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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀イナリ
1章

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19、年下(?)に脅された

 

「もし本当に僕が犯人だったら、こうやって二人になるのは危険すぎるんじゃない?」

「まあね。でも、ほぼ違うとは思ってたし、もしもの時はアスターお兄ちゃんから貰ったお守りがあるから」


 私の指摘にスズランちゃんは、首からかけていた紐を辿り服の中からお守りと称した見慣れない物体を取り出した。紐が通されたそれは青と紫のグラデーションが不思議な謎の球体だ。


 これで悪人と渡り合えるとは思えないが、得意げに取り出した彼女の様子からすれば見た目以上の性能なのだろう。


「その感じだと、スズランちゃんの言うお守りはただの願掛けじゃないよね」

「当たり前でしょ。魔力をこめると魔法を防げる強いシールドを張れるし、相手を攻撃する魔法も発動する。ついでにアスターお兄ちゃんに居場所が伝わる」

「それは……うん、怖いね」


 特に副団長に居場所がバレるところが……とは言わないが、スズランちゃんも同じ意見なのか私の返事に深々と頷いた。

 直ぐにこの場へ駆けつけてくる恐ろしい副団長は想像しただけで鳥肌が立つ。別に悪いことなんてしていないのに何でこんなに怯えなければならないのか。


「でも、犯人じゃないなら安心していいよ」

「それもそうだね。間違えて起動しないでよ、僕が殺されかねないから」

「気をつけるね。アスターお兄ちゃんに犯人だと思われたら、殺されるだけじゃ済まない拷問が待ってると思うから」

「ひえっ」


 私は入れられたことはないが騎士団には懲罰室がある。そして、何やら拷問器具もあると噂を聞く。死んだほうがマシな拷問ってなんだよ! と思うが恐ろしすぎて内容は聞きたくもない。


 表情を変えないスズランちゃんは、別に冗談で私を怯えさせて楽しんでるわけでもなく単に事実を述べただけらしい。

 情けないことに、クッキーへ伸ばした指先がちょっと震えたせいで掴み損ねた。


「もちろん、元からそんな怖い人だったわけじゃないよ。ロベリアお兄ちゃんが死んだ時から変わっちゃったんだ。初めて会った時も、そっけない感じではあったけど今はそれとも違う。今のアスターお兄ちゃんから感じられるのは、強い憎しみと孤独だけ」

「でも、スズランちゃんには優しいよね。それこそ本当の妹みたいに思ってるように見えたけど」


 僅かな会話を思い返しても、スズランちゃんと話す副団長はいつもより表情豊かに見えた。

 彼女の言うように副団長が憎しみと孤独にだけ囚われているとはどうしても思えない。やるせなさからだろうか、つい反論が口から飛び出した。


「ロベリアお兄ちゃんが死んだことの、罪滅ぼしでそうしてくれてるだけだと思う。私じゃ、お兄ちゃんの代わりになんてならないのにね」

「でもさ、副団長のせいでロベリアさんが亡くなった訳じゃないよね? 仲が良かったから犯人を憎むのは分かるけど、そこまで一人で責任を感じるのは……」


 私の言葉に眉を下げた彼女はゆっくりと首を振る。そして、私から目を逸らして呟くように話す彼女の声は、罪悪感に苦しめられているみたいな苦しさが滲んでいた。


 彼女の言うようにロベリアさんの死の責任を全て抱えているとしたら、それは……。


「うん、アスターお兄ちゃんのせいじゃないよ。強いて言えば、ただ間に合わなかっただけ」

「間に合わなかった?」

「そうだね、そう言えるかな。五年前、お兄ちゃんは異変のあった森に偵察へ行ったんだ。三日後に帰ってくる予定だったけど、帰ってこなかった。だから、アスターお兄ちゃんが捜しに行ったの。でも例の森で見つかったのは、お兄ちゃんの使ってた剣と、血の付いた外套の破片だけ。そして、その近くには凶暴化した魔物の群れがいた」

「……魔物が凶暴化するって前例もなかったなら、打つ手もなかったんじゃないのかな」


 言葉に詰まる。死体も残らなかったと聞いてはいたが、実際に彼女から詳細を語られると下手くそな慰めしか出てこない。

 妙に喉が渇いてティーカップを手に取るが既に中身は空だ。


「もちろん、悪いのは犯人だけだよ。でもね、途中で連絡するって言ってたお兄ちゃんから何も来なかったんだ。その時点で、アスターお兄ちゃんは捜しに行こうとしたんだけど、別の仕事があったから行けなかった」

