ランプアイちゃんが案内するダーター国
こんにちは。私は今回の案内役を仰せつかった第2王女のランプアイと申します。
お集まり頂いた皆様においてはお時間をいただき誠にありがとうございます。
今日は皆様に、我がダーター国についてより知っていただけたらと思い、このような企画をいたしました。
最初に、皆様の中には私の容貌に驚かれた方も居るかもしれませんね。特にリアンドルム大陸外からいらっしゃった中には馴染みのない方も多いと思います。
猫ちゃんの耳が頭に付いている。ふふっ、そうですね、そう見えますよね。確かにこれは平べったい三角で柔らかく、産毛のような毛が生えています。しかし実は、耳ではないのです。軟骨で出来た突起物、とでも言いますでしょうか。頭蓋骨に軟骨が付いているのです。昔は皆様のご想像通り耳の一部であったと考えられています。
このリアンドルム大陸の南にコティスフォールという国があります。我がダーターとも少し国境を接している友好国です。そちらの国の方々のお耳は少し尖っています。
かつて、コティスフォールの民とダーターの民は一つの民族で、長い歴史の中で二つの見た目に分かれていったといいます。その名残がこのツノであり、コティスフォールのお耳です。
今では耳としてはなんの用も成してはいませんが、我がダーターを大海洋王国へと発展させた一端を担っているのはこのツノなのです。
それでは皆様、どうぞこちらへ。まずは我が国が誇る港町へとご案内いたします。
こちらがダーター最大の港町です。ダーター観光をする方々は必ずここを訪れます。国内外の人々が行き交うのでいつも賑やかで鮮やかな活気あふれる町です。音楽団や出し物芸人もそこかしこで腕を振るっていて、どこでも音楽が絶えることはありません。明るくて豪快なダーター人の気質を凝縮したかのような海の町、それがこの「アッティード」なのです。
この町はリアンドルム大陸の中で一番、他大陸に近く、尚且つその途中の海にいくつもの大小20以上の小島があることから、安全な航海がしやすい場所です。そのため、古くから漁業と海洋貿易が盛んに行われてきました。ダーター国が大きく発展できたのはこの恵まれた立地があったからなのです。
ここには、リアンドルム大陸内ではあまりお目にかからない果物やお魚もたくさん売られています。恐ろしげに見えて実は大変美味しい、なんて食べ物もあります。何に使うかちょっとわからないようなお品物もありますし、停泊場では様々な他国の船や文化を見ることができます。見るもの、食べるもの、楽しむものが多すぎて1日じゃ回りきれないほどです。
他大陸から来た方には、故郷の食べ物や文化が遠いこの地で触れられることに懐かしさや安心感も覚えてくれることもあるようです。
どうでしょう、お昼はこの町の市場や、その横の屋台街でお食事してみてはいかがでしょうか。どのお店もおいしいですよ。
それでは次に停泊場へご案内いたします。
その国々の技術が詰まった船はなんて素晴らしいのでしょう。歴史の中で発展してきた、長い航海にも耐えうる大船が並ぶ様はまさに圧巻の一言です。皆様のお国の船もこの中にいらっしゃいますでしょうか。
この並ぶ船のうち、左のあたりに固まって泊まっているのがダーター国の船です。もちろん漁船もございます。国内外から高い評価をうけている我が国の造船技術の発達も、昔から海洋業が盛んであったからというのが一番の理由なのですが、そもそも何故、ダーターの民はこの土地を選んだのか。それはダーターの民の気質が海にあっていたからこそなのです。
最初にお話しさせていただいたこのツノですが、大変敏感にできています。少しの風の流れや空気の湿り気も感じとることができます。ダーターの民はこのツノで潮風を受け、海の天気を知り航海をしてきました。このツノがあったから、我々は内地ではなく海沿いに生活の拠点をもったのです。
他大陸や他国が明確な航海術など持たないうちから、確実に安全に海と触れ合える術をもっていたのです。初めは身一つで泳いで、そのうち丸太を組み合わせて。そうして造船能力と航海術が発達していきました。
それらの技術がある今でも、我々はこのツノで海を見ることを忘れません。安全を確認する術はいくらあっても困らないのですから。
そうした技術を学ぶために各国からダーターの海洋学院にやってくる方も数多くいらっしゃいます。
少し遠いですが見えますでしょうか、あのオレンジの建物がそうです。校内見学の事前申請はいつでも受け付けていますので、ぜひお立ち寄りくださいませ。お土産コーナーもございますよ。
ここまでいくつか町をご案内させていただき、僭越ながら我がダーター国の良きところをご紹介いたしましたが、恥ずかしながら歴史の全てが華やかである国ではないのです。
皆様の中には既知の方もいらっしゃると思います。
それはリアンドルム大陸の警吏隊として機能し、認知されているにも関わらず、我が国がどの国に対しても完全なる信頼を得られていない理由でもあるのです。
現国王である私の父、ソードティルを筆頭にした我々フィレト王家は今からほんの100年ほど前にダーター国を建国しました。国土の形などは古くからあまり変わってはいませんが、この土地は数百年単位で国名と統治者がころころ変わってきました。それもどれも革命や内部抗争などばかりです。もともとダーター人は血気盛んなところがあるからかもしれません。同じリアンドルム大陸のどの国よりも常に短命で新興国なのです。
そんなに簡単に統治者や国自体ががころころ変わる国なんて信用出来なくて当然です。それは我々もわかっているのですが、過ぎた歴史を変えることは誰も出来ません。フィレト家が元は義賊といえど海賊であったことも変わりません。
ですから、これから、少しでも長く国を保ち、ゆっくりでも確実に『ダーター国』としての信頼を勝ち取ってゆきたいと思っているのです。
そろそろ夜も更けて参りました。楽しい時間は過ぎるのも矢のように早いものですね。
残念ながら、1日で全てをご紹介することはできませんでしたが、まだまだ皆様の好奇心をくすぐる場所も物も人もこの国にはたくさんあります。もしよければこれを縁と、またおいでいただければ幸いです。
我が国自慢の宿をご用意いたしましたので、どうぞごゆっくりお身体をお休めくださいませ。
それでは皆様、本日はお付き合いいただき本当にありがとうございました。