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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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38、聞こえないわけがない

投稿遅れましたが2月1日分とさせて下さい

 

「先ずは君に、一週間後の昇格試験に合格してもらおうか。詳細はその後に話すよ」

「分かりました、必ず騎士になってみせます!」


 言葉の圧を強めた副団長に負けじと強気に返す。慌ただしく過ごしているうちに、気づけば騎士への昇格試験も間近に迫っていた。

 副団長から見た私の立場や関係性は数分の会話で変わってしまったが、表面上のやるべきことは変わっていないようだ。


「君には期待している。それと、今日の指導だが急務が入ってね……自主練にしてもらえるだろうか?」

「ありがとうございます。では、そろそろ失礼しますね」


 申し訳なさげに見える実際は大して何も思っていないであろう彼の言葉だが、今回ばかりは私としても都合が良い。

 正直に言えば、彼を騙しきらなければいけない状態で指導を受ける程の体力が残っていないのだ。実際は数分言葉を交わしただけだが、長い尋問でも受けていたのではないかと思うくらい精神を消耗している。


「ああ。また明日からは君に指導をつけてやれるはずだ」


 比較的にこやかに私を見送った副団長に頭を下げて、最後まで気を抜かないよう緩慢な動きで部屋を出た。重い扉を閉めれば、その場で力が抜けそうな疲労感が襲ってくる。


 ここで立ち止まるわけにはいかず、自室を目指して懸命に足を動かす。勇み足だった行きの道とは違って、やけに長く感じる廊下を進めばようやく安全地帯へ帰ってこれた。


「はぁ……」


 自室へ入り部屋を閉めればベットまで辿り着かずに、本当に力が抜けて冷たい床に崩れ落ちるように座り込んでしまった。

 ぐったり下がった頭がやけに重い、床に接している部分から体温が奪われているがそれすらどうでもよく感じる。


 今、思い返しても息が詰まりそうだ。気が狂いそうな空気感。己の無力さを思い知らされるような閉塞感。言いたいことは沢山ある。でも、あの感覚を一言で表わすのならば……。


「……怖かったな」


 締まりかけの喉から零れた私の声が床に落ちる。震えていて酷く情けない、それでも副団長と話していた時はそれらしく振舞えていたはずだ。

 彼の演技力は底が知れないけれど、副団長にとって望ましい展開に進んだのだから疑いがあっても様子を見るだろう。


 ゆっくりと立ち上がり、足についた小さな埃を払う。相手の強大さは既に理解していたはず、今さら怖気づいても後には引けないし、何より引きたくもない。


「大丈夫」


 根拠はないが言い聞かせる。疲れた体はまだ調子を戻してくれないけれど、心の奥底から湧き出てくるような恐怖はもうなかった。先ずは目先の試験のことだけ考えればいい、どうせ情報を得られるのは合格してからなのだから。




「今回は僕の勝ちですね!」

「はあ……アンタの勝ちだよ」


 ユリオプスは不満げな声で負けを認めると両手を上げて肩を竦めた。向けていた模擬刀を下ろせば、先程までの真剣な空気は一瞬で消え去り静かながらも穏やかな夜が漂う。


 彼との手合わせも何度目になるか分からないが、副団長に止められているわけでもないため続けている。始めは負けっぱなしだったが、今では魔法にも慣れてきたおかげで勝率も五分五分くらいになってきた。実力がついてきた証拠だと思えばなんとも感慨深い。


「ふふん、僕も強くなったと思いませんか?」

「初めて会った日に、虐められて泣いてたのが懐かしくらいだぜ」

「あの時も泣いてませんって」


 胸を張って問いかけてみれば、ユリオプスは意地悪気に目を細めて口の端を釣り上げる。入ってすぐの頃、道に迷った挙句ガラの悪い騎士に絡まれたのも随分と昔の話だ。


 あの時はユリオプスに助けてもらったが、もう自分で対処できるくらいの力はついている。ついでにその時も泣いてなどいなかったが、何度訂正しても彼の認識ではそうらしい。


「それより試験、明日なんだろ。こんな所にいていいのかよ?」

「だからこそですよ。いつも通り過ごした方が緊張しませんし」


 まるで興味がないみたいな声色だが、アイスブルーの瞳は分かりやすく心配そうに私を見ている。彼の言うように、副団長欺き大作戦開始からあっという間に試験前日になってしまった。


