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エレノエラの言葉

 「エレノエラさんはルブル族が好きなんですね」

 私の言葉にエレノエラさんはまた目を丸くして驚き直ぐにケタケタと笑い「そうね」と答える。

 やっぱりエレノエラさん可愛い!

 「そう言えばコハクの不調が結界があるから良くなったみたいな事言ってましたけど、ルブル族の結界にはそんな力が在るんですか?」

 「いいえ。ただの結界。でもそんじょそこらの結界魔法より相当強固な結界なだけよ」

 エレノエラさんの答えに私は考え込む。

 ただ硬いだけの結界がフェンリルの不調を治せるとは思えない。なら何故フェンリルは体調を戻すことが出来たのだろう?

 「フェンリルの不調は魔力不足か魔力を吸われたからじゃないの?」

 「?どうしてそれを…」

 「結界が強固だって言ったでしょ!それで体調が戻ったのなら魔力の問題だと思ったの。魔族だけが使える魔力吸引の魔法が在るのよ。今では魔族でさえ使うことのない邪道の滅びた魔法」

 滅びた魔法…。

 エレノエラさんの顔を見るとここへ来て初めて見る怒りに満ちた顔をしていた。

 エレノエラさんはその吸引魔法を淡々と話して教えてくれた。

 人と魔族が争った時代が有ったらしい。それはこの世界が出来たばかりの頃。神の力が不安定で魔力暴走を起こす種族も多かったらしい。そんな混沌とした時代に魔族が人から魔力を奪う為に作り出した魔法が今では使われることの無い魔力吸引魔法。

 その争いは皮肉にもその魔法のお陰で幕引きとなったらしい。魔族と争うのに魔法が使えなくては太刀打ちできない。人々は争う事を諦め魔族の支配から逃れる為魔族領と人が暮らす土地に境界を引いたらしい。初めは強い結界だったようだけど、その結界も魔族が張ったもの。人々に魔力が戻り魔法を使えるようになる頃には結界魔法を使える魔導師がいなくなり、その結界は徐々に力を失い、今ではその境界は『透明な壁』と呼ばれているらしい。心理的結界が魔族と人の居住地を分けていて、その境界の近くで争いが起こったことは無いと。

 「人とは本当に愚かな生き物ですね…」

 私はエレノエラさんの話を聞いてボソリと呟いた。

 「ふふっ、貴女はとても優しい人なのね!そしてとても愚かだわ」

 私はエレノエラさんの言葉に驚き、エレノエラさんを凝視する。

 問いただしたいのに言葉が、声が出ない。

 私は俯き黙った。エレノエラさんの愚かだという言葉が私に刺さり、優しい人という言葉が私の周りをフワフワ浮いている。反論出来ない。受け止めることも、言い返すことも出来ない。自分がまだ子供なのだと惨めな気持ちになった。エレノエラさんは決してそんなつもりで言っていない事は解っていても、惨めだった。ここに皆が居なくて良かったと思った。


 昼を過ぎると皆戻って来た。

 フェンリルと騎士達は昼前に戻って来てしっかりとお昼ご飯を御馳走になっていた。

 私は朝の事が有りお昼は遠慮させてもらった。

 まだ私に突き刺さった言葉は抜けず、周りを漂っていた。そんな私の姿を見てフェンリルはフッんと鼻を鳴らすだけだった。

 「神子様、神子様。前にキルトの街で見つけた食材をここでも見つけたので沢山買ってきましたよ!神子様が欲しがっていた倭国の調味料も沢山手に入りました」

 そう言って楽しそうにジュランが話しかけてくれる。私はジュラン達が買ってきた買い物袋の中を覗きながら今の私を覚られないようにと願うだけだった。

 皆が戻って来てからは皆とお喋りをして気を紛らわせていた。アッシャムは村の何件かの畑仕事を手伝い、そこで採れた野菜等を分けてもらったと喜んでいた。新しくした杖はアッシャムに合っていた様で直ぐに馴染み、使いやすかったと今まで見たことの無い笑顔で話してくれた。そんな笑顔を見て気持ちが少し和らぎ、私はエレノエラさんに近づき思い切って話しかけた。

 「エレノエラさん、さっきの愚かだって話し…」

 「そうね…、言葉が足りなかったわね。座ってちょうだい」

 そう言うとダイニング用のテーブルに腰掛け、向かいの席を勧められた。

 私はそこに腰掛けエレノエラさんと向かい合った。

 「さっきは突然にごめんなさいね。でもね、あの言葉は嘘じゃ無いわ。貴女は優しくて愚かだと思うわ。それは貴方が『人は愚かだ』と言ったからよ。・・・貴女はこの言葉の意味を、立ち位置を理解して言ったのかしら?」

 意味?立ち位置?

 私はエレノエラさんの言葉に首を傾げた。

 「そうでしょうね。貴女の言葉は自分を棚に上げた言葉よ。だって、貴女も人だもの!皆が神子様って呼ぶから人とは違うのかも知れない。でも周りから見れば貴女は人に見えるわ!その人が人を愚かだって言っても周りには何も伝わらない。それどころか、今回の話で貴女は魔族側の肩を持った事になるのよ?!あの時解ってた?」

 改めてあの時の会話を思い出す。確かに私のあの呟きは人側の台詞じゃない。でも魔族側の肩を持った覚えもない!そう思い、エレノエラを見る。

 「分かるわよ。貴女はそんなつもりであの言葉を発した訳じゃない。でもそれを聞いた人はどう思うのかしら。いつもそんな事に気を付けて話せなんて言うつもりは無いわ!でもこの話は本当にナイーブな話なの。今もその境界近くに暮らす人も魔族も皆昔の傷を抱えている。異種族の話になるときには自分の立場と相手の立場、それぞれを思いやって貰えるなら嬉しいわ。貴女はそれができる人。だって貴女は本当に優しい人だから」

 そう言うとまた微笑んで私を見た。そして席を立ちお買い物に行ってくるわねと出掛けていった。

 私は再びエレノエラさんの言葉を考える。

 言葉、立場、異種族、そして多分その地が持つ歴史…。

 私は知らないのに、僅かな情報で知ったかぶりをして話したんだ。それできっと知らない所で知らない人達を傷付けた。ジュランやミリロの事を知りたいと思った。アッシャムの話を聞きたいと思った。いつかフェンリルの事を解れたらと思った。でも全部思うだけで出来ていない。そんな怠惰を見透かされたと思った。タイミングを伺ってじゃない。前置きなんか無くても良い。ちゃんと知ろう。せめて仲間の事くらい。いつかじゃなくて、共に居られるこの時に!

誤字脱字報告宜しくお願いします。

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