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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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極秘調査禄2:カルミアについて

・番外編の後半です


・本編にはしっかり絡む内容なので、番外編とも言い切れないかも。別視点の物語という感じです

 

 アスターがカルミアに揺さ振りをかけてから、彼女は訓練の時も落ち着かず悩んでいる様子を見せていた。

 彼女が既に及第点に達している馬術に必死に取り組んでいるのも、不安を誤魔化すために何かしていないと落ち着かないのだろう、アスターは自身の思惑通りに進んでいることを実感していた。


(……だが、とどめを刺すのはまだ早い)


 彼女が焦って蔵書室に籠って何かを懸命に調べれる程、記憶を取り戻すことへの不安が増えていくだけ。


 もう少し彼女が自身を追い込んで、自ら記憶を思い出さないと決断させ目標を見失ったところにつけ込む……冷ややかな目で慌ただしく過ごすカルミアを観察しながら、アスターは機会を伺う。


「君の記憶についてだ、そろそろ決まっただろう?」


 カルミアの騎士昇格試験一週間前、アスターはカルミアを呼び出して問いかけた。

 彼の問いかけに、ぎくりとした表情を浮かべたカルミアは暫くして困ったように俯き口を開く。


「……はい、記憶は諦めることにしたんです。どうしても取り戻すことが怖くなってしまいました」

「そうか、残念だが君の意志なら尊重しよう」


 言葉にこそ同情を込めてもアスターは僅かに笑っていた。注意深く観察していた、さらさら記憶を諦めるつもりもない嘘つきなカルミアがそれに気づいていないとも知らずに。


(……驚くほどに順調に進んでいる。このまま甘言を囁けばいけるか)


 そして、アスターの想定通りカルミアは、記憶を諦めることで目的を失ったと今までになく頼りない弱音を吐いた。

 そんな彼女にアスターは、傲慢にそれでいて他に選択肢があるとも思えないほどの決定打を突きつける。


「ならば、私が君に生きる意味を与えようか」


 彼の予定ではもう少し早く、カルミアの信頼を操って自分に都合よく動かせるようにしておくつもりだった。

 想定外に遅れたのは、彼にとって取るに足らない相手でしかないはずのユリオプスが原因だ。

 柄にもなくアスターはユリオプスに偶然とはいえ計画を乱されたことに自覚がない程の僅かな焦りを抱えていた。

 それが、カルミアの本心をこの時に見抜けなかった原因だと知るのは、もっと先……破滅を迎える寸前のことだ。



「……記録を更新すべきだな」


 意識を現在に戻したアスターは独り言を零す。カルミアの言動を振り返ったものの彼女が明確に記憶を取り戻しかけているかは判断できなかった。


 彼の視点からすればカルミアは既に、記憶への執着は薄れて自身への信奉を強めていると認識している。そのせいで考察がブレたのだ。


(本人は記憶を諦めると言っていたが、戦闘を続ければ意図せず戻る危険が高いか? ならば、その前に駒として仕立て上げる必要がある)


 試験結果はアスターにとって想定以上に満足な結果だったと言っていい。

 己の計画がさらに近づいた実感に口の端を無意識に釣り上げる、それは、この場にカルミアがいれば震えあがっていたくらいに異質な表情であった。


 研究のデータは集まった、再び無表情に戻ったアスターは魔物がいなくなった土地を黒馬に乗って後にする。

 今日の夜はまた研究で彼は眠れないのだろう、その予感にアスターは魔馬へ合図を送り帰りを急がせた。




 不寝番以外は眠りについた真夜中、コツコツと地下へ続く階段に足音が響く。懲罰室を通り過ぎ更に奥へ進めば錆びついた扉が現れる。

 足を止めた男は、複雑な装飾のついた鍵を取り出して扉を開けた。


 青龍騎士団の地下にある研究室は、現役の団長と副団長のみが鍵を持っている。

 まさに現在、騎士団の副団長を務めているアスターは慣れた手つきで研究室に明かりを灯す。


「はぁ……」


  疲れの見える足取りで椅子に座ったアスターは大きくため息をついて机の僅かな隙間に突っ伏した。

  几帳面に整えられた副団長室とは違い、資料やレポートが乱雑に置かれた机は片付ける余裕もなく何ヶ月も前からこの有り様だ。


 女神神話から一般的には広まっていない禁忌とされた魔法が載っている古文書。

 それから記憶喪失について書かれた医学書に魔物図鑑、傍から見ればジャンルも滅茶苦茶に混ざった資料だがそれはたった一つの目的のために揃えられたものだった。


  カルミアと現在、名乗っている未だ正体のつかめない少女と出会ってから彼の研究は忙しさを増している。

 日中は、長らく不在にしている団長の代わりに激務を果たしている彼だが、皆が寝静まった夜さえも休息は訪れない。


「概ね順調か」


 眠気を押し殺して机から顔を上げたアスターはここ最近、熱心に纏めている記録を資料の山から取り出して満足そうにほくそ笑む。

 手元のレポート用紙には、やや乱れた文字でカルミアと名付けられた少女についての考察がずらずらと並べられている。

 

