ジュラン救出
アッシャムの歩いた後は草花が倒れて居るのでそれを目印に歩く。しかし、皇子様とガレが言っていたのはアッシャムの足跡しか無いことが解せないと、誘拐犯やジュランの足跡が無いのはおかしい。それほど距離を開けて付けているわけではない。そんな短時間で草花が踏まれて元に戻る訳はない。その後が無いということは犯人が追跡を警戒して足跡の残らない場所を歩いているということ。アッシャムも気付いて居るだろうが、一層の警戒をしてほしいと身を案じていた。
本当に逸れずについて行けているのだろうかと不安になる道ばかりだったが、此処に来て一本道のような坂道になる。その瞬間ガレは中村くんに合図しミリロの腕を引いて木の陰に隠れさせた。皇子様は私を抱くように木の陰に引き込み気配を消す。少しじっとすると前方を伺い大丈夫だったのだろう、ホッとため息を吐き出した。
「アッシャム殿に警戒するように伝えたいのですが、何か方法は無いのでしょうか?いくら見えなくなっていると言っても気配でバレてしまうかもしれない。捕まれば人質が増えるだけです。こちらには不利になる。そんなこと分っているでしょうが、相手の動きが気になります」
皇子様は耳元で囁くような小さな声で私にそう言った。私は何故か照れてしまいそれを隠すように念視を使って伝えて見ると言った。
(アッシャム、アッシャム!)
(?!珠子様?どうしたのですか?)
(皇子様が言ってたんだけど、犯人の足跡が無いことが気になるって。アッシャムも気を付けてよ。気配辿られないようにね。アッシャムまで捕まったら洒落になんないから)
(僕も気になっていたんです。もしかするともう既に追跡を気取られているかも知れません。僕もそのつもりで追跡しているんですが、珠子様達も気を付けてくださいね。ま、そちらには皇子様達もいますし、ミリロも居ますからね)
アッシャムは既に相手の違和感に気付き追跡をしていたようだ。流石である。
いや、それはそれ。私達ももう一度気を引き締めて追跡を開始した。
アッシャムは坂道を下りきっていた。一定の距離を保とうと私達も慎重に坂を下る。
「急ぎはしますが、慌てて転んだりしないでくださいね。怪我だけでは済まない坂道です」
皇子様は私を気遣うように腕を支えながら坂道を降りていく。
これが済んだら皇子様とのこと決着付けなきゃなぁ・・・・・・。私は沈みそうになる気持ちを奮い立たせジュラン救出に集中する。
坂道で警戒した為、犯人やジュランの姿を目視する事はもう出来ない。頼みの綱はアッシャムの足跡だけだ。その時私はフッと思った。犯人が振り返ったら人通りも無い所に足跡だけが付いてきているような違和感を感じられたらアウトなんじゃ・・・・・・。私が考えている事が伝わったのか皇子様が笑顔で“大丈夫”とでも言っているように頷いてくれる。その表情に少し安心する。私はアッシャムを信じて足を前へと進めた。
アッシャムの足跡を追って進んでいくとその先に村とも言えないほどの小さな集落が有った。アッシャムはその近くの木の陰で身を潜めて居た。
ガレと中村くんがアッシャムに近づきコンタクトを取る。ミリロは1人離れた場所で隠れて居た。私と皇子様はミリロと一緒に身を潜める事にした。
「皇子様、3人で奇襲を掛けてジュランだけでも奪還したいって。私達は様子を見て3人が戻って来なければ応援を呼びに離れてほしいって。私は…皆で帰りたい」
ミリロは比較的自分の気持ちに正直なタイプだけど人に気を遣わない訳じゃない。人を傷つける事は決して言わない。其の辺は敏感に感じ取る子だ。そのミリロが他の人を傷つけるかもしれない事に巻き込む事を言った。それは言い換えればジュランが誰よりも心配で大事なのだろう。
「ずっと一緒に居たんだもんね。離れるのは嫌だよね」
私がミリロを撫でながらそう言うと「ごめんなさい」と聞いたことの無いほどのか細い声で呟いた。
「皇子様、私も皆で帰りたいです。でも皇子様を危険に巻き込む事は出来ない。だから」
「何を言うのですか!僕は貴女に将来后として付き合ってほしいと言ったのですよ。それなのに貴女を置いて自分だけ助かるなんて出来ません。皆で帰りましょう!!」
皇子様がそう私達に向かって笑顔で言ってくれる。その言葉に私もミリロも笑顔が溢れた。
エレノエラさんから裏切られているかもしれないと知ったあの時から、泣くまいと強張っていた心が少しだけ緩んだ気がした。
