カルマの計算
「コハク・・・・・」
フェンリルの言葉に皆がフェンリルを見た。
そして私は嫌な想像をした。
「まさか・・・・」
「いや、そこへ連れて行かれた訳では無い。ただそうかもしれんと思っただけだ。ま、予想通りでは有ったがな」
フェンリルの否定で私はほんの少しだけ安堵し息をする。それは皆も同じで表情が少しだけ和らぐ。
「食事を終えたらこの場所を離れましょう。私が誘導します。フェンリル様走れますか?」
「ああ、少しなら何とか」
「神子様、飴は?」
「・・・・・」
「神子様、しっかりして下さい!飴は?作っていないのですか?」
「・・・・はっ!あ、ゴメン。あめ?!飴、作ってあるよ」
そう言うと慌ててアイテムボックスから作ったばかりの飴を出す。その飴を見てフェンリルは喜々として私から麻袋を奪い飴を食べ始めた。あの邸へ向かう時も少しだけど飴を食べていた。昨日も大量の飴を食べた。そして今も・・・・・。この飴は私の魔力を形作った物だ。だから魔力消費で疲弊した時の急場しのぎで作ろうと考えたもの。それでもこれは食べ過ぎなのでは?と心配になる。
「今はいくらでも与えて下さい。神子様の魔力が続く限り!」
ジュランにそう言われ私は頷くことしか出来ない。
「兎に角先を急ぎましょう。神子様も早く食事を済ませて下さい」
「分かった」
皆急いで食事を済ませると、取り敢えず私のアイテムボックスに全てを放り込みその場を移動することにした。
フェンリルはいつもより遅いが自力で走り、皆はそれに並走するように飛ぶ。私はアッシャムに手を握ってもらい一緒に飛んだ。飛行魔法はまだまだ使えず、浮くことも上手く言っていなかったのに、アッシャムに手を握ってもらい、私からアッシャムに、アッシャムから私に魔力がグルグル流れている感じをイメージしてと言われその通りにしたら、飛べるようになった。不思議でしょうがなかったけど、今はそれより先を急ぐことが優先。大人しくアッシャムの手を握り飛び続ける。1時間ちょっと移動した所でジュランが「この辺で止まりましょう」と言ったので皆その場に止まる。そこは岩肌が剥き出しになったような山々に囲まれた谷間だった。
「ちょっと寒くない?」
「この辺は1年を通して寒冷地ですから。でも今の時期なら人が凍死するほどの気温では無いはずです」
私の独り言にジュランが答えてくれたけど、それは無視してくれていた方がいくらかマシだった答えだった。皇国も王国同様通年さほど温度変化の無い気候だ。しかしここは雪国かと思うほど空気が冷たい。周りを囲む山々を見ると山頂にはどの山にも雪景色が在る。そこから吹き下ろしてくる風がこの谷間の空気を冷やしているのだろうと分かった。
「ここは皇国内だよね?皇国って比較的温かな地域じゃなかったけ?」
「神子様ちゃんと勉強してこなかったの?皇国は温暖な国だけど、隣国との堺にあるこのブルーバレは周りが雨季の間だけ雪が止み、雨季が終わると猛吹雪になることの方が多い地なんですよ。だから魔物もめったに出ない地で有名なんです。カルマさんの話聞いてなかったんですか?」
私に反論したのは以外にもミリロだった。こういったお勉強はジュランの得意分野だと思っていたけど、ミリロは興味や経験がある物に於いては異常なまでに優秀だった。
こそっとジュランに聞いたら、ミリロは幼い頃このブルーバレを何度か通った事があるそうだ。物心つく前であってもブルーバレの厳しい環境を体が覚えているのかも知れませんって事らしい。
ミリロの昔話なんて聞いたこと無いかも…。聞いたら教えてくれるかな?
どうやらブルーバレからの抜け道が在るようで、今も使えるか分からないけどその道を行こうとなった。
何となくジュランとアッシャムは急いている気がする。フェンリルもその理由が分かっているのかもって気もする…。また私だけ…。
「神子様、今は先を急ぎましょう!お願いですから!」
ジュランのらしくない態度に私は驚いて頷く。
理由が分からずとも、仲間を信じる!そう決めた。だから、今は疑うより信じて先を急ぐ!!
そう心で念じると不思議なもので足に力が入り、しっかりとした足取りで歩き出せた。
ジュランの先導で道なりに歩き続ける。暫く歩くとジュランは道が無いと思うような場所に入っていく。アッシャムもそれに続く。フェンリルとミリロが一緒に続く。私は恐る恐るそれに続く。
近くまで来て漸く分かった。
幻影魔法が掛けられているのだ。そこには坑道の様な道が続いていた。
「この魔法を掛けたのって誰なんだろう?」
「そんなことよりさっさと歩かんと置いてゆくぞ」
フェンリルにそう言われ皆の後に続く。
そこは坑道のように見えたが、只のトンネルだった。何のために掘られて作られた道か分からなかったけど、途中に部屋のように掘られた行き止まりの場所が有った。その道を通り抜けると森林のような湖畔に出た。湖畔という表現が正しいか分からないが、林の向こうに先程まで見ていた山々が聳え立っており、それに取り囲まれるようにライトブルーからダークブルーへと見事なグラデーションの湖がそこには有った。晴れていて水面がキラキラと光を反射し、一遍の絵画の様だ。
「キレ〜・・・・」
「この湖はこのブルーバレの雪解け水が溶け出したもので、とても純度が高く、魔石を練り込んだりする時に使われたりするんです」
「魔石を練り込む?」
「はい。この世界の全てのものが魔法を使えるわけではありません。そう言った者にも魔法が必要となることがあります。そのために特殊な紙に魔石を練り込んだインクで起動式を描くのです。そうすることでランプに火を灯したり飲水を確保したりするんです」
「そっか〜。でも毎日のことに魔法って必要なものなんだね。そうなると魔法が使えない人にとって日常生活って大変だよね?その起動式?の紙だってタダじゃないんでしょ?」
「そうですね。だから争いも起こりますし、理不尽なことも多く起こります。先代の創造神が殺され、クピト様が創造神になられたこともこうした状況を生んでいる原因でも在るのです。神子様にとってはお辛いことでしょうが、この事実を忘れずしっかりと胸に刻んでおいて下さい」
「分かった・・・・・」
らしくないジュランの姿を見て、驚いて頷くことしか出来ない私だった。
「ジュラン、それよりそろそろ良いんじゃない?」
ミリロがジュランに何かを促す。これも珍しい光景だ。
「そうですね。それでは・・・・あの辺りで腰を落ち着けてお話しましょうか」
そう言うとジュランは木漏れ日が揺れる木陰を示し、そこへ座った。
私達も周りへ座り、フェンリルは私とミリロの間に寝そべった。
「ではこれまでのことを、フェンリル様からお話頂いたほうが宜しいかと思います」
ジュランにそう言われフェンリルはのそりとお座りの格好に座り直した。
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