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第25話 かたち

 目が覚めて知らない天井が映る。またまた気絶をしていたみたいが、ここはどこだ?


 体を起こすと至近距離に逞しい男の顔が映る。


「うわあ!な、なんだお前!」


「お、目を覚ましたか。ちょっと、まってろ」


 確かこの男は人質を助けた魔族だ。魔族は部屋を出て左通路を曲がる。


「おおーーーい!チビのイシキがもどったぞーーー!」


 姿は見えないが通路でバカデカい声量で魔族が叫ぶ。


「誰がチビだ!」


 すると次第に大きくなる通路を走る音が聞こえる。


「竜王様!」


 ティアマトが小走りで部屋に入って来る。我に駆け寄るティアマトがつまずく。


 前に転びそうになるティアマトを抱きかかえる。自然と自分の体が動いていることに驚いた。


「あっ!すみません!」


「全く慌ただしい奴だな」


「ほんとうによかったです。お願いですから、もう離れないでください」


 安堵した表情を見せ我の胸に顔をうずめる。ティアマトの抱きしめる力が少し強まる。


「ああ、分かった」


「せっかくいいところを邪魔するようで悪いのですが、竜王エンディグス様、魔王様がお呼びです」


 咳払いをして現れたのは糸目の魔族だ。


「魔王?魔王はあのルブードって奴じゃないのか?」


「いえ違います。ルブードは魔王を名乗っていただけです。そのことについても魔王様から説明がありますので来て頂けますか?」


「分かった。すぐ行こう」


 筋肉隆々の魔族と糸目の魔族は人質となった人間を助けていた。敵対関係にある種族を助けるなど普通はあり得ないことだ。


 コイツらの王は話が通じる相手かもしれない。


 糸目の魔族と筋肉隆々の魔族に連れられて部屋を出る。


 細長い通路を歩き階段を登る。種族の王が住む場所としてはいささか貧相な気もする。


 最上階の扉、どうやらこの先に魔王がいるみたいだ。


「魔王様、竜王エンディグス様とティアマト様をお呼びしました」


 糸目の魔族は扉を軽く叩いてドアノブを捻る。


 魔族の王、一体どんな奴が――


「よっすー!僕の名前は魔王フィラン!」


 え?よっすー?


 扉の先には机に座り、魔王フィランと名乗る若い男。黒髪で中肉中背で見た目も特徴も無く、至って普通。


 何というか魔王というオーラが無い。これなら横にいる筋肉隆々の魔族の方が魔王の称号が似合うまである。


「えっと……よっすー!」


「いや、我の名は竜王エンディグスだ」


「わたしはティアマトと言います」


「知ってるよ!君たちの名前を言ったわけじゃないよ!挨拶だよ挨拶!」 


 魔王は机を叩いて立ち上がり否定する。


「魔族の挨拶は独特なのだな」


「魔王様、魔族全体のイメージ落とすようなことやめて頂きたいです」


「ごめんね!僕が悪かったよ!」


 なんだか騒がしい奴だ。とても王に必要な素質を兼ね備えているとは思えない。


「助けて頂いたのに失礼だぞ、竜王」


 長椅子に座っているイトナに気がつく。我より先にこの部屋に案内されていたようだ。


「イトナ、お前までいたのか。そうか、倒れた我らの治療をしてくれたのか。そういえばメリーはどこにいったのだ?」


「竜王様、メリーさんは町に残りました。混乱状態にある町の皆さんをほっておけないと言っていました」


「そうか。では魔族の国に来たのは我らだけということか」


 町の半壊から見て怪我をした人は多くいたはずだが、それよりも魔族を信用できなかったのだろう。


「魔族は凶暴で極悪といった悪いイメージが付き物だからね。仕方ないよ。今の挨拶もそんなイメージを和らげるために考えたものだったんだけど、今回の件で魔族の偏見はさらに強まるよね」


 魔王フィランは深く溜め息を吐く。確かに魔族は凶暴で極悪といった言葉が当てはまるが、目の前にいる魔王フィランはその言葉とは反対になんだか頼りなく弱弱しい感じだ。


「今回町で起きた魔族の襲撃は魔族全体の総意では無いということですか?」


 そうイトナが聞く。


「そのことについても説明するね。竜王エンディグス君とティアマトさんも座って、長くなるからね」


 魔王の言う通りに我とティアマトも長椅子に座る。


「七五年前、竜王エンディグスが滅んだ。その後不思議な事が起こった。人間とエルフと魔族、長く続いた争いも竜王エンディグスの滅びと同時に終止符が打たれた」


「一時休戦だったのではないのか?何故争いが再開しない」


「不思議だよね。共通の敵を見出して変な仲間意識が生まれるなんてさ。他の竜もそうだけど中でも竜王エンディグスは強すぎだ、圧倒的なほどに。戦場は常に死と隣り合わせだ。休戦が長期化しすぎたのもあるけど、共闘したが故に生まれた感情だよ」


