第26話 魔族の国
その後、我らは町に戻る前に魔族の国を見て回ることにした。
魔王フィランはもてなす気満々でいたのだが、イトナは誤解を解く為には早く弁明する必要があると告げた。
せっかくだからと帰り際に糸目に国の様子を案内してもらうことになった。
魔王フィランが人間が居ると騒ぎになるからと、我とティアマトとイトナはフード付きのマントを被らされた。
そして今、この国では有名な場所だと言う、出店が連続に並ぶ道を歩いている。
「ここには様々な店が並んでおります。何でもお好きな物を言ったください」
王都と比べると少しばかり貧相だが、個々の魔族が生き生きとしていて活気に溢れている。
「おい!糸目!我はあれがいいぞ!」
丸太な骨付き肉を焼き煙をまき散らす屋台を発見する。見ただけで食欲をそそられる。
糸目は「分かりました」と素直に骨付き肉を買ってくる。
指を指せば簡単に手に入るとは気持ちが良い。
肉からはみ出した骨を持ち被りつく。
「美味い!美味いぞ!」
思わず声に出るほどの美味さ。久しぶりに肉らしい肉を食べた気がする。
感動さえする。次々と肉の塊を頬張る。
「イトナさんもティアマトさんも何か欲しい物があれば言ってください」
「いや、そんな助けて頂いたのに悪いですよ」
「そうだぞ、遠慮なく貰っておけ」
「君は少し遠慮を覚えるべきだ」
イトナは睨みを効かせる。我も負けじと対抗する。どちらも一歩も引かない中、ティアマトが一方向を見つめていることに気がつく。
「ティアマトどうした?」
「い、いえ!何でもありません!」
ティアマトが見つめていた方には、丸眼鏡を掛けた魔族の老婆が構えている出店がある。
紫色の布を敷き上には木の板を掘ったお面が存在感を放っている。
「なるほど、あのお面が欲しいんだな。糸目、アレをティアマトに」
「何を言っている、そんなもの欲しい訳ないだろ」
我の言葉を否定し、イトナはその店に歩き出す。何の躊躇いもなく、奥にある品を指さす。
「すみませんが、これを一つお願いします」
イトナは糸目に注文して、ソレを手に入れる。
「これが欲しかったんだろ?」
イトナの手には曲線状の桃色の細長い板の様な物がある。板の上には白色の作り物の花が飾りとしてある。
ティアマトは恥ずかしそうに俯きで小さく頷く。
「な、なんと……それはどうやって使うのだ?」
「こうするんだ」
イトナは曲線状の桃色の板をティアマトの頭に乗っける。曲線状の板はティアマトの頭にピタリと合わさる。
「なるほど、そうやって使うのか」
「まあ、竜に分からないのは当たり前だろう」
勝ち誇り得意げな顔をするイトナ。
「何故、お前は分かったのだ」
「それはその……乙女心というやつだ……」
イトナは歯切れの悪い返答をする。乙女心とはよく分からんが、性別が同じだから何か感じるものがあるということか?
「どうですかね?竜王様、変ですかね?」
「ああ、変では無いがそれを付ける必要はあるのか?」
「おい!竜王!お前と言う奴は!」
そう言って殺気の立った形相で我を睨み付ける。何故怒りの表情を示しているのだろうか。逆撫でるようなことを言ったとは思えないが。
「ティアマト、竜に人間の感性は備わっていない。気にすることは無いさ、とっても似合っていて可愛いからな。さぁこんな奴はほっといて行こう」
「あっ、はい」
イトナは我を一瞥した後ティアマトの肩に腕を回して、歩き出す。
「イトナさん、ありがとうございます。イトナさんはこういう物付けないんですか?」
「あー、いいんだ。付けたところで私に似合わないことは分かっているからな」
「そんなことないですよ!イトナさん綺麗なので絶対に似合いますよ!そうだ!これから探しに行きましょ!」
ティアマトがイトナの手を引っ張り駆け出す。
「えっちょっと!」
イトナは戸惑いながらも嬉しそうな表情をしている。
……あれ?我、置いてきぼりなのだが。
まぁ、いいか。我に分からぬことをイトナなら理解できる。それはきっとティアマトを喜ばせるものだ。
ティアマトに家族と呼べる者は誰一人いなかった。
まるでイトナを実の姉のように慕い、微笑むティアマトの姿は幸せそのものだと思った。




