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第二十五話【誰かのものであって私のものではない。】

クレアはしゃがんでショックを受けているジグルドに視線を合わせた。


「ジグルド様、焦らずゆっくりやっていけば良いんです。お互い尊重し合えて、心から愛しあえるようになっていきましょう?」

「婚約者殿…いいのか?こんなワシで…減滅していたのではないのか?」

「誰だって間違えはあります。ゆっくりやっていきましょう。」


クレアの優しい笑みにジグルドは涙する。


「そうそう、焦らず互いの事を知っていけば良いのさ。」とクロエルは偉そうに言う。

「そうじゃな。だが、婚約者殿よ。ワシはソナタをギルクライム領にだけは、もう行かせとうない。」


ジグルドにそう言われて一瞬目を見開くクレア。そしてすぐに表情を戻してフッと微笑んだ。


「そうですね。今のところ私をあそこから連れ出してくれた事にだけは感謝していますよ。」

「帰る場所が無ければ、いつでもワシのところへ帰ってくるのじゃぞ。ワシはソナタの気持ちが分かるように、ちと、勉強してくる。」

「はい。」

「会いたくなったら指輪を使うのだぞ。」

「はい。」


ジグルドは立ち上がって涙を拭いた。


「久しい友を目の前にして、もう帰るのかい?」とクロエル。

「ワシはソナタと違ごうて、忙しいのだ。弟子の面倒も見んとな。」

「そうかい。」


ジグルドはパッと消え去った。


「クレア大丈夫?」と私は声をかけながら、しゃがんでいるクレアを立たせた。

「もちろん。どうせ第二シーズンが来たら、私の事なんてどうでも良くなるわよ。」

「クレア…。」

「そんな事より、私もデザイナーとして店を持ちたくなったわ。それを目標に私も頑張らないとね。」

「とにかく、屋敷の移動は禁止だ。愛する妻との思い出の屋敷だ。許せ。」とクロエル。


「それなら仕方ないわね。早速、店をオープンさせて資金を稼がないといけなくなったわね。」

「とうとうオープンの時が来たのね。」

「えぇ。」


屋敷の移動が叶わなくなってしまったので、私は話が終わってすぐにオープン準備に取り掛かる事にした。



◇◇◇ギャラクレア視点◇◇◇


一人、中庭を散歩しているとカメラで写真を撮られたかのようなフラッシュがチカッと光って目の前にジグルドが現れた。


「唐突に現れますね。」

「唐突などではない。ワシはずっと婚約者殿を見ている。」

「監禁の次は盗撮ですか。」

「ソナタ…何故、ワシが誰かのものになると確信しておるのだ?神のイタズラによるものか?」

「そうですね。イタズラと言えばイタズラかもしれません。」

「ふむ、このワシ、ジグルドが攻略対象とやらなのじゃな?」

「どこで話を聞いて、どこまで理解していらっしゃるのか分かりませんが、そうですね。」


ジグルドは左手で自身の顎を持ち、右手は左肘を持って眉間に皺を寄せて悩んでいた。

しばらくすると、纏まったようでポンッと手を打った。


「ふむ、良かろう。ジグルド・ウロボロスという存在自体を消そう。」

「はい!?」


突拍子もない答えに流石に取り乱してしまう。存在自体を消すとはどういう事だろうか?そもそもそんな事が可能なのだろうか?それって死ぬって事?


「そう不安そうな顔をしてくれるな。相手はワシだと分かるから攻略しようとしてくるのであろう?なら、ワシでなくなれば良い話ではないか。」

「はぁ、まぁ…そうでしょうか?例え名前を変えたとしても神様がジグルド様だと認識していれば、その時点で頭が洗脳されてしまってそうですけど。」

「一応、ワシには神が洗脳や、何らかの干渉をしてきた場合、痕跡を見る事ができるんじゃ。婚約者殿に初めて名前を呼ばれた日、確実に我の体に神の痕跡が浮かび上がったのを覚えておる。」

