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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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30、相棒の名前は?

 

「まさか、カルミアさんがほんとにこの子と仲良くなれるなんて思わなかったよ!」

「セダムさんって意外とはっきり言いますね」


 あはは、といつも通りのほほんと笑っているセダムさんに少しだけ目を細める。君ならきっと仲良くなれる! なんて言ってたくせに適当に言っていたなんて。


 魔力のコントロールを覚えたらしい白馬も微妙な顔でセダムさんを見ている。あれから、元気を取り戻した魔馬は魔力の相性が良かったのか私を乗せてくれるようになったのだ。そのため、ここ数日の訓練ではセダムさんの愛馬ではなく心を開いてくれたらしい白馬に乗っている。


「あ、ごめんね。でも、凄くびっくりしてるんだ。これだけ魔力の高い子が、魔法をコントロールできないことってないからさ。情けない話だけど見落としていたよ」

「僕が魔法を使えなかった時期にも意味があったなとこの子のお陰で思えました」


 セダムさんが眉を下げてしゅんと落ち込むものだから慌てて首を振って声を掛けた。嫌味や慰めでなく本当に言葉の通りに思っている。


 先入観があれば見落とすことはあるだろうし、この白馬がたまたま私の魔力と相性が良かったり、魔力の流れを掴めていなかったりと偶然が重なって解決できただけだ。白馬は懐いてくれたけど、決して自分の手柄とは思えない。


「はは、それはいい考え方だね。それと一つお願いがあるんだ」

「何ですか?」

「えっと、君が良ければなんだけど……」


 朗らかに頷いた彼が急に真剣な顔つきになる。いつになく落ち着いた声色におそるおそる聞き返せば、セダムさんは頬を掻いて見慣れた困り顔になった。


「この子に、名前をつけてあげて欲しんだ。今まで何回か名前を付けても無視されちゃって気に食わな

 かったんだと思うんだよね」

「いいんですか? 僕がつけても」


 セダムさんの提案に迷いが生まれる。ずっと世話をしてきたセダムさんを差し置いて私がつけていいのだろうか?

 考え込んでいると、ふと視線を感じて隣りを向けば魔馬がじっと私を見つめている。綺麗なサファイアの瞳からは期待が感じ取れて、この子も私の命名を望んでくれているような気になれた。


「うん、君がこの子の相棒になるんだ。君こそふさわしいよ」

「相棒……」


 私の相棒、なぜかその響きが喉に刺さった小骨のように気になって仕方がない。何が気になっているのか自分でも分からないが、思考を巡らせればズキッと頭が痛む。


「そうだよ。信頼して命を預ける大切な相棒さ!」

「急に考えようとすると難しいですね」

「ゆっくり考えればいいさ」


 セダムさんに曖昧に答えを返すがまた何か引っ掛かる。こめかみを抑えて目をつぶれば、深く記憶の海に沈む。


 私はよく彼に呼び止められて、それで振り向いて彼の名前を呼んでいた。いや、彼って誰だ? 違う、今は白馬に名前をつけなきゃいけない。


 ごちゃごちゃに絡んだ思考の中、必死に名前を考える。命を預ける相棒、相応しい名前は……?


「……リオ」

「いいね! リオだって君の名前、気に入った?」


 声に出ていたらしい知らない名前。セダムさんは白馬に向かって楽し気に話しかけているが、その名前は名付けようとして発したものではない。


 私は誰を思い浮かべたのか、思い出せそうだったのに幻のように霧散していったいつかの記憶は、手繰り寄せられる範囲から消えてしまった。


「リオって名前気に入ったみたいだね。うーん、俺のネーミングセンスが気に入らなかったのかなあ」

「……気に入ってくれたなら良かったです」


 戯れている一人と一頭を見ながらぼんやりと考える。白馬、改めリオも名前を気に入っているようだし水を差さなくてもいいか、平和な情景につい笑みがこぼれた。


 純白の魔馬はセダムさんにちょっかいをかけるのを止めて私に頭を差し出す。優しく撫でれば満足そうに小さく鳴いた、名前を付けられたのが嬉しかったのだろうか。


 そういえば、私もスズランちゃんに仮の名前だけど付けてもらったっけ。そう考えると私とリオには共通点が多いのかもしれない。まだ理解しきれていないことは多いが、私たちは相棒になっていけると確信できる。


「そうだ、馬術は大丈夫だと思うけど試験の準備は順調かい?」

「副団長の指導のお陰で何とか……でも、正直ついていけてるか怪しいんですよね」


 思い出したように話を変えたセダムさんに、頷きかけたがちょっと迷って首を振る。馬術の訓練と並行して行われている副団長との戦闘訓練、正直思い出したくないくらいに過酷で今までの訓練が甘くすら感じるくらいだ。


