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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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14、私のために争わないで!というより

 

「いや、別に何かあった訳じゃねえよ」

「ええ? じゃあ、どうしてここに連れてきたんですか?」

「アンタが面倒なのに絡まれてたから。ここならうるさい奴らはいないぜ」

「あー、前にもあの人たちに絡まれたことありましたもんね。でも今回は、ユリオプスさんの手を煩わせるほどの相手ではなかったですよ」


 ただ気を遣って助けてくれただけというのも何だか納得いかない。本当にそれだけだったら、ユリオプスはもっと目を細めて偉そうに笑っているはずだから。蔵書室にある背の低い椅子に相変わらず窮屈そうに座っているユリオプスはやはりどこか浮かない顔でこちらを見ている。


「ま、そうみたいだな。それより、教育係をサボり魔扱いはどうなんだよ」

「真面目に自主練してるの口止めしてるのはユリオプスさんじゃないですか」

「……そうだけどさ、アンタに言われるのはなんか違うっていうか」


 まさか、あの男たちに適当に同調したのが嫌だったとでも言うのだろうか? 実際、彼が未だに訓練をサボっているのは事実だし自主練をしてることは口止めされている。その状態で、彼がサボり魔だと言われて反論するのはおかしなことだ。自分の主張が矛盾していることは本人も理解しているのか、私の指摘に罰が悪そうにボソボソと返事を返す。


「なら、満を持して皆に言いふらしますね」

「やめろやめろ、オレたちだけの秘密、だろ?」

「もう、よく分からないです! 今日のユリオプスさんはなんか変です」


 だけ、を強調するな! 私は二人だけの秘密などという危険なものは一刻も早く解消したいのに、ユリオプスいたずら気にはにかんだ。意地悪そうな表情なのに目元は緩んでいて何だか甘さを感じる。

 いやいや、元の顔つきがそういう造りなだけだろう。見慣れない表情に妙に恥ずかしくなってきて大きな声で反論する。


「変? オレが?」

「言ってること滅茶苦茶ですし、本当は僕に何か用があったんじゃないですか? それか言いたいことがあるとか」

「言いたいこと……。なあ、最近……アンタさ」


 見開かれた空色の瞳には驚きが浮かんでいた。呟くような彼の疑問に質問を重ねる。すると、右上に軽く視線を向けたユリオプスは何か言いかけて言葉を切った。どうやら私に何か物申したいらしい、そこまで言われたら気になるじゃないか。


「何ですか?」  

「魔法上手くなったじゃん」

「……そうなんですよ、何も使えなかったときに比べたらすごい進歩です」


 なにかしら文句を言いたいのかと思ったが、ユリオプスから発されたのはただの褒め言葉だった。身構えていた分、想定しない称賛に拍子抜けて返事が遅れる。彼の言うように、最近は問題なく魔法が使えるようになってきたため謙遜はせずに頷いた。


「オレもどやされずに済みそうで良かったぜ」

「共倒れはごめん、ですもんね」

「調子乗るなよ。ま、もうちょっとだけ面倒見てやるよ」


 以前のユリオプスの言葉を借りた私に彼は呆れ顔になったが最後はいつも通り偉そうな態度で笑った。表情とは裏腹に彼の声にどこか切なさが乗っていた気がしたが、私も知らないフリをして笑い返す。この時、誤魔化されずにしっかりと話を聞いておけばこんな面倒ごとに巻き込まれずに済んだのかと、今なら思うが後悔先に立たずである。




「怠惰な貴様がこの場所にいるとは。一体何を企んでいるのか聞かせてもらいたいものだな」

「御多忙で優秀な副団長サマこそ修練場など似つかわしくないのでは?」


 睨み合う成人男性二人、穏やかさの欠片もない嫌味の応酬。今の状況を一言で表すと修羅場だろう。静かな筈の修練場はピリピリとした空気に包まれており、ここに立っているだけで体中に緊張が走る。

