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ファルカス帝国皇帝

 馬車で到着したのは皇帝の住む宮で、執務を行う建屋とは違った。要するに皇帝の私邸に招かれたのだ。これが分かったらアッシャムも緊張しているようだった。ジュランはいつも通りだけど、ミリロは寝起きだと分かるほどだらしない顔をしていた。

 「あれ、コハクは?」

 私がキョロキョロしていると騎士の1人が駆け寄って来てくれた。

 「すみません、フェンリルはどこ行きました?」

 「申し訳ありません。従魔であろうと皇帝の私邸に魔物を入れることは出来ません。そのため私邸の外でお待ちいただいています。もてなしはこちらでしておりますのでご安心下さい。皆さんはどうぞお入り下さい。皇帝がお待ちです。ユウスケも」

 騎士の言葉で何で私達が皇帝なんかに招かれたのか何となく分かった。

 きっと中村くんから私が聖女だってバレてる。聖女は国に関係なく特別な存在だって言う人もいる。それなりに力を持つのだろう。確か彼は聖騎士のスキル持ちだったはず・・・・。

 一気に命の危険を感じる。ジュランにもそれが伝わったのか、ピタリと側に寄り添ってくれた。

 私邸の執事だろうか、扉を開けて私達が入ってくるのを待ってくれている初老くらいの男性が立っている。じっと突っ立っていてもしょうがないので、扉へ向かって動く。

 「ようこそいらっしゃいました。主も到着を首を長くしてお待ちです。どうぞお入り下さい」

 男性は恭しく室内へ案内を促す。

 私達はそれに従い恐る恐る建物の中へ入っていく。男性は皇帝の私邸の管理を任されている執事長のラトリルと名乗ってくれた。

 ラトリルさんに付いて邸内をどんどん進む。いくつもある扉を通り過ぎ、突き当りの部屋の扉をノックし開くラトリルさん。私達の緊張は一気に高まり私とジュランは腕を組み合って抱き合う形に近くなる。

 扉が開かれると室内には2人の男性が椅子に腰掛けていた。

 その内の1人は覚えのある人だった。

 「中村くん・・・・・」

 ぼそっと呟いたつもりのその声はシーンと静まり返ったその場所では良く響いたようで、大きなテーブルの向かいに座る彼に届いたようだった。

 彼は立ち上がり「よっ!」っと挨拶した。

 そして隣に座っていたガタイのいい40代位のイケオジ風男性が私達に座るようにとジェスチャーで伝えてきた。

 ジュランの顔を見て、頷かれたので大人しくその指示に従って2人の向かいの席に着いた。

 そこは小規模の晩餐会でも開けるのでは?という程の広さで、テーブルはやたら長かった。向かい合っては居るが、一般家庭のテーブル3つほどをくっつけた位の幅が在るので、あまり近さは感じなかった。

 「あの時以来か・・・・・。無事だったんだな」

 私はその言葉に「そっちもね」とそっけなく返すだけになってしまった。

 死んだかもしれないと思っていた人が、この世界での大きな力を持つ皇帝の庇護下で守られていたのだ。どんな反応を返すのが正しいのか分からなくなってしまった。私達の会話はそれで終わってしまい、沈黙が流れる。それを皇帝はグラスに入ったワインを飲みながら見ていた。そして飲み干すとラトリルさんに何やら指示を出し、私を見た。

 「貴方がこのユウスケと同じ世界から召喚されたコトネだね。従者の様子を見るからに回りくどい話はしないほうが良いだろう。単刀直入に話をしよう。どうだろう、この国で働かないか?」

 想像を超えたと言うのか、これが斜め上というものなのか、私達は口を開けて驚いた。

 あまりに突拍子もない提案に、命の危険を感じて居た所から180度以上の違いに思考が停止した。

 直ぐに持ち直したのはアッシャムだった。

 「皇帝、お言葉ですが珠子様は聖女様です。そうそう国を超えることは・・・・」

 アッシャムの言葉を皇帝は直ぐに打ち消す。

 「テントーレ王国はもう滅んだ。亡国に義理立てする必要は?しかもコトネはユウスケ同様、精霊の森に放置されたと聞く。あのクズ王のしそうな事だ。どうせ強力な力を自分達が制御出来ないからと放りだしたのだろう。己の能力の無さが招いたことだ」