そうしてガレと中村くんの動向を注視する。
初めにアッシャムが動くようだ。
皇子様が「我々は皆がこちらへ出てきたら一目散でもと来た道を駆け上がりますよ」と坂の上を指差しそう言った。私とミリロは静かに頷いた。
そうしてしばらく前の3人の動きを見ていると、集落の方からかなりガタイのいい男が出てきた。体が少し右へ左へ揺れているように感じる。じーっとその男に注目してみていると、どうやら酒に酔っているようだ。それを確認した3人が集落へ向かって走り出した。先頭を走っているアッシャムが男に回し蹴りをする。すると酔っているからなのか男はいとも簡単に前のめりに倒れた。手に持っていた酒瓶だろうか、パリンと言うガラスがキレイに割れる時の音がした。
ガレと中村くんはそれに構わず集落の中へ入っていく。どうやら集落の入口には見張りは立てて居ないようで2人はどんどんと中へ入っていく。少しして大きな声とその後争うような声や音が聞こえだしたので犯人の仲間と衝突したようだった。
「あの、こんな時ですけど・・・・・」
「珠子様?どうかしましたか?」
「皇子様、私達をあの村に運んでくれた時の魔法ってもう使えないのでしょうか?」
「・・・・・・空間移動魔法・・・ですか・・・・魔力的にはもう回復しているので使えないことは無いですが、3人がジュラン殿を連れて戻ってくるということは、あの集落から追手も来るということになるでしょう。そうなれば犯人の一味までまたあの村に来てしまいます。流石にそれは危険だと思います」
「・・・・・そうですか・・・・。スミマセンでした。余計なことを言いました」
「いえ、あの坂道を確実に敵から逃げ切ろうと思えば当然の案だと思いますよ!」
そう言って馬鹿な提案をした私にまた笑顔を見せた。
金持ち喧嘩せずって言うけど、生まれついて身分が高いからなのか、相当な教育を受けているからなのか、器の大きさを感じた。皇子様って立場だけでモテるだろうに、これは帝国の貴族令嬢は婚約者争い相当大変だろうなと思った。
そんなどうでもいいことを考えていると中村くんが誰かと一緒に戻ってきた。
・・・・・ジュランだ!
その後をガレとアッシャムが護衛をするように走って来る。・・・・・もう1人誰かいる?
皇子様もミリロも私もガレとアッシャムと一緒に居る人物が誰なのか凝視する。
「「「エレノエラさん?!」」」
私達3人の声が重なる。
なんでエレノエラさんまで連れて来るの?
「珠子さま、確か私が聞いた話ではエレノエラは裏切り者だったはずでは・・・」
「私もそう思っています・・・・」
「そんなこと言ってもしょうがない。今はジュランを助け出せたことが先決!私達も逃げよう!!」
そうミリロに促され、私と皇子様は中村くんとジュランに合流するように隠れていた木の陰から道へと出ていく。
「皇子、どうやら我々が想像していたこととは幾分か成り行きが違っていたようです。詳しくは戻ってからご報告を」
走りながら中村くんが皇子様へ向かってそういう。
皇子様も走りながら中村くんに頷く。
私とミリロはジュランの顔を見てホッとする。疲れは有りそうだけど、衰弱しているとか暴行を受けたような感じは無さそうだ。一先ずは安心していいだろう。そう思っているとジュランから私へ向かってとんでも無い提案をされた。
「神子様、全員を飛行魔法で飛ばしてあの村まで帰ろうと思います。私とアッシャムで交代に魔法を掛け続けますが、流石に魔力切れを起こしてしまうでしょう。そこで神子様から魔力供給を受けたいのですが」
「・・・・どうすればいいの?今から飴を作るにしても時間無いし・・・・」
「神子様と手を繋いで飛行します。それだけで大丈夫です」
「手を繋ぐ?」
「はい。手から手へ魔力を流して頂ければ大丈夫です」
「分かった。やってみるよ」
そう言うとジュランは私と手を繋ぎ、中村くん皇子様ミリロ、アッシャムにガレとエレノエラさんに飛行魔法を掛けていく。すると皆浮き上がり、結構な高さが有る木々より高く上がり空中で止まった。ジュランはそれを確認して私と自分に魔法を掛け皆と同じ高さまで浮き上がる。そして村がある方向へ向けて一直線で飛んでいく。そうやって村へ向かって飛行している間、ジュランとアッシャムが交代して居た。
ジュランにしては大胆な案に少し驚いたけど、鳥に成れたようでとっても気持ちが良かった。
誤字脱字報告よろしくお願いします。
更新遅くなり申し訳ありません。




