召喚者の魔法授業とテントーレ王国の選別
今日は魔力が在る者だけが集められ、この世界に来て初めての授業の日。
この国にも学園があり、教室が有るらしいがそれはその学園に通う貴族の令嬢・子息が通っているため使えないらしい。そのため召喚者達は王宮の中庭に集められていた。
「誰か何か知ってる?」
知里がブリブリで周りにいる者に尋ねる。
それに麻穂子が答える。
「多分、私がお願いした魔法に関しての事だと思う。外だし…」
麻穂子の言葉に全員が麻穂子を見る。
「京極さん、どういうこと?」
あつ子が麻穂子に近付く。教師という立場で何度もこの国の人間にあらゆる事を尋ねていた。しかし、真艫に相手をしてはもらえず、いつも軽くあしらわれて情報を得られず終わる。
「この間、部屋に2人の男性が訪ねて来たんです。何か困った事は無いかと…。その時魔法が使える様になりたいと言ったら、其中の1人ブルンドル辺境伯?という方が魔法学の授業をしてくれると言っていたので」
「「「キャー! キャー!」」」
知里と美和子と雅美が騒ぐ。
「静かにしなさい」
あつ子が3人を戒める。続けて麻穂子に尋ねる。
「それはどういう事? 私達の部屋に訪ねて来た人と同じ人そうだけど、私達は何も答えては貰えなかったし、そんな事言ってもくれなかった。何故あなたはにはそんな事を言ってもらえたの?」
あつ子の問いに麻穂子は答えようも無かった。だって麻穂子にだって分からなかったから。只の厚意として受けただけだった。
この国が皆をどうしようと考えているかは、まだ誰も知らない。
「皆様ご機嫌如何でしょうか? 改めてましてドミニク・フォン・ブルンドルと申します」
ブルンドル辺境伯が皆の前で挨拶をした。
皆んなブルンドル辺境伯を見て、静まり返ったまま誰も口を開こうとしなかった。
「…う〜ん、緊張しておられるのかな…? 何も取って食ったりしません。今日はそちらに居られる京極様より、魔法について学びたいとの申し出があったので、魔法学に精通している私が教師役を仰せつかって参った次第です。皆様も魔法に興味はお有りなのでは?」
ブルンドル辺境伯の言葉に、皆もザワつく。
「あの、皆と言いますが、ここに呼ばれていない生徒が居るようですが…」
あつ子が勇気を出してブルンドル辺境伯にそう尋ねる。ブルンドル辺境伯はあつ子を一瞥し、有能なスキル持ちの方を見て答える。
「あ〜、それは、魔法は魔力が無いものには無意味だからです。僅かにでも魔力があれば魔法は使えますが、魔力が無いものが魔法を学んでも、魔力を産み出すことは出来ないのです。生まれながらに人のステータスはある程度決められてしまうものなのですよ! こればかりは神の思し召しとしか言いようがないです」
「…そうですか。…では、ここに集められた生徒は魔力が在るんですね。魔法が使えるようになるんですね?!」
あつ子がそう反論する。しかし辺境伯はそれをフッと鼻で笑い答えた。
「それは個人の努力次第ですね。ここに居る皆様も多少なりとも魔力がある方ばかりですが、京極様や新村様の様に豊富な魔力量の方ばかりではなく、かろうじて魔力があるかたもいらっしゃる。そうなれば、魔力があろうとも、魔法発動が上手くいかず、生涯魔法を使うことが出来ないかたもおられましょう」
ブルンドル辺境伯の答えにあつ子は落胆した。これだけの人数が魔法が使えるようになれば、元の世界に帰れるのでは?と淡い期待を抱いたからだった。
元の世界には夫も娘も居る。教師で有っても、1人の人間。酷いと言われようとあつ子は自分だけでも元の世界に戻れないかと考えていた。こんな事生徒に知られたら皆んなバラバラになって、自分の思いも叶えられずに終わってしまうため黙っていたが、そもそもが愚かな考えだった様だ。どんな顔をすれば良いのかわからない目で周りを見渡す。
そこには信頼しきった生徒たちの目があった。
「では、先ず魔力を感じ取るところから始めましょう! 魔法は自分の中にある魔力を操作することから始まります。ではお手本を」
そう言うとブルンドル辺境伯は肩の力を抜き、掌を腰辺りで軽く握り、ゆっくりと息を吐き出した。
ほんの数秒後、ブルンドル辺境伯の髪が少しふわっと風に浮いている様にゆらゆらし始めた。
「皆様、私の掌に順番に触れてみて下さい」
そうブルンドル辺境伯から言われるが、皆どうして良いのか他を見るだけで、自分から動こうとする者が現れない。しかし、この中で意を決して動こうとする者が出たら、後は1列に並び1人づつブルンドル辺境伯の掌に触れていった。皆が触れ終わるとブルンドル辺境伯は静かに魔力を抑えた。
「これが基本の魔力操作です。掴めましたか?」
「はい。体の周りというか、体そのものを包むような温かな流れを感じました。その中心により高い熱がありました」
「京極様、流石でございます。その通り。言葉で説明するのが難しいのですが、それが魔力です。他の方はどうですか? 1回では通常魔力を感じ取ることは出来ないので、出来なくても恥ずかしくありませんよ! 何度も反復して感じ取れるようになれば良いのです」
その言葉を聞いて、半数以上の生徒がホッと安堵しているようだった。
今回魔力を感じ取れたのは、麻穂子と順也、加純、智哉だけだった。他は熱を感じても流れが分からなかったものや、熱そのものも感じ取れないものが殆どだった。こうして1回目の魔法の授業は終了した。
ここに当然、私は居ない。聖女は誰より魔法が得意と言われているのにね…。私どうなるのかな?
早く首の皮繋ぐ方法見つけなきゃ、死んじゃう〜!
誤字脱字報告宜しくお願い致します。