 私が想定していた最悪な出来事のうちの一つがまさに今起きているのだ。お互いの存在がどうやら地雷の副団長とユリオプスが共存する空間には絶対に近寄らない、そう決めたのに不可抗力で巻き込まれている。


「私が忙しいと分かっていながら邪魔をするつもりか。貴様に何の得がある?」

「アンタには関係ないだろ」

「ああ、貴様のことはどうでもいいさ。用があるのはカルミア、君だ」


 二人の会話をひやひやしながら聞いていると流れ弾が飛んできた。切実に私のことは放っておいて欲しい。ただユリオプスと日課の自主練をしていただけでこんなことに巻き込まれるなんてあんまりじゃないか。少し前までは平和に訓練をしていたというのに、唐突に現れ乱入してきた副団長によりこの場所は地獄と化した。こんな空気感では口が引き攣って上手く言葉を返せない。


「はぁ? 最近やけにちょっかい出してると思ったら、こんな時間にまで何の用だよ」

「さて、カルミア今から君の特訓を始めようと思うが問題ないだろう?」

「問題しかねえよ! 見ての通りコイツはオレと自主練してるわけ、アンタの出る幕はねえんだよ」

「はあ……頭だけでなく耳まで悪くなったか? それとも言葉がわからないのか? 貴様の意見は聞いていないと言ったはずだ」


 私が副団長に返事をする前に不機嫌そうにユリオプスが口を挟む。副団長も彼に比べたら、声のトーンは至って冷静だが、いつにも増して人を殺せそうな鋭い視線から苛立ちをヒシヒシと感じる。

 いかにも、私のために争わないで! っていうよくある展開に見えるが多分違う。これは、日ごろの鬱憤を晴らしたいがために私という存在をきっかけに喧嘩しているだけだ。


 これは帰っていいんじゃないか? 飛び火でもされたらひとたまりもない、こっそり帰っても今の二人には互いしか見えていないだろうからバレない気すらしてきた。


「団員の話を聞けないなんて副団長の身分で独裁気取りか? アンタはいつもそうやって、人を見下してばっかだな」

「下にいる者を正しく下にいると認識することに何の問題がある?」

「そいう態度が気に食わないんだよ。昔からその傲慢さは何も変わってないな!」

「もういいか? 貴様の感情任せの詭弁にはうんざりだ」


 やっぱり帰らせてくれてもいいんじゃないか? ちなみに彼らの仲が最悪なのは騎士団でもよく聞くものの、未だに不仲の詳しい理由は知らない。普段は互いに関りを避けているようでこんな光景は初めてだが、二人が話しているといつも険悪だと噂に聞くため絶望的に相性が悪いのだろう。それか、過去に二人に何かあったか。これは気になるものの首を突っ込むとろくなことにならないパターンなのが見え見えだ、知らないフリをしよう。


「そもそもオレはアンタの言葉に納得していない。なあ、ソイツの教育係はオレだろ? お忙しい副団長サマがわざわざ手を出す必要があるか?」

「教育係の貴様では彼の力を引き出せない」

「な、にを……カルミアは文字だって読めるようになったし、体術だって他の騎士にも劣らない」


 平行線だった言い合いに少し変化があったようだ。副団長の言葉にユリオプスがやや動揺した様子を見せた。前に副団長はユリオプスの指導が悪いせいで魔法が使えないのだと言っていたが、彼を目の敵にしているゆえの暴論だと思っている。

 副団長に魔力を流されてから直ぐに魔法を使えるようになったのは事実だが、私の事情が複雑なためユリオプスの指導に問題があったせいとは言い切れない。


「まさか、それが貴様の指導のおかげだとでも言うつもりか? ひとえに彼の才能によるものだ。現に、魔法の才があるはずの彼が魔法を使えなかったのは貴様の落ち度だろ? 私が少しきっかけを与えれば簡単に彼は魔法に適応した、君に原因があるとしか思えない」

