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スマラクトリア王国:高位魔術士アルヴァー青年、中庭にて

本編の舞台であるスマラクトリアの王城中庭にて、高位魔術士二人のゆるい会話。

「のどかだなぁ」

 青い空をせわしなく横切る雲を、アルヴァーはぼんやり眺めていた。

 身体中の力が抜けた彼を、王宮中庭にある長椅子の背もたれが硬く支えている。


 アルヴァーは先程「祝福しゅくふく祈術きじゅつ」の仕事を終え、そのままここまでふらふらとやってきた。

 王妃殿下とお腹の御子みこに、高位魔術士一人の全魔力を注ぐこの祈術きじゅつをすると、全身の生命力が空っぽになる。元通りになるまでは丸3日ほどかかる。

 つまり、今日のアルヴァーの仕事はこれで終わりである。

 魔力の無い魔術士ではしょうがないし、何より肉体的にもかなり疲れているので、事務仕事でも役に立たない。


「ああ、あの雲、芋のポタージュに似てる……厨房行って作ってもらおうかなぁ」

 言うは言ったが、今はちょっと動けそうに無かった。

「まずは寝てから、かなぁ」

 自室まで行くには少しだるいので、アルヴァーはこのままベンチで寝てしまおうと思った。目を閉じれば暖かい日の光と、涼やかな風が心地よかった。


「おっ、アルヴァー良い事してんじゃねぇか。俺もご一緒してもいいか?」

 ウトウトとし始めた矢先、豪快な声が耳に響く。座る長椅子への強い振動が、薄い思考を揺り起こす。

「あ……ユッシ?」

 横に居たのは同じ高位魔術士のユッシだった。後頭部で手を組み、同じように空を向いている。

 ふたりは、そのまましばらく無言で雲を見ていた。少し遠くに聞こえる話し声や足音が、この空間の、のどかさを緩やかに彩る音楽代わりになる。


「今日、良い天気だなぁ」

「そうですねぇ」

「こんな日は確かに日向ぼっこでもしたくなるな」

「それもありますけど……ちょっと厨房行って、芋のポタージュ持ってきてくれませんか?」

「ポタージュ? ああ、お前お祈り行ってきたのかぁ。だよなぁ、そうだよなぁ、貰える菓子ひとつじゃあ足りねぇよなぁ」

「足りないですねぇ」

 お祈りの後に頂くお菓子は正直、魔力の足しにしては少なすぎる。続きは自室でとってくれ、という事だろう。ちなみに公務なので、食事は国からちゃんと支給される。

「芋のポタージュだけでいいのか? メシかパンは?」

「とりあえず、ポタージュだけでいいです。部屋まで行けるだけの腹持ちがあれば十分なので。」

 そうかわかった、と言ってユッシは立ち上がった。どうやらアルヴァーの希望を叶えてくれるようだ。

「兵士4人がかりとかで、部屋まで担いでくれないかな」

 離れる背中を眠い目で見ながら、ぽつりと一人ごちる。

「がはは、そりゃいいな。だが俺を担ぐなら、7人は用意してもらわないと落っこちそうだ」

 小さい声だったにも関わらず、ユッシには聞こえていたようだ。笑い声が中庭に響き、近くを通る数人が驚いてこちらを向いた。

 それがおかしくて、アルヴァーもぼんやり頭でくすくすと笑った。

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