第18話 崩壊の足音
――数時間前王都にて。
「――以上が今日の出来事です……」
城の王室で女王ベネディの前に並ぶのは竜王エンディグスに恐れ逃げて来た騎士たちだ。騎士たちは目の前で起こった恐るべき出来事を女王に報告する。
「それで貴様らは、のこのこと城に帰還したのか。敵前逃亡とは騎士団も堕ちたものだな」
当然敵を前にして逃げ出した騎士たちを女王ベネディが許すわけがない。
これ以上の無い緊迫感が王室を包み込む。王都に残った副団長ハルバラと騎士たちは見守ることしかできなかった。
「で、ですが竜王エンディグスはあまりにも脅威で、我々では成す術もなく……」
「今発言した者は前に出ろ」
「は、はい」
冷や汗を流しながら一人の男が一歩前に出る。
「ハルバラ、この人間を殺せ!今目の前で!いや逃げ出した連中全員だ!」
女王ベネディは王座から立ち上がり逃げ出した騎士たちを指さす。そこには常に毅然きぜんとした態度の女王はおらず、切迫詰まった様子で声を荒げる女王がいた。
「陛下、少しお待ちください。それはあまりにも——」
「うるさい!私は竜王を討伐するようにと命じたはずた!それなのに帰って来るということは私への命令を無視したも同然だ!よって反逆罪とし処刑だ!イトナはもういない!貴様がやるのだ!ハルバラ!」
人間の命を何とも思わない発言。女王陛下の言葉は絶対。逆らえば死罪は免れない。自分の命を天秤に乗せて反発できる人間など誰もいない。騎士たちは歯を食いしばり拳を硬く握りしめる。動けず傍観することしかできない自分が悔しくてたまらなかった。
「陛下に対し忠誠心が無い者は殺すべきです!」
「陛下への反逆は重罪!死をもって償うべきですな!」
「さあ、早く殺すのです!」
上流階級のエルフたちは女王の発言に乗っかる。
ハルバラは鞘から剣を抜き取る。団長のイトナがいない中、騎士団の最高責任者は副団長のハルバラだ。
手の震えが剣先に伝わる。今まで苦楽を共にしてきた仲間を斬るなど出来ることではない。
「……ここでの処刑は血で王室を汚してしまいます。神聖な場でそのようなこと私には出来ません……」
「クッ!……そうだな……少し取り乱してしまった」
歯を強く噛み深呼吸をする。女王は常に冷静で堂々としなければならないと自分に言い聞かせて、怒りを鎮める。
目に見えない恐怖、計り知れない大きな存在が女王ベネディが築き上げてきた世界を脅かす。
「今日の会合は終了とする。処刑は後日に行う。退出を許可する」
騎士団たちは恐る恐る王室を出る。
「本当なのでしょうか……竜王エンディグスが復活したというのは……」
重たい空気の中、切り出したのは上流階級のエルフの中の一人だ。
「事実でしょう。イトナも竜殺しの末裔、スレイという男も戻って来ない。竜王エンディグスにやられたと考えるのが自然です」
「でも、人間になるなんてそんなことあるわけが――」
「じゃあどうして帰って来ないのよ!……何で今頃になって復活するのよ!」
女王ベネディは上流階級のエルフの言葉を遮り、髪を掻きむしり嘆く。
「……すぐに竜王の対策を講じます。アナタたちも戻りなさい」
女王は溜め息を吐き頭を抱える。微かな声でイトナの名前を呟いた。




