ファンデルワーカス王太子の言い分
前回の日直から約1か月、再びの日直。
前回同様、教室に居残っているクラスメートからチラチラと見られ、ヒソヒソ陰口を言われる。
「デブ消えろよ!」 「空気読めよ!」 「生きてる価値無しなのに、なんで居るの?」などなど…。
いつも通りで私は気に留めることなくじっと黙って待つ。早く帰れ〜、と願いながら。
日誌は書き終わっているが、特段やる事もなくただ待っているのも手持ちぶさたなので日誌を開き、パラパラと捲って読む。性格が分かるようで意外と面白い。綺麗な字で要点だけ書かれた日もあれば、書き殴られその日起こった事を書き漏らしてる日も有る。日直の名を見なくても誰か分かるようで、ちょっと笑える。案外まんまな人間性のクラスメートが多い様だった。数名印象と違うなと思うクラスメートも居たが、この年齢なら裏表が有る人間の方が珍しいのかも。
そんな事を思いながら日誌を捲っていた時、強い光に包まれた。前触れもなく突然強い光が床から湧くように溢れ出し、教室全部を包む。
目を瞑り顔を両腕で覆う。光が収まったようだったので腕を顔の前から解き、目をゆっくりと開く。
辺りをキョロキョロと見渡すと、他の者も同じ様にキョロキョロしていた。
この場にいたのは、佐藤美和子、大貫雅美、宮本大吾、鈴木大地、新村知里、宮司早織、藤田文子、中村綾香、佐宗文代、京極麻穂子、小林加純、京極大樹、中村雄介、新村洋輔、新村順也、木村智哉。それと担任の渥美あつ子。
全員が何が起こったのか分からない様だった。
私自身も同様に何が起こったのか理解出来ずにいた。教室に居たはずなのに、眼の前の様子は明らかに違った。木造の作りではなく、石造りの柱が何本も建ち、教室よりも明らかに広い空間。私達を取り囲むようにローブを纏った男性が10人程度居た。その外側の壇上の豪華な椅子に腰掛けた男性2人と女性が1人。ローブの中の1人が私達に話しかけた。
「お主等を鑑定する。聖女がいれば国に迎える。その他の者はスキルによりその後を決める」
そう言うとその男性の後ろから別の男性が私達の前に出てきた。
「スキル鑑定」
男性がそう呟くと私達1人1人の目の前にウィンドウの様な物が現れる。驚いて居ると私達を囲っていた男性がぞろぞろとそのウィンドウを覗き込んでゆく。
「聖騎士スキルだ」 「こっちは魔導師だ」 「こっちも魔法使いだ、4属性使いだ」等と言い合っている。その中で私の側へやって来た男性が叫んだ。
「居たぞ!聖女だ」
そう言った瞬間、周りがわぁーっと湧いた。
私がその声に驚きキョロキョロしていると、壇上から20歳前後の青年が歩み寄ってきた。
そして男性達を押しのけ私の前に立った。
「…、嘘だ!こんなデブが聖女な訳ない! 俺は嫌だぞ!こんなブスと結婚なんて冗談じゃない」
これでもかと怒りを込めた怒声だった。その声に恐怖し私は身を縮める。
その青年の言葉にローブの中の1人が答えた。
「殿下、鑑定は絶対では有りません。極稀にですが間違った鑑定が行われる事があります。召喚を行った後ですし、暫くしてから鑑定した方がよろしいかと。しかし、その鑑定に間違いが無かった場合、お覚悟を決めて頂く必要があるかと存じます」
「ローグラ侯爵は俺にこんなデブスと性交渉しろと言うつもりか?! 俺はこの国の次期国王に成る男だ。俺の隣にいて釣り合いの取れる美女こそ相応しい。こんなデブスと性交渉するくらいなら、死罪になったほうがマシだ!」
「殿下、お気持ちはお察ししますが、これも国の為です」
私を無視した話はどんどんと進んでいっているようだった。
「ローグラよ、我が息子がこう言っているのだ。幸い女はその者だけだけでなく何人も居る。その中から相応しい女を聖女に仕立てても良いのではないか? 他の者は見目麗しい者も居そうだ」
壇上の中央に座っていた人がそう言った。
「では、この者は如何いたしましょう。同じ時代に聖女が2人いては不都合も多ございます」
「適当に始末しておけ」
「御意」
ローブを着たローグラと呼ばれていた男が恭しく胸の前に腕をやり、頭を下げている。
まんま中央の偉そうな男は王様だったようだ。そうなると、始末とは殺しておけと言うことだろう。
意味を理解してちょっとちびりそうになる。どうしようと胃がキリキリしだした時、ローブの中の1人の男性が声を発した。
「陛下、恐れながら早急な判断は賢明な陛下らしからぬと…。この者が真の聖女なら殿下と婚姻関係に非ずとも使いようは有るかと。女神の神託を行ってから国の方針をお決めになられては如何でしょうか? 殿下も年頃なれば好意を寄せるお相手くらいいらっしゃるでしょう。そんな殿下に己の心を無視して国の為に犠牲になれはあまりにも酷すぎるかと。女神の神託が出来るまでにしばらくの猶予があります。それまではこの者たちも含めて、状況の理解や今後について考える時間に成りましょう」
ローブを着た男性の意見に、王様はフムッと顎に手をやり考えているようだった。暫くして、「確かに、その方の言う通りかもしれんな」っと言い、側にいた貴族風の男性に耳打ちをしていた。
するとその貴族風の男性は、「この者たちに部屋と食事を」と声にした。それを聞いたこの神殿の様な部屋の隅に畏まっていた侍女らしき人たちが私達の側まで来ると、1人に2〜3人係で立ち上がらせ、案内する様に私達を歩かせた。
この神殿の様な部屋に来てから、私達はずっと腰を抜かしたようにへたり込んでいた。
侍女達に立たせてもらうまで、自分達が何故へたり込んだままなのか疑問に思う者は居なかっただろう。
立ち上がって、何処へ向かってるのか判らないまま歩かされている今でさえ、疑問どころか頭が混乱していた。
ただ、あのバカ王子の言葉だけは忘れることは出来なかった。
人をこんな所に呼出して、なんて言い草だー!
絶対にギャフンと言わせてやる!と密かに燃える私だった。
誤字脱字報告宜しくお願いします。