ジュランの行方
暑い日が続きますが、お体ご自愛下さい。
朝になり起きて、貯めておいた水を桶に入れ顔を洗う。こっちの世界での旅は水の確保が大変だから毎日そう出来る訳ではないけど、綺麗で豊富な水場の近くに野営できた時は体を拭いたり、顔を洗ったりする。日本ではシャワーだけだったとは言え、毎日風呂に入れないのは精神的に来るものが有るのは確かだ。だからこうして気にすることなく水が使えるのは有り難い。私が顔を洗い終えるとミリロが寝ぼけ眼でフラフラと起きてきた。
「おはようミリロ!」
「ふぁ〜ぁ......、ミコザマ・・・・オヴァヨウゴじゃいます」
頭はまだ寝ているようだ。その可愛らしい姿に微笑ましい気分になる。
いつもはここでジュランのお小言が炸裂するはずなのに何も聞こえない・・・・・。
「ジュランは?」
私がそう言うとミリロはあたりをキョロキョロした。ミリロもジュランが居ないことに気が付かなかったようだ。誰にも何も言わずに居なくなった?ジュランが?そのあり得ない不可思議にミリロも目が覚めたようでフェンリルに知らせに行く。フェンリルも起きてきて「散歩じゃないのか?」と言うけど、散歩だろうとジュランが誰にも何も言わずに皆の側を離れるなんてあり得ない。自分の居所を誰にも教えないなんてあの擬きの神殿の時くらいだ。だからまたアッシャムが居ないことに私とミリロは気が付かなかった。
昨日のフェンリルが居なくなった時も、今ジュランがいない時もアッシャムはいなかった。その事実を知っているのは居なくなった2人だけだった。でもその2人もその事実を話そうとしなかった。何故か隠している。
2人はアッシャムがエーレンの出身だと知って私とミリロ以上に理解したのだ。アッシャム・ストラバウスと言うハイエルフの青年を・・・・・。
私がその事実を聞いた時、アッシャムは酷い状態だった。この世界へ来て何度も経験した後悔。愚かにも私はまた経験する。私がアッシャムの何気ない変化を気付いてさえ居れば、無理にでも話を聞いてさえ居ればきっとアッシャムが傷つくことは無かった。
それなのに、アッシャムも仲間だと思っていたはずなのに居ないのはジュランだけだった。私達の中ではアッシャムの存在は希薄だったのだ。
「兎に角ジュランを探そう。ミリロは水辺付近を探して!フェンリルは匂いで追えそうなら追ってみて!私は反対を探してみる。・・・・・・2時間、取り敢えず2時間したら一旦ここへ戻ろう。皆何処へ行ったかわからなくなるのは拙い」
「分かりました」「承知した」
そういい私達はそれぞれの方向へ探しに出た。
この時誰もアッシャムの存在を気にしていなかった。何度も気づけたチャンスをその度に失っていた。
2時間後私は何の手がかりもないままテンドへ戻ってきた。それから30分近く待っただろうかミリロとフェンリルが戻ってきた。
「2人ともどうだった?居た?」
「落ち着け、居たらわれ等だけで帰っては来ぬ。これと云った手がかりも得られなかった」
「わたしもです。川上や川下林の中も探せるだけ探し回ったのですが見つかりません。その代わり......」
ミリロがちょっと困った顔をする。
「その代わり、何?」
「いえ、私の勘違いだと思うのですが、アッシャムの匂いが有ったんです。微かですが・・・・」
その言葉で私はあたりを見回した。
「そう言えばアッシャムは?」
「朝からおらぬ。お主気づかなかったのか?」
フェンリルにそう言われ、朝のことを思い出すが、パニクっていて記憶が曖昧だ。アッシャムが居たような気もするが、居なかったような気もする。
「分からない。コハクは知ってたの?知ってたのに何で教えてくれないの?」
フェンリルは呆れたように言い放った。
「お主等はジュランのことばかりでアッシャムの事は気にしておらなかっただろう!だからわれもアッシャムの事は言わなかった。ジュラン、ジュランとばかり騒いで追ってからに、今更われを責めるな!」
最もだ。今更フェンリルに当たり散らすのはおかしい。それでもちょっとくらい教えてくれればと思ってしまうのは、私の我儘なのだろう。
ジュランどころかアッシャムまで居ないなんて・・・・。2人とも何処行ってしまったの?
私はその場にへたり込み頭を擡げた。昨日のフェンリルの行方不明に続き、ジュランまで。そして仲間だと言ったばかりの者の所在不明まで。居なくなったことに気づきもしなかった。
「フェンリル様は、ジュランとアッシャムがいつ頃居なくなったか分かりますか?」
私を他所にミリロが徐ろにフェンリルに聞いた。
「アッシャムはジュランが居なくなる前に居なかったかもしれん。アヤツの匂いはまだ覚えきっていないからな。しかしジュランの匂いが感じられなくなったのはわれ等が眠って数刻した頃だ。少なくとも夜明け前には完全に匂いを感じなくなっていた」
そんな前から居なかったの?私は2人を見た。2人はまだ会話を続けていた。
「そうなるとアッシャムを探してか追ってジュランが居なくなった可能性があると言うことですね」
「ああ。だがちょっと気になることが有る」
「何ですか?」
ミリロがそう言うとフェンリルは私も呼び会話に加えた。
「昨日われはアッシャムを追って夜明け前にこの場を離れた。上手くつけられて居ると思っていたが流石ハイエルフ。われの追尾に気付いたようで途中巻かれてしまったのだ。その後奴の匂いを追おうとしたが匂いが不確か過ぎて見つけられなかったのだ。それでテントへ戻って見ればアッシャムだけが居たんだ。お主達がわれを探しているなどと思わなかった。しかしアッシャムの事は探しているように感じなかったから敢えて心配のタネを増やす必要も無かろうと言わずに置いたのだ」
そう言うとフェンリルは「今となっては」と言ったが後の祭りだった。しかし、その後フェンリルが付け足した話はアッシャムを疑うに十分な話だった。
「そのテントに居たアッシャムは昨夜までのアッシャムの匂いと別人の匂いに思えたのだ。なんというか、入れ替わっている様な奇妙な感覚だった」
誤字脱字報告宜しくお願いします。
明日はちょっと羽を伸ばしに行きたいのでお休みします。夜までに書き上がれば更新しますが、無理なら火曜日8時に更新します。宜しくお願いします。