「やっぱり指導が厳しい?」

「手合わせではいつもぼろ負けですし、魔法もまだ荒いと指摘されて実力不足を感じてます」


 別に隠すことでもない、素直に悩みを打ち明ける。ユリオプスには副団長のことは相談できないし、対等な友人になりたいと言った手前あまり頼り切りにはなりたくない。

 その点、セダムさんには内容は違えど師事している立場だから少しくらい話しても良いだろう。


「副団長、手加減してくれないもんね。俺も昔、コテンパンにされたよ! あんまり戦闘の才能はないから当然なんだけどさ」

「コテンパンに……」


 困り顔なのも相まって、他の騎士よりも線が細いセダムさんは騎士としては何となく頼りなさを感じる。戦闘が得意でないと言われても納得がいく雰囲気だが、そんな人にも容赦ないのは副団長らしい。


「そうそう、魔物と戦うのだってそんなに得意じゃないし。だから厩舎の管理をしてるんだ」

「それは……」

「あ! 違うよ、俺は現状に満足してるからさ! えっと、カルミアさんは魔物と戦うのはどうだった?」


 無神経なことを聞いてしまったと焦った私に、セダムさんの方が慌てたように声を張り上げた。魔馬たちに掛ける愛情を見れば、その言葉が嘘ではないのは分かる。しかし、どこか上ずった彼の声にざらりとした罪悪感が残った。


「今の所は、不得手という感じでもないです」


 セダムさんの言葉に初めての野外訓練を思い出す。おっかなびっくりに魔物に挑んだが拍子抜けするくらいあっさり勝利を収めることができた。


「副団長が見込んだだけあるね。見習いの時は成績が良くても、実際に魔物と戦おうとすると怖くなっちゃう人もいるからさ」

「副団長も似たようなことを言ってました」


 彼の言うように、戦闘技術に問題がなくても魔物への恐怖が克服できなくて、見習いのままでいることを選択した同僚もいる。

 私も目覚めて直ぐに凶暴なドラゴンに殺されかけたことは、トラウマと言っていいくらい心に傷として残っている。だから魔物を目の当たりにしたら足が竦んでしまうのではないかと、密かに危惧していた。


「何というかあっさりしてるね。俺は手が震えちゃってダメだったよ」

「えっと、実感がないというか……まだそんなに強い魔物と戦っていないからかもしれないです」


 思い出すように自身の手を見ている彼にどう返していいか分からず、とりあえず言葉にしてみるがしっくりこない。

 もう一度、魔物を倒した時を思い起こしてみる。足は震えなかったし、対人戦とは違って本物の剣を手にしていたのに手に馴染みがあって安心感すらあった。


「カルミアさんは魔物に襲われた経験があるって聞いたけど……もしかして、無理してる?」

「いえ、お気遣いありがとうございます。フラッシュバックとかもありませんでしたし」


 副団長に見守られながら、倒した低級な魔物は簡単に息絶えて暫くして跡形もなく灰になって崩れ去った。その様子を見て、こんなものかとだけ思って心が冷えていく感覚になったのがずっと残っている。


 魔物とはいえ命を奪ったのに、なんだか呆気なくてつまらないような自分に存在していないはずの歪な感情が生まれて酷く気持ち悪かった。


「そう? ちょっと顔色が悪いような気がするけど」

「副団長の足元にも及ばないなと考えてたんです」

「大丈夫、副団長に敵う人なんていないから気にすることないよ! 騎士として相手にするのは魔物が多いしさ」


 明るく笑みを作ったセダムさんは誤魔化されてくれたのだろうか。副団長に全く勝てそうにないことを憂いているのも本当だ。

 魔物と戦うよりも副団長と戦っている時の方がずっと緊張感があるし、未だに傷一つつけられてない。それに、探りを入れる隙もなくスズランちゃんとの約束の方も進展がない。


「副団長は最強の騎士ですもんね」

「うんうん。あんまり気に病むのも体に良くないよ」

「ありがとうございます。考えすぎないようにしてみます」


 柔らかく笑って深く頷いたセダムさんに私もつられる形で笑みを返す。少し焦り過ぎだったのかもしれない、穏やかな彼と話しているお陰か心の靄は晴れないものの落ち着きが戻ってきた。


「それがいいよ、あ! 噂をすれば、だね」

「え?」


 目を丸くしたセダムさんの視線の先は私の後ろへ向いている。慌てて振り返れば、誰よりもきっちりと着こなされた騎士団の制服に身を包んだ黒髪の男性がこちらへ向かってくるのが目に入る。まさしく、話題にしていた副団長その人であった。


「カルミア、今日は君に試してもらいたいことがある。セダム、彼を借りて問題ないか?」

「もちろんですよ。カルミアさん、馬術はバッチリですから」


 長い脚であっという間に私たちのそばに来た副団長は、私とセダムさんを見比べるように視線を向けて問いかける。と言っても、だいたいの決定権は副団長にあるため問いの形はしていても強制と変わらない。興味本位で断ってみたい気持ちもあるが、命が惜しいから実現する日はこないだろう


「そうか、では行こう。ついてきてくれ」

「は、はい!」


 既に踵を返した彼に返事をして小走りでついていく。振り返ってセダムさんに頭を下げれば、両手で大きく手を振ってくれた。やはり彼が騎士団の唯一の良心かもしれない。


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