 皇帝の言うことは至極最もだった。しかしハイそうですかとはいかない。

 「私は今この3人やフェンリルにもですが、それ以外の人達にも守られています。その人達を裏切る事になりかねない判断はここでは出来ません。今回の旅はその恩人の知人を尋ね預かったものを渡す事にあります。その後国へ戻ってから改めてご返事させて頂きたい」

 私の返答に皇帝はため息を1つついて「分かった」とだけ答えた。

 気まずい空気が流れ出した時、部屋の扉が開かれラトリルさんが入ってきた。何人もの侍女を引き連れ、その侍女たちはワゴンをガラガラと引きながら部屋へ入ってきた。

 「さあさあ、先ずはお食事を。お客様は長旅で疲れておいででしょう。殿下率直にお話されるのは良いことですが、時と場合にもよります。先ずはお客様を労いましょう」

 ラトリルさんが皇帝にそう言うと、皇帝は笑いだし「よし!先ずは食うぞ」と立ち上がった。

 そして侍女たちが運んでいたワゴンの上のクローシュを徐ろに開けると中の料理を手掴みで食べた。

 それをラトリルさんも中村くんも呆れたように見ている。

 大きな身体から怖い人だと思ったけど、そうでも無いのかもしれない。


 ラトリルさん達が料理をテーブルに並べてくれて、私達はご相伴に預かることにした。

 アッシャムは皇国料理に目をキラキラさせている。私もカルマさんの作った皇国料理好きだった〜。テーブルに並んだ料理は殆どが見たこと無い料理だった。

 中村くんも一緒に食べるようで皇帝の隣に座っている。私はその並びに引っかかる感じがしてジュランを見たけど、ジュランもわからないようだった。アッシャムを見たら料理に釘付けでそれどころでは内容だった。馬車を降りてから気配を消すように静かだったミリロもアッシャム同様だ。

 「ねぇ、中村くん。失礼なこと聞いても良い?」

 私の問いに返事をしてくれる。

 「なんだ?」

 「皇帝の隣に座っても良いものなの?それとも中村くんそんなに位が高い人?」

 私の問いに笑い出したのは中村くんや皇帝だけではない。給仕をしてくれている侍女たちもクスクス笑っている。

 「ここは殿下の私邸です。国が王族などに用意したものではなく、殿下の私費で購入されたものです。だからここでは皇帝ではなく只の主になります。その邸の主が中村殿の席を示したのです。何も問題はありません」

 ラトリルさんが私のグラスに水を注ぎながら教えてくれた。

 「そもそも俺はこの国に不法入国している。それを咎めずこの国で生きていくことを認めてくれたのは皇帝だ。俺は皇帝を信じているよ。日聖には信じられる人いるのか?」

 その問いに私は笑顔で頷いた。

 私はホッとして食事に意識を戻そうとした時、ミリロが誰にともなく尋ねた。

 「どうしてあの時、騎士たちは神子様の事が分かったのでしょうか?私はそれがずっと疑問で・・・・」

 「ハッハ、何簡単なことだ。このユウスケもコトネと同郷。ならば同郷の人間なら通ずるものがあろうと、周りに悟られずコトネだと判断するに足るものはと聞いた時、ユウスケから教えられた話をしただけだ」

 その皇帝の言葉でスーッと納得がいった。

 「郷に入りてはなんとやら・・・・」

 「ああ、その言葉に反応するのはこの国のものでもましてやこの世界のものでもない。ニホンという国からやって来た者だけだ。騎士たちにはその言葉に反応したものを見逃すなと言っておいただけだ」

 「中村くんはどうして私、若しくは召喚された人をここへ連れてこさせたかったの?」

 その言葉に中村くんは再開して初めて重い顔をした。その話を中断させたのは皇帝だった。

 今日はこの邸に泊まり、明日また詳しい話をしようとなった。

 なんともモヤモヤの残る夕食となった。

誤字脱字報告宜しくお願いします。

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