河辺のラブストーリー
しいなここみ様『500文字小説企画』参加作品です!
あの日の思い出は今も鮮明だ。
河辺の道を歩く君の斜め後ろを、歩調を合わせながら歩く。誰の声も聞こえない、学校帰りのその道は、僕たちにとって一番大切な時間だった。
そこで君は、他人に見せない色んな顔を見せてくれた。
怒った顔も、泣きべそ顔も――
だから君と離れた今でも、僕は川のせせらぎを聞くたびに、君の事を思い出すんだ。
まだ待っているって知ったら、君は驚くかもしれないね。
でも、この河の流れに耳を澄ませていれば、いつかきっと再び君に会える。
僕にはそんな確信めいたものがあった。
* * *
82年の天寿を全うして、私は逝った。
色んな事があったけど、今となってはいい人生だったと言い切る事が出来る。
特に私と添い遂げてくれた夫には、感謝してもしきれない。過去のトラウマで男性不信になっていた私の事を、その優しさで包み込んでくれた。
先に逝ってしまってごめんね。
河が見えてきた。
三途の川だろうか。
その激しい水音が、無性に私の心を乱す。
そこに『あの男』がいた。
「なんで……?」
私は言葉を失う。
学生時代、薄暗い河辺の帰り道で私に付き纏い、消えない恐怖を植え付けたあの男が目の前にいる。
「やっと会えた」
男は粘つく笑顔を私に向けた。
死して訪れる、最悪の再開。