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詐欺ヒロインの生存戦略 〜選択ミス=即死亡の乙女ゲームに転生したら、攻略対象全員に執着されていた〜  作者: 夜銀リィナ
1章

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13、容赦ないスパルタ教育

 

「ここでやるんですか?」

「ああ。今日は簡単な魔力の説明だけになるだろう、ここで問題ない」

「分かりました」


 副団長室はそこそこの広さはあるものの、室内である以上ここで訓練などできるのかと疑問に思ったが、説明を聞く程度なら問題ないだろう。それに私は魔法なんて使えないのだから誤って何かを壊す心配もない。


「攻撃魔法を使うというのは体内の魔力を一点に集中させ外に放つ感覚だ。君の場合は氷魔法になるだろうから、そのイメージもできれば成功しやすいだろう。まずはやってみてくれ」


 副団長の話に頷いてみたものの全く分からない。魔法のイメージは騎士団の人が実践訓練の時に使っていたのを見たことがあるため何となくできるが、魔力を集中させるというのはできそうにない。そもそも体に魔力があるという感覚を理解できていないのだ。


 この世界の人間には多かれ少なかれ魔力と呼ばれる魔法を使うためのエネルギーのようなものがあるらしい。その量が多いほど強い魔法を使え、少ない人は練習したところで使えるようにはならないだとか。聞き慣れない単語にうんうん唸りながら読んだ本に載っていた内容のため間違って解釈している可能性もある。


「すみません、やはり使えないようです」

「どうやら君は、魔力を動かせていないようだ」

「そうですね。いまいち感覚が分からないです」


 首を振った私に、想定通りだったのか特に失望した顔もせずに副団長は答えた。どこにあるか分からないものを動かすことはできない、彼の言葉に同意する。


「では、君に少し魔力を流そう。他者から流される魔力は違和感があるだろうが、その分魔力の流れを感じやすい。自分の魔力の流れを把握する練習になる」


 副団長は短い逡巡の末、何やら難しいことを言い始めた。何を言っているか分からないと考えることをやめそうになったが、よく考えてみたら前に聞いたことのある話だ。

 たしかユリオプスが言ってた……待って、ということは……まさか! 思い至った私は焦って顔を上げる。拒絶する前にがっちりと掴まれた副団長の手から私の中に何かが入ってくる。


「……うう、体の中がグルグルして気持ち悪いです」


 こうなると思った。私の体の中で何かが蠢いている。胃がせり上がってきてうっかり戻してしまいそうだが、ここは団長室である。間違って吐きでもしたらどんな目に遭うか。ユリオプスが言っていた話はこれだったのだろう、想像の何倍か気持ち悪い。


「君の体が私の魔力を拒否しているからだ。感覚を研ぎ澄ませ、魔力の流れを掴めるはずだ」

「うぐっ……」


 苦しむ私を無感情に観察している副団長は淡々と説明を口にする。この人、心とかあるのだろうか? 湧いてきたどうでもいい疑問を振り払い、何とか体へ意識を向けるとそれに伴って気持ち悪さも増していく。しかし、さらに神経を注ぎ込むと不思議な感覚になってきた。あと少しで何か掴めそうな気すらする。


「はぁ、はぁ……あれ、治まった?」

「微量な魔力だから直ぐに消えたのだろう。魔力の流れは感じ取れたか?」

「何となくそれらしいものは感じました」


 先程までの吐き気がする程の気持ち悪さは消えたが息は上がったままだ。あんなに苦しかったのに微量だったのか、と副団長の言葉に血の気が引いた。だが、当の本人は変わらず事務的な様子だ。彼の問いかけに少し迷ったものの肯定の意を返す、自信はないが何かを感じ取れそうだった感覚はある。


「そうか、やはり君は呑み込みが早い。忘れないうちにもう一度魔力を流す。先程より強いが、まあ、大丈夫だろう」

「え、それは待って……おぁ、う、うぇ、うぐっ」

「気をしっかりもて」


 本当に容赦がない、私の意思は問わずにまた魔力が流される。先程よりも更に気持ちが悪く異物感がある。吐くギリギリだが何とか持ち直して意識を強く保つ。

 目を瞑り、大きく深呼吸すれば気持ち悪さは治まりただの違和感になっていく。体を駆け巡る魔力、だんだんと流れが掴めてきた。今、どこに副団長の込めた魔力があるかはっきりと認識できる。知らないはずの感覚なのになぜかひどく懐かしい。


「その様子だと、どうやら変化があったようだな」

「はい、これが魔力かは分かりませんが何か掴めた気がします」

「改めて氷魔法を使ってみてくれ、先程とは感覚が違うはずだ」

「分かりました」


 静かに目を開ければこちらにやや関心がありそうな目を向けた副団長と視線が合う。彼の言うように、明らかに魔力とやらを掴んだ感覚があった。もう副団長の魔力は消えたが、今も体に以前は感じ取れなかったエネルギーが流れているのが分かる。これが私自身の魔力の流れだと不思議と確信できた。


「……うわっ! な、何?」


 副団長に言われるがまま氷魔法をイメージする、そして右手に全身のエネルギーを送るように力をこめる。右手に力が集中する感覚とともに、視界が眩しくなり思わず目を閉じる。この光は、魔法適正を調べた時に見たクリスタルの破片が発した強烈な光と似ている。


「ほう、想像以上だ。目を開けるといい」

「こ、これは……?」

「君が放った氷魔法だ」


 副団長に促され瞼を開くと目を疑う光景が広がっていた。床から天井まで凍り付いた副団長室はまるで知らない部屋だ。自分がやったこととは到底思えないが、何度瞬きしても景色が変わることはない。

