表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

第7話 むかしむかし

『あなたはとっても優しいなのに、見た目が怖いからみんなから恐れられてる』


 そう言ったのは人間の女だった。まだ嫁入り前の若い女。


 鮮やかな黄色い髪に肌が白く小柄で体が細くて、丈夫な造りをしていなかった。


 我がひとたび吹けば簡単に吹き飛びそうな体だった。


 そんな人間が我に対して憐れんだ。

 我は大いに笑った。何百年生きてきて、格下の人間に憐れまれるとは思いもしなかったからだ。


 人間はいつも我を恐怖の対象としか見ていなかった。それが正しくて正常だ。


 だが、我が笑ってもあの女は笑わずにただただ悲しそうだった。


 全くおかしな人間だ。だから我は――

 全ての種族を抹殺しようと思ったのだ。


「――いらぬ夢だな……人間になったせいか」


 目を覚ませば、ベッドの上にいた。あの後、意識を失って眠っていたようだ。


 ティアマトはベッドの端に頭を乗せてぐっすりと眠っている。眠りながらも、我の手を握り締めている。


 外は暗くなり、ロウソクの光だけが部屋を灯している。長い間、気を失っていたみたいだ。


 ティアマトの顔を見ると涙で目が赤く腫れている。


 無償に喉が渇く。今でも体の熱が消えない。

 右手の甲が一段と熱く感じる。


 見ると肌の色が黒く変色している。あの時、炎を放つために右手に熱を込めたからか?考えてみれば、本来の我の力を使って異常をきたさないことの方が不自然だ。我の炎は呪いの炎、その炎は全ての種族を苦しめてきた。

 当然人間もだ。


 人間の体を持ちながらこの力を使えば当然我にも反動が来る。その方が自然だ。

 息を切らしながら、一階に降りる。


 一階に降りると、椅子に座っている老婆の後ろ姿が見えた。


「老婆、水をくれ……」


「あら、リュウちゃん。お目覚めかい?」


「ちょっと待ちな」と言って、老婆は器に入った水を持ってくる。


 その水を一気に飲み干す。喉の渇きが少し収まった。


「それと私のことは老婆じゃなくてメリーおばさんね。やっぱり、おばさんは嫌だからメリーでもいいわよ」


「呼び方などどうでもいい。こんな夜更けに何をしていたのだ」


「これね、大切な人から貰ったものなの。これを見て昔の頃を思い出してたのよ」


 そう言って首にかけた翠色の小石を眺める。老婆はどこか懐かしそうに穏やかな眼差しでそれを見つめている。


「私の宝物だと」老婆は微笑む。しわだらけの顔が余計に目立つ。


 人間の心は分からないものだ。食べられもしない、何も役に立たない、そこらに転がっている石ころと同等のものを宝物だと言う。


「リュウちゃん、ちょっと椅子に座りなさい」


「なんだ?」


「いいから」


 仕方なく老婆の指示に従い椅子に座る。対面席に老婆も座り出す。


「むかしむかし、あるところに一人の愛らしい少女がいました」


「ちょっとまて。誰が昔話をしろと言った」


「その少女は早くに両親を亡くし、小さな村で祖父との二人暮らしを送っていました」


「おい無視するな」


 その後、老婆は長い長い昔話を語っていくのだった。目が冴えて眠れないので暇つぶしに聞くことにしてやった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