「その日に、もし森へ行っていたら救えたかもしれないって後悔してるのかな」

「……そう、だと思う」

「副団長に罪はないけど、同じ立場だったら後悔すると思うから気持ちは分かるかな」


 もし、自分に親友でライバルのような関係の人間がいたら。そして、自分の知らない場所で死んでしまったら。

 考えただけでずんと胸が重くなる。そうは言っても、私にそんなバトル漫画に出てきそうな深い関係のライバルと呼べる人や友人はいない。


 それとも記憶を失う前にはいたのだろうか? 深く考えようとすると、なぜか頭がズキンと痛んだ。


「私もアスターお兄ちゃんのことは恨んでないよ。私も何か違う行動をとってたらお兄ちゃんは今でも生きてた、そう考えずにいられないもの」

「過ぎたことはどうにもならない、けど……気持ちはそう簡単に割り切れないよね」

「うん、今も後悔はずっと残ってる。そうだ! 他に聞きたいことはある?」


 スズランちゃんは沈んだ空気を振り払うように明るい声で私へ問いかけた。彼女の言葉に慌てて思考を切り替えるが、ぱっとは思い浮かばない。

 重い話を聞いたのもあるが、副団長のことを勝手に聞いてしまった後ろめたさが後を引いているせいだろうか。


「……散々、聞いておいて今更だけど、副団長のこと話して良かったの?」


 私が無理に聞き出したわけではないが、本当にこれは聞いて良い内容だったのか不安になってきた。ひとまず、副団長にバレたら大変なことになるのは確実だ。


「うん、本当はダメ。ここまで話したのは貴方にお願いがあるからだよ」

「そんな気はしてた」


 スズランちゃんは当たり前のように言ってのける。彼女にとってもリスクのある話をしたのだから何かあるとは思ったが、これだけ堂々とされると逆に安心感すら覚える。


 もちろん、要求次第では軽率に絶望することになってしまうだろうけど。だが、こういう時こそ焦ってはいけない。余裕に見せようと、平常心を意識して彼女に頷いた。


「話が早いね。アスターお兄ちゃんが何か良くないことを始めようとしてると思うんだよね。それを止めろとは言わないけど、何を企んでるのか探って欲しいんだ」

「断ったら?」

「アスターお兄ちゃんにロベリアお兄ちゃんを殺した犯人かもしれないって言っちゃう」


 副団長に探りなんて入れたら、簡単に懲罰室行きでは? とても断りたいが、こう脅されては取りつく島もない。項垂れる私に、スズランちゃんは涼しげな顔で例のお守りを見せてくる。


「それは、お願いじゃなくて脅しっていうだよ」 

「あはは、私は子どもだから難しいことは分かんないな」

「中身は僕とそう変わらなんじゃないの」


 乾いた笑いで、雑な返しをしたスズランちゃんを軽く睨む。都合よく幼さを使っているが、彼女が見たままの年齢でないことはもう知っているため騙されない。実際いくつなのだろう?

 確か、五年前に成長が止まったと言っていたから、この幼い見た目より五歳は上のはずだ。


「カルミアさんは何歳なの?」

「……言われてみれば分からない」

「自分の年齢も分からずそんなこと言ってたわけ? 呆れた。子どもっぽい顔してるし、私のほうがお姉さんかもね」


 スズランちゃんの年齢を考える前に自分の年齢を思い出したほうがいいのかもしれない。

 最近も記憶が戻る気配は殆どないため、実年齢を知るのも遠い未来のことになってしまいそうだ。


「そうだね、スズランさんって呼ぼうか?」

「絶対やめて」


 私の提案を、心底嫌そうな顔でスズランちゃんは跳ね除けた。敬意を込めて呼ぼうとしたのに、酷い嫌がられ方をしてしまうなんて。


「そんな嫌がらなくてもいいのに。さて、話を戻そうか。副団長が何か企んでるとして見当はついてるの?」

「……見当ってほどのものは正直ないよ。私は、知っての通り普段は離れて暮らしてるから。でも、ここ一年くらいで様子が変わったのは確実」


 命がけのスパイ活動が始まるのに、詳細を聞き出そうとすると提案者のスズランちゃんは何だか歯切れが悪く曖昧な答えを返す。


 何となくで命は捨てたくないため、ここはしっかりと聞き出さなくては。

 このままでは副団長に、何か悪いこと考えてるんですか? と直接聞いて一瞬で焼却処分されるか、よく分からないままコソコソ嗅ぎ回って拷問の末消されるかの二択である。


「探るにしてもざっくりし過ぎじゃない? 僕にできることがあるとは思えないよ。もう、スズランちゃんが直接聞いてみたら?」

「私が聞いたってまともに取り合ってくれるわけないでしょ。アスターお兄ちゃんの中だと、子どものままなんだから」

「確かに、全く相手にされなさそうだね」


 彼女の言う通り、副団長に幼いままだと思われてるスズランちゃんが何を言っても子供の戯言として扱われるだろう。


 私も本気で、直接聞けば解決するとは思っていない。あわよくば今からでも断れるかなーと期待して口に出してみたものの、彼女の瞳からは強い意志を感じる。これは、どうにも無理そうだ。


「それに、もし成長が止まってなかったとしても、周りにバレたくない計画だし教えてくれるわけないよ」

「副団長の計画の内容を知ってるみたいな口ぶりだね。スズランちゃんの勘違いじゃないなら、確信に至る何かがあったんでしょ?」


 スズランちゃんは、なぜか明言してくれない副団長の計画の察しがついている様子だ。私に教えてくれないのは、証拠が足りないのか、はたまた別の理由か。


「そう、なんだけど……笑わないで聞いてくれる? これは推測の域をでないし、そのまま話したら子どもがふざけたことを言ってるようにしか聞こえない内容なの」

「笑わないよ。というか命のかかった状態で笑えないって……」 

「はあぁ……本当に笑わないでよ」


 気まずそうに大きな桃色の瞳を泳がせた彼女は、私の返事に大きくため息をつく。そして、覚悟を決めたのか小さく息を吸い込んでこちらに視線を合わせた。

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