 我の死後そのようなことがあったのか。では何故今の様な敵対関係に変わってしまったのだろうか。


「竜の時代が終わった直後、人間とエルフと魔族は確かに共存の道を辿っていた。けれど、当然共存という選択に納得のいかない者もいて反乱活動の様なものもしばしばあった。そしてある日事件が起きた。反乱魔族の一人があるエルフを殺した。反乱活動では初めての殺害だった。それを知った女王ベネディは全魔族を危険視して国から追放した。僕ら魔族は荒野を彷徨い、飢餓に喘ぎ苦しんできた。一から自分たちの国を作ろうと奮闘し、やっと安定した生活を確立することができた。でも恨みの根は深くて一部の魔族たちは力による革命を起こそうとした。自分たちが種族の頂点に立つためにね。いつしか過激派魔族と呼ばれる集団が出来上がり、この国を出て雲隠れをした。彼らの存在を確認した時には勢力が大きく拡大していた。だから諜者ちょうしゃを忍び込ませて彼らを止める機会を伺っていたんだ」


 ルブードとやらが自称魔王で、後ろにいる糸目と筋肉が回し者だったということか。


 魔族が国を離れたことで人間、エルフ、魔族の三種族のバランスが崩れた。それにより、今の様なエルフ中心の世界へと変わってしまったということか。


「君たちを危険に晒してしまったこと本当に申しなかった」


 魔王は立ち上がり席を離れて、頭を下げる。糸目と筋肉もそれを見て頭を下げる。


「我は竜だから許すも何もないが……」


 イトナの方に視線を向ける。


「どうか頭を上げてください。今回の件で魔族の方々を責められる者は誰もいません。一部の魔族が暴挙に出たのは私たちの責任でもあります。私からも今回の件で誤解が広まらないようにきちんと伝えていくつもりです」


「イトナさん、心から感謝する。あなたの様な人がトップだったら話も進みやすいのだがね」


 その光景を見てティアマトが微笑む。


「何が嬉しいんだ?」


「なんだか、見えた気がしたんです」


「見えた?」


「はい、平和のかたちです」


 平和のかたち……。もしかすれば、イトナが目指す種族の壁を越えた世界は絵空事ではないのかもしれない。関わらずに相手を理解することはできない。ゆっくりではあるが、一つ一つの関わりが平和の世界をかたち作るのだろう。


「ところで何故君は竜王エンディグスと名乗っているんだい?」


 魔王フィランが不思議そうに聞く。


「うん?我が竜王エンディグスだからだ」


「そういう設定なのは分かるけど、何故邪竜の名を名乗るの?」


 考えてみれば竜王エンディグスと名乗って本気で捉えるわけないか。


 我は簡単に説明をした。


「いやいや、そんなことあるわけないでしょ。竜が人間の姿になるなんてありえないって」


 魔王フィランは我の話を冗談と受け取り笑い混じりに否定する。


「いえ、魔王様その話は本当だと思いますよ。現に私たちの目の前で黒い炎を使ってましたし」


「うん、おれも、みた。そいつがほのお、つかうの」


 魔王フィランはイトナとティアマトの顔に視線を向ける。二人とも真面目な顔で頷く。


「え……えええええええ!い、今までの無礼お許しください!命だけは取らないでください!お願いします!」


「明らかな対応の翻し、魔王様といえども少し失望しましたよ」


「おれも、おなじ、しょっく」


「うるさいよ!プライドとか格好なんてどうでもいいんだよ!お前らも頭を下げろ!」


「そのようなことで命は取らない。安心しろ」


「ほ、ほんとですか……」


 魔王フィランは目を丸くして意外そうに言う。


「ああ、本当だ」


 我が竜で在った時、魔王を倒した。コイツが何代目かは知らないが、今の様な対応をするのは当然だ。


 それほどまでにあの頃の我は憎悪を抱き復讐心に駆られていた。


 過去に犯した行いは決して消えない。歴史に残した我の印象は、全ての者の記憶に深く染みついている。


 ふと思う。その過去の行いが自分自身を締めつけ殺す起因となるかもしれないと。


 横目でティアマトの顔を覗く。例え我の行先が破滅であっても、こやつの行先が幸福であるならそれでいい。


 我の視線に気づいたティアマトが首を傾げる。


「竜王様?どうかされました?」


「いいや、何でもない」


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