 魔法が使えたことは喜ばしい。ただ、魔法を使えない前提で副団長室で訓練を行ったはずだ、つまりこれは……。


「部屋が氷漬けに……弁償とかって」

「問題ない」


 そう言うと手を振りかざした副団長は一瞬で氷を溶かした。部屋は元通りで先程の氷も夢だったのかと思うほどだ。部屋を荒らした責任をとれ、なんて言われたら見習いの給料ではどうにもならなかっただろう。分かりやすい安堵の息が漏れた。


「今のはコントロールが効かなかったのだろう、一度使う感覚が分かれば後は簡単だ。細かい調整はこれから覚えいけばいい。疲れただろう、今日はここまでにしよう」

「はい、ありがとうございました」


 魔法を使った高揚で忘れていたが、魔力を流されたことによる体力消耗は思ったより激しかったらしく疲労感が襲ってきた。副団長に挨拶をして速足で自室へ向かう。私が魔法を使えたなんて夢心地になりそうなはずなのに妙に実感がある。


 私という人格が持っている記憶はこの世界のものではない。だが、私は魔法を使う感覚を確かに知っていた。だから今日、感じたものは記憶を失う前の人格の記憶が僅かに戻ったと考えられる。


 体にこの世界の情報が一切残っていなかったから、私が元の人格を完全に上書きして消してしまったのかと思っていたが魔法を使う感覚に既視感があった以上それも違うのだろうか。上手くやれば記憶もこの体の本当の人格も取り戻せるかもしれない。副団長が前に言っていた、魔法の使い方を思い出すことで記憶に刺激がいくかもしれない、という話も現実味を帯びてきた。


 ローブも脱がずに硬いベッドに倒れ込む。考えなければいけないことは多いのに眠気が強く頭が回らない。日は落ちて外はすっかり夜の暗さが広がっている。丁度夕食の時間だろう、けれど今日は何度も吐きそうになったせいで食欲もわかない。疲れに身を任せ目を閉じた。


 それから何度か副団長に呼び出され魔法の研鑽を積む日々が続いた。記憶の方に進展はないが、実戦訓練では氷魔法が使えるおかげで前よりも勝率が上がり騎士団の人にも舐められないようになってきた。ただ、副団長に呼ばれるせいで最近少し面倒なことになっている。


「お前さぁ、副団長に気に入られてるからって調子に乗ってるだろ」

「まさかお前みたいなガキが騎士になれるなんて思ってないよな?」

「そんなことはありません。気に入られてもいませんし調子にも乗ってないです」


 こういう輩に絡まれることが増えたのだ。荒っぽい声に振り向けば、いつだか絡んできたゴロツキみたいなガタイのいい男と何だか気味の悪い表情を浮かべた細身の男がいた。後から知ったが彼らは訓練をサボってばかりで態度がでかい割には大した実力はないそうだ。


「せっかくだ、俺たちがお前の本当の実力をみてやるよ」

「実践訓練は先程終わりましたが」

「残って自主練したっていいだろ。なんだよビビってんのか?」

「……分かりました、お受けしましょう」


 挑発を受けるのも不本意だが、毎度こうやって騒がれても面倒だ。ユリオプスに教えてもらった剣術と安定して使えるようになってきた魔法なら負けることはないだろう。

 前はユリオプスに助けてもらったが、今なら自分だけであの時の恨みを晴らせる。木刀を構えてガタイの良い男に向き直る。ヘラヘラとした顔でこちらを見る男は隙だらけだ。細身の男の声を合図に斬りかかる。


「うがっ! げほっ、お前っ!」

「これで満足ですか」


 がら空きの脇腹に木刀を叩きつけると男は簡単によろめいた。その後も雑な動きで反撃してきただけで攻撃を受けることはない。相手の攻撃を避け、とどめを刺せば大柄の男は勢いよく倒れ込んだ。普段ユリオプスや他の真面目に訓練している騎士と手合わせをしているのだからただのサボり魔に負けるはずもない。


「お、お前、調子に乗るなよ!」

「乱入はルール違反ですよ」


 大声を上げ乱入してきた細身の男ともども魔法で凍らせる。彼らは氷魔法の耐性が大して高くないのか簡単に凍りついた。魔法の調整も副団長のスパルタ教育のおかげでだいぶ安定してきている。氷魔法以外は使えないが先頭の面だけを考えたら十分だ。


「おまえ、いつの間にそんな、魔法だって使えなかったし」

「何かずるい手を使ったんだろ!?」

「訓練に励んでいるのだから当然でしょう。あなたがサボっている間も僕はずっと参加してきたのだから」


 顔以外を氷で覆えば抵抗一つできなくなった二人は先程とは打って変わって青ざめた表情で文句を言い始める。私が見習いになってから彼らが実践訓練に参加しているのを見たのは今日で二回目だ。


「それを言ったらお前の教育係だってサボってるじゃないか」

「たしかに」


 サボりと言えばユリオプス、がこの騎士団の共通認識なのは変わっていない。彼が陰で必死に努力しているのは私しか知らないままだから当然と言えば当然だ。口止めを食らっているため男の言葉に頷く。


「ちゃんと否定しろよ、教育係サマに酷い態度じゃねえか」

「げっ、ユリオプス! なんでお前がここに」

「コイツを探しに来たんだよ。もう、用は済んだだろ。じゃあな」


 いつの間にか後ろに来ていたユリオプスが話に割って入った。この訓練の時間は絶対にサボっているのに何の気まぐれだろうか、なんて考えているうちに男たちに一方的に別れを告げた彼に腕を引かれる。そのまま大人しくついていけば、見知った蔵書室に連れていかれた。背の高い彼を見上げると、何だかいつもより不安そうな頼りない顔をしている。その表情には気づかないふりをしてわざと明るく問いかける。


「こんな時間に珍しいですね、何かあったんですか?」


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