより調査班ってヤバいところなのだろうか、不安が口から飛び出そうになるが、様子見で一旦飲込む。

 このディルさんだってこんな振る舞いだが底が見えない、副団長が何か企んで調査班に私を入れたなら彼も息がかかった人物である可能性もあるのだから。


「ユリオプス、問題児の自覚があるならシャキッとするんだ! なんだその猫背は! あ、欠伸をするんじゃない!」

「はあ……アンタの大声で眠気が覚めちまったぜ」

「覚ましてるんだ! ここは昼寝をする場所じゃないぞ!」


 眠そうに欠伸を零したユリオプスがディルさんの大声の餌食になっている。語尾に全部”!”でもついていそうなくらいの勢いで注意を受けている割には余裕そうな彼の様子から見て、これが日常なのだろう。


 あからさまに裏表のなさそうなディルさんを疑うのが何だか申し訳なってきた。うるさいし、ちょっと空気は読めなさそうだけどユリオプスとの会話からは、真っ直ぐで熱い人物なことが見て取れる。


「分かりましたよー。で、そんなことよりコイツのペアどうすんの? 調査は二人組だろ」

「ユリオプス、そういうお前はいつも一人で調査に行ってるじゃないか! 本当は、いけないことなんだからな!」


 ディルさんに向いていたユリオプスの視線が、いきなり私に向いて思わず肩が跳ねた。

 つい驚いてしまったが、今の二人の話を要約するとユリオプスにはペアがいない。

 それに、ディルさんからは友達がいない扱いされている、つまり……。


「あの……ユリオプスくん、もしかしてハブられてるんですか?」

「ちげーよ、オレくらいになれば一人で十分だから誰かと組んでも効率下がるだけだろ?」


 恐る恐る尋ねれば、ユリオプスの空色の目がぐっと細くなった。そして人差し指を立てて、捲し立てるように説明を始める。

 ユリオプスの実力が高いのは、度重なる自主練で実感しているが、野外の調査ともなれば人数は多い方が良いだろう。ということは、やっぱりユリオプスは……。


「大丈夫、僕は友達ですからね!」

「あー、ハイハイ。ありがとよ、嬉しくて涙が出ちまいそうだぜ」


 彼の両手を掴んで、ディルさんの声に負けないくらい強い声で友達宣言すれば、信じられないくらいの真顔と棒読みで返される。

 きっと皆、ユリオプスのことを誤解しているのだろう。彼が努力家であることも結局、ユリオプスの意向で周りには言えずじまいだし。やはりいつか、ユリオプスの良いところを皆にも知って欲しい。


「ちょうどいい、お前たちが組めばいい!」


 そんな私たちを見ていたらしいディルさんが、思いついたとばかりに大きな声をあげた。声につられる形で彼を見れば、何だか異様にニヤニヤしている。

 顔面がうるさいと言ったら失礼だろうけれど、今の彼を表すのにそれ以上に適した言葉は見つからない。


 それより今、ディルさんは、私とユリオプスが組めばいいと言ったような? 


「え?」

「ま、そうなるよな」


 遅れて驚きが漏れた私とは、裏腹にユリオプスは分かり切っていたみたいに呟いた。まだ見ぬ問題児とペアを組むのだとばかり思っていた私には悪くない話だ。知らない問題児より知っている問題児がいい、それに何より私たちは、ある程度お互いのことが分かっている友達だ。


「お、いつもより乗り気じゃないか! いいぞ、ユリオプス!」

「ほんっとにアンタうるさいよ」

「悪い! 声をもう少し落とすよ!」


 バシバシと私がやられたようにユリオプスもディルさんに背中を力強く叩かれている。それに怒ったユリオプスのせいで、大して広くない部屋に二人が言い合う声が響く。そろそろ耳が痛くなってきてしまった。


「うるせえままじゃねえか!」

「ユリオプスくんもわりとうるさいよ」

「アンタまでそんなこと言うなよ。ま、これからは真面目そうなアンタに仕事を頑張ってもらってオレは適当に過ごさせてもらうぜ」


 痺れを切らしてディルさんに叫んだユリオプスにジト目を向ける。すると、彼はまた拗ねた顔をしたと思えば直ぐにいたずらっ子のように口の端を釣り上げた。

 またそんなことを言って本当は真面目に仕事をこなすつもりなんだろう。


「連帯責任で巻き込んであげる」

「おい、随分と前のことを蒸し返すなよ。アンタ、生意気さに磨きかかってるぜ」


 お見通しだとばかりに笑いかければ大袈裟にため息をつかれた。

 私の教育係になった当初は、副団長が私のやらかしを利用して連帯責任でユリオプスを罰そうとしている、なんて彼は推測していたっけ。


 結局、私が罰せられるようなやらかしは起こさないままユリオプスは私の教育係を外されたからそんなことは起きなかったけども。


「お前たち本当に友達だったんだな! カルミアくん、一緒に頑張ろうな!」


 ディルさんの灰色の瞳には少しの驚きと言葉通りの激励が籠っていた。眩しく笑うディルさんに、また勢いよく背中を叩かれそうな予感がしたため、自然な動きで距離を取る。この人、黙ってればすごくクールに見えるのにな……。

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