澄んだ空の下でのティータイム
朝、目を覚ますとフェンリルは元気に庭で風に吹かれていた。
「おはよう。早いね。獲物でも取りに行くの?」
「何故だ?」
「だって、魔物は朝は寝てるって前に言ってなかったけ?」
「そうだったか?まー、偶々目が覚めてしまったのだ。目が覚めたら魔力も回復していて体もすこぶる調子がいい」
「え?本当に?」
「うむ。何故だか分からぬが此処へ来てから調子が良い」
フェンリルを見るとどうやら嘘でも勘違いでもなく、本当に体調が戻ったようだ。これには安堵した。しかし、いくら休養を取ろうと、魔力飴を食べさせようと完全に回復しなかった魔力が完全に回復している。偶然?誰かの意図?何のために?
私が首を傾げながらフェンリルを見ているとエレノエラさんが起きてきて、ニコニコと笑いながら教えてくれた。
「それはね、この地が結界で守られているからだと思うわよ!」
「「結界??」」
「そう。あなた達はブルーバレを通って来たのでしょう?!何か感じなかった?」
エレノエラさんにそう言われてフェンリルと顔を見合わせて考えるが思い当たらない。
改めてエレノエラさんを見て首を振る。
「あの地には魔物は出なかったでしょ!それは何でだと思った?」
「・・・・だって、ブルーバレは厳しい環境が有って、魔物と謂えどもそう易易と入り込める地では無いって言われているって・・・・」
私の答えにエレノエラさんはおかしそうにケラケラと笑いながら答えてくれた。
「それは、彼処を棲家にしているルブル族が広めた噂話ね。本当は、その噂を広めたルブル族が結界を張っているからなの」
そんな話をしている内に他の皆も起きてきて、庭で話している私達の話し声に外へ出てくる。
「神子様、どうしたの?」
ミリロが目を擦りながら私へ近づいてくる。
「エレノエラさんが凄いこと教えてくれたの!」
「凄いこと?」
そう言うと皆はエレノエラさんを見た。
その様子にエレノエラさんはまた笑っていた。
本当に良く笑う人だと思った。それは決して人をバカにしている笑いではなく、純粋に楽しんだり微笑ましかったりする様子を笑顔で見ている感じだ。カルマさんとはまたタイプが違うなと思った。
「ブルーバレには結界が張られているんだって!知ってた?」
「神子様、何を寝言を言っているのですか!さっさと顔を洗って朝食に致しましょう」
エレノエラさんから聞いたことを話したらジュランに一蹴された。
それをエレノエラさんが首を振り頷き、ジュランを止めた。
「本当の事なのですよ。この辺りでは子供だって知っている話です」
エレノエラさんが庭に在るガーデンチェアーに腰掛けた。そして、ブルーバレのこと、ルブル族のこと、この地の事を話してくれた。
元々ブルーバレは今のような気候ではなく、元の世界の現代の気候に近い状態だったようだ。酷暑と極寒の季節で僅かな期間緑が映える季節がある。そんな場所がブルーバレだった。それをルブル族は結界を張ることで今のような気候にしたらしい。酷暑と言っても立っているだけで汗が出ると言うような軽いものではなく、日に照らされれば一瞬で草木も人も動物も燃え尽きてしまうほどの暑さで、極寒もその逆。一瞬で凍りついてしまう寒さだったらしい。それを結界で燃えることも一瞬で凍りつくこともない世界に変えたのだ。その結界のお陰で魔物は侵入してくることが出来ないらしい。結界を張る前は噂通り魔物も当然近寄らなかったらしい。ルブル族はそれを都合よく広めただけに過ぎない。ルブル族は争いごとを嫌い、争いをする種族を嫌う。だから人族が嫌いで魔物も嫌い。比較的穏やかなエルフ族には好意的なようで、エレノエラさん達がこの地に住むようになった頃、ブルーバレの結界を広げてこの地に魔物が入ってこられないようにしてくれていたらしい。頼んだわけでも、恩着せがましく言ってくるわけでも無かったようだ。
「気付いたら私達もルブル族の結界に守られていたのよ。それに気がついてからはこちらから取れた作物のおすそ分けや、祭りへの招待なんかをしていい関係を気付いているわ」
ルブル族の事が気になりはしたけど、フェンリルとミリロのお腹の音が大きくなり、他2人も少しだけ顔が険しくなっているから、私はエレノエラさんに朝食を食べてから改めて話を聞くことにした。
朝食はエレノエラさんお手製の皇国料理だった。
基本は同じでもそれぞれの家の味という感じでカルマさんの作る皇国料理とは違って、エレノエラさんの料理もとても美味しかった。
そう言ったらエレノエラさんは少し驚いて、「そう」と優しく微笑んでいた。
朝食が済むとそれぞれ別々に行動し始めた。
フェンリルは様子を見に来た騎士たちを連れて背の高い草木生い茂る草原に消え、ミリロは珍しくジュランに従いて街の方へ出掛けて行った。アッシャムは手に入れたばかりの杖を持ち、村の人の畑仕事を手伝いに行ってしまった。
私とエレノエラさんは、エレノエラさんお勧めの紅茶を持って再び庭に出て先程の話の続きを聞いた。
「そもそもルブル族は何処にいた人たちなんですか?あそこに住み着いた人たちをルブル族って言っている訳では無いんですよね?」
「そうね。・・・・そもそもルブル族は今はなきルハイドゥラ王国の守り神と言われていた種族なの。それが馬鹿な王族がいらぬ戦争を始めたせいでルブル族は民を守ることに力を使い果たしてしまって国を追われたと聞いたわ。力なき種族は要らなかったんでしょう。それでもルブル族の者は1人も文句も愚痴も言わず民を心配しながらその地を去ったと聞いたわ。それは私がまだ小さかった頃の話で、どれ程前だったか再び戦争をして亡国になったと聞いたわ」
そこで私はミリロの話を思い出した。ルブル族がみリロたちを助けた事があったと・・・。ルブル族はミリロが王国の人間だとわかったんだ。それで助けたって事だよね?!
そう思うとなんだかちょっと切ないかも・・・・。
「ルブル族が守り神と言われていたのは結界の力ですか?」
「そう。あの広大なブルーバレやこの地までも守れる結界を晴れるのは世界広しと謂えどもルブル族だけよ。貴方が連れているフェンリルも結界魔法は使えるはずだけど、ルブル族のそれとは規模も強度も違っているはずよ」
そう話すエレノエラさんはちょっとお茶目な女の子に見えた。
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