 今日の試験によりカルミアが意図せず記憶を取り戻すという懸念はあれど、彼女はアスターの求める力を発揮できる素質があると確信できた。


 下地は整った、彼女を完全な駒として仕立て上げて必要な力をつけさせるだけ。気持ちの逸るアスターは、眠気も忘れて今日のデータをレポートにつけ足していく。


 今、彼が思い描いているのは昔に諦めた計画だった。ロベリアのような光が無残に死んだ間違った世界を自分こそが正しく導く。

 その唯一の方法、しかしアスターだけでは計画は完成しない。


 だから一度は諦めた。しかし、条件を満たす可能性のある何も知らない彼女がまっさらな状態で彼の前に現れたのは何かの導きとすらアスターは感じている。


 アスターは神など信じていない。


 だが、古代の記録が女神と言われた魔法使いの女に蘇生の力があったことも、青龍を従えたことも本物だと示していた。神などいない、いたのはただ逸脱した魔法を持った女だ。

 そして、同じ力を持った存在がもうすでにこの世に生まれ変わっていることも長年の研究で突き止めた。


 彼はカルミアの資料を雑にしまって、女神神話の第五幕を資料の山から取り出す。

 タイトルは『氷の魔女』。女神の力を、己の主に捧げるために命を捨ててまで奪おうとした愚かな魔女。

 だが、神話の通りあと一歩のところで力を盗むことなく青龍に焼かれて死んだ。


 この世界に女神の力を持った者がいて、氷の魔女となり得る存在がいて、そしてその主人となる自分がいる。

 アスターは己の意志を固め虚空を睨む、鋭い紫の瞳は昏く鈍い光を湛えていた。




「うっ……」


 ところ変わって、騎士団から遠く離れた北の大地。ローブで顔を隠した女は、得体の知れない寒気に襲われてブルりと大きく体を震わせる。


「どうかしましたか、デイジー?」


 隣りを歩いていた薄茶の髪をはらった男は、彼女の名を呼び足を止めた。

 彼女よりずっと薄手の外套を羽織っている彼は涼しい顔で眼鏡の位置を直す。


「なんか今ゾックとして。誰かが良くない噂でもしてるのかな」

「そうですか」

「もう少し心配してくれてもいいじゃない?」


 えへへ、と誤魔化すように笑ったデイジーと呼ばれた女はズレてきたフードを外して、女神像にはめ込まれた宝石のような青い瞳で男をジト目で睨む。

 桃色の長く艶やかな髪が、花びらが舞い散るように強い風に吹かれた。


「この土地の気候が肌に合わないだけでしょう。アナタの故郷よりも寒いでしょうし、まあ、ここには大した手掛かりもありませんでしたし……次の場所に移動すべきですね」


 寒空の下、非難の目を向けられても表情一つ変えずに男は、鬱陶しく風に揺れる癖毛の髪を払って淡々と言葉を返す。


「うん。それにしても、ジーリオの相棒さん全然見つからないね。合流する約束忘れちゃったとか?」

「まさか。無鉄砲なところはありますが、ボクとの約束を違えるはずはありません。きっと今頃、迷子になって寂しがって泣いているに違いありませんよ」

「なんか過保護じゃない? 同い年なんでしょ、その相棒さん」


 デイジーの問いかけにジーリオは真顔ですぐさま首を振った。そして、先程の澄ました顔が嘘のように分かりやすい心配が顔に現れる。

 デイジーも彼の豹変ぶりは何度か目にしているが、未だに普段とのギャップに驚かずにはいられなかった。


「今はあっちが一個下です。もうすぐ同い年になりますが、ボクの方が生まれたのは早いですから」

「……また相棒さんのこと聞かせてね」

「まあ、時間があれば考えておきますよ」


 デイジーは話の続きが気になったものの、この寒さに耐えられる気もしない。

 彼女が話を切り上げれば、ジーリオは口ではそう言いつつも、いかにも話足りないといった様子に緑の瞳を伏せた。


「ううん、やっぱりなんか違う? これは……」


 速足でこの土地を去ろうとするジーリオの後ろ姿を見ながらデイジーは小さく呟く。未知数な変化は彼女の天敵だった。


(後でもう一回、原作のルートを確かめておかないと……)


『総愛され計画』そう書かれた日記帳に示される計画、彼女はこの世界を本来と違った方向に捻じ曲げようとしている。


 己の欲望を、理想を満たすためにはそれしかない。デイジーは、フードを深くかぶり直して前世で知り尽くしたこの世界の知識を胸に強く前を向いた。

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― 新着の感想 ―
ジー『リオ』ってこと!? デイジーいったい何者なんだ...広告だったのでは...続きが気になる展開だ!
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