「それって、洗脳されたって事ですか?」

「ふむ、少し違うようじゃな。ワシの場合、自身の魔法契約の内容を書き換えられた方じゃ。愚かな過去のワシは恋に盲目でのぅ、自分の物にならぬと分かっておったのに生涯スイートローズしか愛さないと誓い、いかなる時も守ると契約してしもうたのじゃ。自分で自分に契約で洗脳をかけた。そこに選択肢ができたのじゃ。生涯、スイートローズとミサキしか愛さないに変わってしもたのじゃ。」


ジグルドは魔法契約書を取り出して見せてくれた。

そこにはしっかりと私の前世での名前が刻まれていて驚いてしまった。


「どうして、私の前世での名前が…。」

「ふむ。隠しておるようじゃったから、ワシはずっとソナタを名前で呼ぶことを避けておった。それにギャラクレア・ギルクライムとしての自我の方が強いのであろう?」

「えぇ、そうよ。だからミサキと呼ばれれば別の誰かなような気がして言わなかったのよ。」

「じゃが、ギャラクレアも他人にしか思えとらんじゃろ。」

「まぁ…そうね。私にとって、どちらも良くない存在だわ。」

「ワシは、こう見えて歳よりでのぅ。近頃の流行りがわからんのじゃ。ワシの中では女性は家の中に閉じ込めておくようにするのが常識じゃった。じゃが、今は違うようだのぅ。」

「え!?そんな感じで閉じ込められていたのですか!?」

「あぁ、すまんかった。」


そっか、国の創設者と同じくらい長い時を生きているものね。常識がどこかで更新されてなくても不思議ではないわね。

ジグルドは深く反省しているようだった。だからと言って、私の気持ちが揺れる事はないけれどね。

最初に選んだのは…。

私が最初にジグルドで良いと言ったのは適当に言ったわけではない。おかしな話だけれど、前世で私が一番辛かった時にゲームがバグって「大丈夫じゃ。いつでもワシは、ワシだけはお主の味方じゃ。」というジグルドの音声が流れて、少しだけジグルドが好きになったっていうだけ。

このジグルドは私のじゃない。誰かのジグルドだ。そう、誰かのものになるジグルド。


「許します。でも今後はしっかり調査してから実行して下さい。でないと恐いです。」

「相分かった。」


話は終わったと思ったけれど、ジグルドは一向に帰ろうとしなかった。


「まだ何かありますか?」

「さっき別の誰かになると言ったじゃろう。覚えておるか?」

「何をする気ですか?」

「ワシも何になろうか考えておった。そこでじゃ、ワシは大魔法使いなわけじゃが、第二シーズンとやらが始まるまえに婚約者殿の、いや、この場合ミサキの近しい者になる。今すぐにでもやってやりたいが、まだ弟子のジェイドが不安定じゃ。ギリギリまで奴の面倒をみたい。」

「お好きにどうぞ?」

「頭の中では多少の構造はできておるんだがのう。すまんな。婚約者殿。」

「別に。」


近しい者って何?何を考えてるの?それに、どうして名前を?

そもそも、魔法ってどこまでの事ができるのかしら…。

色々考えていると、ジグルドが曖昧な笑みを浮かべたまま、まだ帰らない事に気が付いた。


「…何か?」と溜息混じりに聞いてしまう。

「いや、今のうちソナタの素っ気ない姿を堪能しておるだけじゃ。」

「は?」

「第二シーズンが楽しみだのう。ミサキ。」

「‥‥。」


何勝手な事言ってるんだか。


ジグルドは私に近づいて容赦なく唇を奪っていった。私はそれでも冷静だった。彼に何の感情もわかない。どう足掻いたって、どうせ神様が決めてしまうのよ。

第二シーズンまでに資金を溜めて外国へ逃亡する事を視野にいれておかないといけないかもしれないわね。

大丈夫、チートスキルを手に入れたんだもの。無敵になったようなものよ。


カツカツとヒールの音を立てて自室に帰った。

ブクマ増えてたので更新しました!ありがとうございます!

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