ジュランの言い間違い
私は足が竦んだまま動かせずに、部屋から出られずもたもたしていたら、ダイニング部屋の方から誰か歩いてきた。その人影は段々と近づく。恐る恐る確認すると…。
「神子様、何してるんですか?皆食べ終わって失礼しよって話してたんですけど、なかなか戻って来ないので探してたんです」
私はジュランの姿に安堵し、その場にへたり込んでしまった。ジュランに手を持ってもらい、立ち上がり御礼を言って失礼しようとなった。
「ゴメン。後で話すけど、本当にごめんなさい」
「いえ、無事なら良いのですが、着替えにしては時間がかかり過ぎでは無いかと心配になったものですから。ご無事なら良いんです!」
そう言ってジュランは私に微笑む。
私はこの笑顔が恐怖に歪んだら思うと正直に話すことが正しいのか分からなくなる。
でも、アッシャムの事で今は些細な隠し事も嘘もしたくない。皆まで疑心暗鬼にさせてしまう。アッシャム自身も自分の事を話しづらくなってしまうかもしれない。今は皆の信頼を裏切ることはしないのが最善策だ!自分にそう言い聞かせてジュランと共にダイニングへ戻る。
ダイニングに戻ると皇帝はいなかった。
私が部屋を見回しキョロキョロしていると、偽執事のラトラルが皇帝は執務につき、退席したと話した。
私はアッシャムとミリロを見て、『ゴメン』っと仕草で謝る。
2人は頭を振り私を心配そうに見る。
本物の執事だろう偽タカシ・シラヤナギは騎士と何やら話し込んでいた。
私がその二人を見ていると、偽執事は誰にも分からないように私を見、ニヤッと笑った。
誰も彼もが怪しく見えてしまう。
私は出来るだけ皆の元を離れないように、引っ付いて行動するようにした。
ダイニングを後にし、部屋に置いたままの荷物を持ち皇宮を後にする。
「まず、フェンリルが居る所へ連れて行ってほしいんですが」
今だに偽執事が私達の目の前に居る。
私は言葉を選びならが話すが、ちょっとでも気を緩めてしまえば、罵声に変わってしまいそうだ。
態度が悪いくらいの口調は気にしない!
一方偽執事はニコニコがニタニタに見える笑顔で答えてくる。
「フェンリル様はこちらで玄関先までご案内致しますので、玄関ホールでお待ち下さい」
そう言われ、私達は玄関ホールに案内されてしまった。
「仕方ないですよ。私邸とはいえこの広さです。分からない場所を歩き回れば自分達が迷子になるだけです。待ちましょう」
ジュランがそう穏やかな口調で私を宥めてくれる。あの部屋で何が有ったのかはまだ話していないけど、何かを察してくれたのは間違いなさそうだ。
そうして暫く待っていると偽執事の後ろを大人しくフェンリルがついて歩いてきていた。
その様子に全員の顔色から血の気が引く。
たった1晩でそこまで痩せてしまうのかというほど痩せこけていた。
当のフェンリルは何でも無いように歩いているが、その足には力が入っていないようだった。とっさに私だけじゃない。コイツ等フェンリルにまでなにかしたんだ!!
そう思った瞬間、全員が執事に殺意を向け睨んでいた。
「みなさん、そんなに怖い顔なさらなくてもお連れしましたよ。皆さんの飼っている獣を!」
アッシャムがとっさに執事に飛びかろうとする。
それをミリロが瞬間的に服を掴み抑える。
ジュランがブツブツ呪文を唱える。
とっさに私が止めに入る。
が、殺意は殺気より増している。
それを止めたのは偽執事ではなく、フェンリルだった。
「お主等、何をしておる。随分予定からはそれた道のりだ。早く元の道に戻り急ぐぞ。預かりものがあるのだろう」
全員にフェンリルが言わんとすることが分かった。そのうえでまだ偽執事に殺意を向けるのはその気持を台無しにしてしまう。私達は無理やり殺意を腹の中に引っ込めた。まるで爆破1秒前の爆弾を腹の中に収めた様な気分だ。爆破してしまいたい衝動に駆られる。
それを皆の顔を見て抑える。皆も同じだった。
試合にも勝負にも負かされた気分で皇宮の敷地を出る。来る時は馬車で運んで貰った道のりを全員で歩く。暫く歩き、皇宮から離れた所で立ち止まり、私はフェンリルに何が有ったのかを尋ねた。
「何も、何もなかった」
「1晩でそんなになって、何もなかったわけ無いじゃない!何で話してくれないの!」
「何も無いもの話しようもない」
フェンリルはそう言って、力なく歩き出そうとする。しかし踏ん張りが効かないのか、そもそも体力が落ちているのか前足の関節の所からガクッと崩れる。それを無理やり立て直そうとするが、今度は体全体の重みに足が耐えられないように崩れ倒れてしまう。
「そんな状態になって、まだなにもないっていうの?皆コハクの仲間じゃないの?少なくとも私達はそう思ってる。コハクはそうじゃないの?」
私の目から涙が溢れてくる。
ジュランもアッシャムもフェンリルを見つめる。
ミリロは私以上に泣いていた。
「そうではないのだ。そうではないが、・・・・・言えないのだ。・・・・・だから、何もなかった。・・・・そう思っては貰えないか・・・・」
フェンリルのその言葉でジュランが私の片腕を掴み頷く。しかし、納得のいかない私はまたフェンリルに言葉を投げかけようとする。
「神子様、ここは引きましょう。少し観察は必要です。急いては・・・・馬鹿になる?・・・・と言っていたではないですか!」
ジュランの言い間違いに私は気が張り詰めすぎていたからか、糸が切れたように笑ってしまった。
「それを言うなら、急いては事を仕損じる!だよ」
「そうでした。それです」
私達は何とか気を保ちながら、フェンリルに手を貸し休める場所まで移動した。
後で私はジュランに大いに救われたと感謝することになる。
誤字脱字方向宜しくお願いします。




