日聖珠子の異常②
「どう言うことだ? そんなに驚く事でも無いだろう。あの全属性の娘も魔力量が多かったと言っていたじゃないか」
ローグラ侯爵がブルンドル辺境伯にそう言った。
「そんなの比じゃ無いんです。あれは歴代の魔王も超えるほどの魔力量だと思われます」
ブルンドル辺境伯の言葉を聞いたローグラ侯爵は絶句した。
歴代の魔王の魔力量を超えられる魔法使いは居なかった。この国最高の魔導師でも魔王の魔力量を超える者は1人も居ない。
暫く撃沈したように沈黙していた2人だったが、ある事を確信して互いに目を見た。
「「女神の不都合はあの女(娘)」」
2人は確信して、急いで王の下へ急ぐ。
「陛下、取り急ぎご報告致します」
2人がかしこまる。それに王は自室のソファにどしりと腰かけ2人を見た。
「何だ。こんな時間に」
「はっ、先日陛下よりご命令のあった件にて、分かったことがございましたので、ご報告に伺った次第です」
ローグラ侯爵が王にそう言うと、王は期待に満ちた表情へと変化した。
「で、どうだったのだ? 上手く行きそうか?」
「はっ、先ずレアスキル持ちの4人を再鑑定して何か得られ無いかと、個別に部屋を尋ね、向こうに知られない様にブルンドル辺境伯に再鑑定をお願いした所、とんでも無い事が分かりました」
ローグラ侯爵の報告に王は益々期待に満ちた目になる。
「して、勿体つけずに早う話さぬか!」
「結論から申しますと、精霊の森へ捨てるのは例の聖女だけでも良いかと」
「どういうことだ?」
「あの聖女、魔力量が歴代の魔王を凌ぐかも知れないと言うことです。そこで我々はある考えに至りました」
王は少し首を傾げる。ジジィのコテッ?姿なんて誰も見たくないが、王は2人の考えが分からない様だった。
「女神の不都合は、あの聖女の魔力量なのでは無いかと。魔力が多い事が、仮にも神である女神にどんな不都合があるのかまでは分かりませんが、その他の者に警戒すべき点がない以上、この結論で間違いないかと」
2人は報告するべき事を伝え、頭を垂れた。
王は2人の報告に歓喜した。これで愛息に醜い娘と結婚をさせなくて済むのだ。何より喜ばしい。
王は2人にご苦労であったといい、部屋を下がらせた。王の指示に従い部屋を後にした2人。
又廊下で何やら密談を―。
「ローグラ侯爵様、王の命令といえど、今回の件、本当にお疲れ様でした」
半泣き状態のブルンドル辺境伯がローグラ侯爵に話しかけた。
「いやいや、ブルンドル辺境伯、そなたも本当にご苦労であった。…というか我ら2人共に頑張ったよな~…」
最後はおっさん2人、崩れるように抱き合いながら互いの労を労った。侯爵も辺境伯もそれなりの地位にいる為、本来ならこの様な気苦労をしなくても良いはずの2人。しかし、大した事ないと思っていた人物の中に、魔王クラスが居たとなれば話は別。当然、魔物討伐に出たことなどないローグラ侯爵も、辺境伯というか地位から魔物討伐に隣国との戦争にと戦には自身のあるブルンドル辺境伯も、魔王が目の前に居て生きて帰れる自信は0だった。今回は当の本人が己を知らなかったため無事だったが、本人が魔力操作を学び、魔法が使える様になったらと考えると2人共生きた心地がしなかった。今は只、互いの無事を噛みしめていた。
「ローグラ侯爵…?…ブルンドル辺境伯! 何してるんですか?!」
互いに労を労っていただけだが、その場面をメイドに見られ、王宮には暫くの間、この2人の噂が実しやかに充満し続けた。
その後暫くして、王都の劇場で侯爵と辺境伯の密やかな恋物語の劇が流行ったそうな。
「「違うから〜!!」」
2人の叫びは、聞こえない、聞こえない!
一方私は―。
尋ねて来た2人の立場を思い出そうとしていた。
「う〜…ん…、あの偉そうなジジィはローグラとか言ってたっけ? もう一人は、あの日私達を鑑定してた、いや、その後ろに居た男だ。何者?」
誤字脱字報告宜しくお願い致します。
明日は10時と22時に更新できたらと考えてます。