 初めての試験だ、緊張していないわけがない。失敗したら様々な計画が破綻してしまうのもあって確実に重圧は感じていた。


「あれだけ啖呵きったくせに緊張してるわけ? オレを負かしておいて自信ないなんて言うなよ」

「いえ、自信はありますよ! 落ちる気がしてません」


 ユリオプスは負けず嫌いだから先程負けたのを気にしているのだろう。彼に勝てたのだから私の実力が不足している訳もない、当然とばかりに言い切れば彼は半眼になった。


「それはそれでなんか生意気」

「もう、どっちでも文句言うんじゃないですか」


 なんて、面倒くさいやつ! 元々なかった私への遠慮がさらに無くなっている気がする。


「アンタが生意気なのが悪い」

「ええ!? 理不尽ですよ! でも、そんなこと言ってられるのも今日までですよ」

「はいはい、知ってるよ。お友ダチになるんだろ」


 軽口を叩きつつも彼からあの約束を口にしてくれるのは意外だった。素直に嬉しくて頬が緩んだのが自分でも分かる。こんな顔したらまた彼に何か言われてしまいそうだ、まあ言われても別にいいか。


「覚えてくれていたんですね、あだ名も付けますから」

「忘れられるわけないっつーか。あと、あだ名は要らない。アンタそういうセンスなさそうだし」

「そんなことないと思いますよ、白馬にもリオって素敵な名前つけてますし」


 ボソボソと何やら言ったかと思えば、はっきりと私のあだ名を拒否された。ついでに、センスへの誹謗つきなんて酷い。

 ユリオプスにセンスを疑わせるようなことをした記憶は無いし、セダムさんにも魔馬にも名づけは褒められているというのに。


「オレのあだ名もリオにするとか言うなよ?」

「ユリオプス……確かにリオって入ってますね」

「やめろよ」


 訝し気な彼の発言で、ユリオプスにもリオが入っていることに気づいた。流石に魔馬と同じあだ名をつけるのは怒られそうだ、前にあの白馬に似ていると言って怒られたのを覚えている。


「流石に同じ名前がいたら分かりにくいのでやめますよ」

「そうしてくれ。てか、なんでリオなわけ?」

「うーん、なんとなくですかね。相棒と言えばその名前……みたいな?」


 彼の問いかけに曖昧に返すしかなかった。いざ聞かれてみると説明が難しい、相棒の名前と考えた時に無意識に呟いてしまった名前だったのだから。


「へえ、よく分からねえな」

「記憶を失う前に誰かのことをリオって呼んでた気がするんです」

「ふうん。ソイツのことがしっかり思い出せれば、もう少し何か分かりそうだな」

「相手の顔も、その人が僕を何て呼んでいたかも思い出せないんですけどね」


 彼の言うように、一瞬思い出しかけたリオと呼んだ誰かは記憶を失う目の私と深い関わりがある人物だとは私も思っている。だから、案外また直ぐに思い出せると踏んでいたが、あれから色々試したものの音沙汰がない。


「でも、諦めるつもりなんてないんだろ?」

「もちろんですよ。どれくらいかかるかは分かりませんが、必ず取り戻します」


 ユリオプスは真っ直ぐ私に視線を合わせて笑みを浮かべた。私が諦めると疑ってすらいないその顔が何だか心強くてまた顔が勝手に緩んでしまう。


「なら、先ずはしっかり休むことだな」

「そうですね……試験に合格したら一番に会いに行きますから!」


 笑みから直ぐにいつもの呆れ顔になったユリオプスに頷いて、それから少し声を張って言葉を放つ。明日の今頃、私たちは対等な友人として言葉を交わしているのだろうか。彼も気に入るようなあだ名を考えなくちゃ。


「お子サマは早く寝ろよ、寝坊したら試験どころじゃないぜ」

「あはは、そうですね。じゃあ、おやすみなさい」


 ユリオプスは私を子ども扱いしたがるけれど、私としてはそんなに年齢が変わらないと思っている。だが、いつもの調子の彼と話せたお陰で緊張も解けてしっかりと眠れそうだ、別れを告げて背を向ける。


「……ま、頑張れよ」

「うん? 何ですか?」

「別に、さっさと寝ろよ」


 ボソッと呟いた彼に足を止めて振り返る。首を傾げて聞き返せば、追い払うように手を振って目を逸らされた。ふーん、こんな時まで素直じゃない。


「ユリオプスさんも応援してくれるんですね、ありがとうございます! 明日は頑張りますね!」

「聞こえてんじゃねえかよ!」


 にやっと笑ってお礼を言えば、逸らされた空色は直ぐに私を捉えてキッと睨むように細められた。聞こえてないから聞き返したわけではない、もう一度言わせたかっただけだ。


「激励は何回聞いても嬉しいですから。では、また明日!」


 今日はぐっすり眠れそうだ、ユリオプスの文句を背中に受けながら次こそ本当に私は部屋へと走った。


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