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ダーター王国:シミリスと夜の内緒

「私と王子と〜」の主人公の居る国の隣国の話。

ダーター王国:本編より20年近く前くらい。

 夜も更けた頃、シミリスはこっそりと寝具を抜け出した。

 隣のベッドで寝ている姉はよく眠っていてちょっとやそっとでは起きそうに無い。シミリスの一つ年上の姉は昼間、父王に連れられて大型の帆船での漁業視察に行って随分疲れたらしい。

 いつもならこの姉と共に夜更けに部屋を抜け出すが、今日はどうやらシミリスの単体行動になりそうだ。


 なるべく音を立てぬようドアを開き、廊下の人影を確認する。幸い今は彼らの部屋の前には誰もいない。するりと影のように廊下に出ると、今度は足音を立てぬように、しかし軽やかに目的の場所を目指す。シミリスの猫耳そっくりのツノが彼の動きに合わせて揺れる。ほとんどの人々の寝静まった廊下は暗く静かで、一定間隔で置かれた蝋燭ろうそくの灯りだけが長い先があることを教えてくれた。


 シミリスは自分以外に誰も居ないような、この不思議な時間が好きだった。暗闇の怖さなど、この5歳の王子はとうに持ち合わせて居なかった。自然、笑みが溢れる。

 彼の父王が統治するこのダーター国は漁業が盛んで賑やかな新興国だ。豪快で明るい気質の人が多いので、どこへ行っても何をしても、音が絶えない。

 そんな国でも、ただ、深い深い夜の時分には全てが静まりかえっていた。あんなに昼間賑やかだったこの王宮も、別世界のように息を潜めている。音といえば外で夜鳥よどりが鳴く声と、たまに聞こえる見回り兵の出す音くらいだ。

 世界中が自分だけのものになったような、この幻想と錯覚するような空間の中、シミリスは楽しげに足を進めて行く。

 そうして夜勤の兵士や従者に見つからないようにこっそりと、こっそりと、いつものように厨房までたどり着いた。


(今日はどれにしよう! )

 わくわくしながら食糧貯蔵棚を物色する。

 明日の朝食用の野菜や卵、パンから果物、お菓子にミルク……どれもこれもおいしそうでいつも選ぶのに悩む。

 おそらく家臣に見つかれば小言を言われる。母に見つかれば怒られる。

 深夜のナイショのつまみ食い。

 昼間よりも大人の世界に触れている気がするドキドキ感。ちょっといけない事をしている背徳感とスリル。


 夜は小さなダンジョンだ。お宝を目指して誰にも秘密の冒険をする。


 シミリスはオレンジジュースの入った瓶を二つとクッキー数枚を、持ってきた布に入れて、元来た道をこっそりこっそり戻る。横切る度に蝋燭ろうそくの灯りが任務達成のお祝いとばかりにゆらゆら揺れた。


 誰も知らない、ドキドキだらけのシミリスの小冒険。


 そっと自室のドアを閉めてベッドの横に座り込む。

(今日もパーティーの始まりだっ! )

 達成感に満ち足りながら一人、広げた戦利品を食べる。それはさながら、祖先の自由な海賊のようで。

 広い部屋には、規則正しい息遣いと自分が立てる音しかしない。離れた机に置かれたランプが部屋に淡い影を映し出す。クッキーを頬張りながら、昼間とは違う部屋の雰囲気の中にシミリスの意識は漂う。なんとも言えないその時間が彼は好きだった。


(明日になったらガードネリィに一本あげよう、それとクッキーも一枚)

 眠る姉を横目で見ながら、残したジュースとクッキーをまた布に包み直してベットの下に放り込んだ。

(明日の夜は、またガードネリィも一緒に行ってくれるかな。だって二人の内緒なんだから)

 シミリスはベッドの中に潜り込むと明日を思い微笑んだ。



 ふたりの内緒の内緒は、シミリス達の母達も苦笑しながら見てないふりをしていた。そんな遠い昔。

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