お早いご登場で
侍女に案内されて、部屋に入った。どういう振り分けなのか分からないが、一人部屋の人間と複数人の大部屋とに分かれていた。推測だか、ローブを着ていた男性達が声を上げていたスキル持ちが一人部屋に通されていた所を見ると、能力で振り分けられたらしい。
「1時間後に食堂にご案内致します。その後、大浴場にて入浴下さい」
大部屋に通された2組が侍女にそう案内されていた。一人部屋に案内された私は、部屋の中に入ると侍女から、食事はいつ頃持てば良いのか問われ、風呂も部屋付きのを何時でも自由に使って構わないと案内された。能力が全ての世界なのだろうか?
食事は直ぐに用意してほしいと伝え、用意されるまでベッドに腰掛けて部屋の中やベランダに出て外を確かめたりした。
食事はステーキとコンソメの様なスープに、焼き立てのパン、それにサラダとフルーツだった。
家で十分な量の食事じゃ無かった私には、少し多い夕飯となった。でも、お腹いっぱい食べられて幸せだった。
「さて、何がどうなって、私はこれからどうなるのか、殺される前に考えなきゃ!」
独り言のように思っていたことを呟く。
どうやら違う世界に来てしまったということ。
魔法使いとか言われていた人が居ることから、魔法が存在するということ。
どうも聖女だけは特別な存在のようだと推測出来ること。
食事は美味しくもなく不味くもないということ。
王子がクソ王子ということ。
王族が塵屑以下みたいな連中ということ。
王族の取り巻きでも、腰巾着みたいな貴族もいれば、意見する貴族も居るということ。
その貴族に救われたかもしれないということ。
このままなら私は殺されるということ。
そして1番の謎なのは、女神の存在。女神が実在するかもしれないということ。
私はお風呂に浸かりながら、彼是と考えを巡らす。しかし、この世界のことが何も分からない以上、考えた事はどれも無駄なことのように感じてくる。
「せめて女神の存在が確定出来れば色々と分かるんだろうけどな…」
そう呟くと私だけだったはずの浴室に白い光が現れ、その光が収まると1人の女性が立っていた。
「…、女神ですが、呼ばれましたか?」
「、、、、疲れてるのかな? ハッ!それとも頭おかしくなったのか?!」
湯気の向こう側に確かに立っている女性の言葉に、自分の頭がおかしくなったと思った。
神とは、信仰の対象であり、実在するものではないはず。女神も同様、信仰の対象で信じる者の心に宿る偶像的なもので、御神体が実体化しているわけではない!?
「いえ、この世界では神は実在します。実体も伴いますよ」
その女性は、私が頭の中で考えていた事に答えた。
暫く沈黙が流れるが少し冷静さを取り戻せた私は、当たり前の考えに行き着いた。
「誰か〜、誰か〜、不審者!」
そう私が叫ぶと、女性はアタフタし始めた。
「し〜、し〜、静かに! もう夜ですから…」
女神だと宣う女性は私にそう要求した。
人の風呂堂々と覗いておきながら何を言うか!?
「私だって貴方の裸なんか見たく無いですよ!」
「人の裸見ておいて、女神だと名乗る割には酷すぎませんか?」
私はバスタブから立ち上がって、女神にそう啖呵を切る。その言葉に女神は再びアタフタして、言い訳を始めた。
「いえ、あの、これは言葉の綾と言うやつで、別に貴方を蔑んだつもりはなく、あ、だからって人の入浴シーンを覗く趣味も無いですよ! ただ本当に呼ばれてここに居るだけで、…私何も悪くないし〜…」
そう言うと、女神はその場にへたれ込み、しくしくと泣き出した。
まがりなりにも神だと言うなら、そんな事で泣かないでほしい。まるで私が苛めているみたいじゃない
か。幼子の様に泣く女神を素っ裸で見下ろしながらそんな事を考えていた。
漸く気が済んだのか泣きやみ、ゆっくりと立ち上がる。目尻に残っていた涙を指で拭き取ると改めて私に言った。
「私は女神、アストレア。創造神様より正義の力を賜った神です。貴方の疑問に一つだけ答えます」
つい先程迄で泣いていた人物とは思えない凛とした姿だ。女神と言われて納得できる程の神々しさがあった。そんな女神に私は疑問をぶつける事にした。
「女神の神託とは何ですか?」
私の疑問に女神は軽く息を吐き答えた。
「モロジー伯爵が言っていた事ですね。女神の神託とは、国の存亡を掛けた決定をする時に、その国が信仰する女神に一つだけ未来に関わることを聞くことが出来るのです。その問いに女神は如何なる理由が在ろうと真実を告げなければならないというものです」
「なるほど…。もう一つだけ、この国に取って聖女とは何ですか?」
女神は私の問いに驚き、無言のまま白い光の中に消えていった。
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