「そんなわけ、オレは……」


 言葉を詰まらせユリオプスは俯いた。悲痛そうな横顔に何か言葉を掛けたかったのに言葉が何も出てこない。ユリオプスだって、私に魔力を流して感覚を掴ませようとしてくれたが体調のことを考えてやめてくれたのだ。副団長はそんな彼を冷徹な瞳で見下ろしている、喧嘩は治まったようだが空気は相変わらず地獄のままだ。


「さて、もういいだろう。カルミア、ついてくるといい」

「……待て、アンタはどう思うんだよ?」

「諦めがつかないか。ならば君の意見を聞こうか、カルミア。まあ、答えは分かり切っているがな」

「え……?」


 二人の視線がこちらを向く。

 余裕そうに口元を釣り上げた副団長と顔つきはいつも通りに見せかけようとしているがどこか不安げに瞳を揺らすユリオプス。そして、唐突に向けられた矛先に動揺が隠せない私。緊張からか乾燥した口では上手く言葉を紡げない。


「え……と、そうですね」


 なんと答えようか。どちらの意見に賛同しても角が立つ。まるで二人のどちらを選ぶか迫られているような状況だ。あ、もしかしなくてもこれは、乙女ゲームあるあるのルート分岐では!?

 余りの気まずさに思考が止まりかけたが、冷静に考えればこの状況は共通ルートを終えた後に起きる、誰を攻略するか決めるイベントのような展開だ。


 副団長は広告で見た選択肢を間違えると殺されるシーンを既に終えているが私を瞬殺できる炎魔法の使い手。そして、クール系みたいな雰囲気を出しておいて強引オレ様系だ。

 ユリオプスは選択を間違えると壁ドン後に絞殺されるという恐ろしい展開が広告にあるがまだ回避していない。無気力チャラ男系あるあるの重たい過去も判明しておらず危険性は高いものの、私はそこまで彼の人間性に不信感を持っていない。さて、どうしたものか。


「さ、三人で訓練をするのはどうでしょう!」


 意を決して大声で叫んだ。私はどちらとも恋愛する気はない! ならば答えは一択、明言を避けどちらも選ばない! 


「は?」

「はあ?」

「ひぃっ!」


 うわああ、絶対間違えた! ドスの利いた声を上げた二人は恐ろしい視線で私を睨んだ。選ばない! はダメだったのだろうか、どちらかを必ず選ばないと殺される的な最悪な展開なのか。射殺すような青と紫の瞳に耐え切れず震える足で二、三歩後退る。


「あ! アスターお兄ちゃん! それにユリオプス君!」


 そんな生命の終わりを悟りかけた私の耳に飛び込んできたのはこの場に似つかわしくない明るい少女の声だった。声の方を振り向けば、もはや懐かしさ感じる見知った少女がそこにいた。


「スズラン!? どうして君がここに」

「す、スズランちゃん?」

「えへへ、来ちゃった! こんばんは!」


 副団長も分かりやすく驚きの声を上げたが、茶髪の可憐な少女は気にした様子もなくにこにこと笑った。ユリオプスとも面識があったのか彼も信じられないものを見る目で彼女を見ている。二人に挨拶を終えた少女の大きな桃色の瞳が私を認識した。すると、ぱっと瞳を輝かせてこちらに駆け寄ってくる。


「あ! カルミアおね……」

「わ、わー! スズランちゃん、久しぶりだね!! お兄さんもスズランちゃんに会えてうれしいなぁ!」


 ユリオプスの前でお姉ちゃんと呼ばれかけたため大声で相殺する。駆け寄ってきたスズランちゃんに半泣きで抱き着いた。

 先程までの処刑ムードは鳴りを潜め、現在は半泣きの私を抱きしめるスズランちゃんとそれを唖然とした顔で見つめる二人というカオスな空間になっている。

 まだ神は私を見捨ててなかったらしい、いまいち知らないこの世界で信仰されている女神に心の中で精いっぱいのお礼を述べた。


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