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第二十二話【告白】

◇◇◇クルス・リスメギス視点◇◇◇


とてつもない解放感を感じた。まさか自分がこの歳で錬金術の頂点とされる賢者の石に到達するなんて…。

私の錬金術の師である、エルメス・トリス先生は「この道はいずれ破滅を呼ぶ。」と言った。それでも私は錬金術を学びたかった。暇という傲慢のせいで。

何度も止められたけれども「終わりたいのです。」と告げればエルメス先生は渋々錬金術を教えてくれるようになった。


「いつか、終わる事を後悔する日がくるであろう。だが、傲慢なお前さんには丁度良いかもしれんな。」


先生の言葉が今になってズシリと自分にのしかかってきた。

まぁでも。あのまま生きていても彼女の足枷にしかなりませんでしたし、これで良かったのかもしれません。ある意味これで彼女と1つになれたわけで。

屋敷全体に自分が賢者の石にしか存在していない存在だと認識するように魔法をかけたので、もう彼女が私の温もりを思い出す事はないでしょう。

沢山泣かせてしまいました。本当にもう少し遅く生まれていれば可能性があったのかもしれませんね。


年甲斐にもなく大声を上げて子供の様に泣き叫んだ。


全て終わってしまって、自分なら国外へ逃げるなりなんなりできたのではないかだったり、凍結魔法でしばらく眠ってしまったりと沢山の事が頭を過った。


「先生、本当に…傲慢な私にはピッタリな最後でした。」


簡単に死にたいなんて、死のうとするもんじゃないと死んでから思ってしまうなんて。

世の中から自殺者が減らない理由が少し理解できてしまいますね。生きたいと、生きていたいと思う側からしたら傲慢でしかない。


賢者の石になるという事は、いつでもどこでもリアを見る事ができる。感じる事ができる。不思議な空間だ。しばらくリアの様子を真っ暗な部屋の中で傍観する事にした。

ジェイド王子が優しくリアの背中をさすっていた。王子にだけ、記憶操作を忘れていましたね。

リアがハーブティーを口にすると、目の前にティーカップが現れて中にはハーブティーが入っていた。なるほど、食事を共有する事ができるのですか。

机や椅子があれば良いのですが…。と思えば一瞬で机や椅子が現れた。なら、リア好みの素敵な空間に住んでみたいものですね。新婚生活みたいじゃないですか。

そう願えば部屋は一瞬でリア好みに変わった。賢者の石になる事も悪くはないようですね。


その日の夜にリアが現れた。


「せん…せい…。」

「おや?どうされました?」

「あれ?どうしたんだろう?勝手に涙が…。」

「そうですか。おいで…。」


精神体、頭の中で会おうと思えば会える都合の良い世界。

リアを抱きしめて、それから頭を優しく撫でる。あぁ、君の感情を全て感じる事ができる。自ら死を選んでおいて、なんて…、なんて幸せなんだろうか。


「もう、おやすみ…私の可愛いリア。」


睡眠を促す魔法をかける、リアがそれを望んでいたからだ。この世界の全ての主導権はエルヒリアにある。此方のリアは私がもらいますね。ジェイド王子。


◇◇◇◇


◇◇エルヒリア視点◇◇


「あら?お嬢様随分と目が腫れていらっしゃいますね。何か悲しい事でもありましたか?」とミアが心配そうに私の顔を伺う。

「ううん。何もなかったはずなんだけどなぁ。全く身に覚えがなくて…。」

「そうでございますか。さて、朝の支度を始めましょう。ジェイド王子がお待ちですよ。」

「うん。」


朝の支度を終えて、食堂へ行くとお父様とジェイド王子が楽しそうに会談していた。


「おはようございます。遅くなって申し訳ございません。」

「おはよう、リア。」と優しく微笑んで挨拶をするジェイド王子。

今のジェイド王子の姿にドキリと心臓が跳ねた。急激にイケメンに成長したせいだ。

「座りなさいリア。」とお父様に言われて、急いで空いているジェイド王子の隣に着席した。

向かい側にはミロードお兄様とお母様が座っていた。


「リア、今の飲食店経営が落ち着いたら王都に住まないかい?」

お父様のとんでもない発言に目が飛び出てしまう。

「はい?またどうして…。」

「いや、ね。将来お前は王族に輿入れする身。王族の一員として相応しい教育を受ける必要があるようだ。」

「しかし、正式オープンもまだですし、人材も教育中ですし…。」

「リア、新たに使用人を増援させるよ。それと、王都にもオープンさせるのはどうかな?」とジェイド王子がとても優しい笑みを浮かべて提案してくれた。

そうすぐに答えを出せる問題ではなかった。自分的には店を運営する裏で孤児院を併設して、そっちの方も面倒をみなければいけない。孤児院を任せられる人も育てないといけないのに、王都へ移り住む等無理に決まっている。

「将来王都へは行きたいですが、今現状は無理がありすぎます。」


『無理ではありません。瞬間移動の魔法を使えば良いのです。私なら何度でも使う事ができます。』


賢者の石の中の番人クルス先生が声をかけてきた。確かに家のドアが王都へ繋がっているかのように行き来できれば問題がない。


『リア、貴女が当初恐れていたジェイド王子が絶命するかもしれないという線は完全に消え失せたようです。精密な魔力コントロールをされて、今まで逆流したりしていた魔力の流れが正常になっているようです。』


賢者の石凄い。そんな事までわかるの!?

って今死なないって言った?てことは本当に王族になっちゃうって事?いや、でも第二シーズンがくれば誰かの攻略対象になって婚約破棄されるに違いない。


「少し考える時間が必要みたいです。」


そう言って朝食を終えて部屋に戻った。しばらく悩んでいるとコンコンとドアをノックする音が聞こえたのでミアに目配せして出てもらった。

「お嬢様、ジェイド王子です。」


中へ通して目の前の椅子に座ってもらった。と、同時にミアが何故か退室してしまいお茶も出さぬままで二人きりになってしまった。

ミアはお茶をどこか遠くへ取りに行ってしまったのだろうか?特別な茶器を使うとか?まぁいいわ。

「どうされましたか?」

「その、聞いてほしい事がある。」

「はい。」

「兄上から第二シーズンとやらが始まってしまう事を聞いたんだ。」

「あら。そうでしたか。」

「リア、僕は自分の意志で君との将来を望んでいるんだ。だからこうして必死に魔力コントロールを覚えて普通に生活して生きられる体になった。それなのに誰かに僕の意思を奪われて別の人と結婚したりするのは絶対に嫌だと思ってる。今回此方へ来たのは気持ちを伝えに来たんだ。」


「えーっと、その、つまり…ジェイド王子は…」


ジェイドは席を立って私の唇を指でなぞった。


「ジェイドと呼ぶように…言ったはずなんだけれど。」

「あ、そうでした。でも、その…急に成長されて少し距離感がつかめないと言いますか。」

本当に眩しいくらいのイケメンに育ってしまったものだから、知らない男性感が凄い。


「うん。さっきも言ったけど、今日は気持ちを伝えに来たんだ。リアは少し鈍そうだし、婚約者の事よりも錬金術やお店の事ばかり考えているようだからね。はっきりと口にするけど、準備はいい?」

耳元でこれでもかというくらいに甘く囁かれるものだから、心臓がバクバク鳴ってしまうし顔も熱くなってしまった。

「ひっ、あっ…え?あの、待っ、待って下さいっ。」

「待たないよ。リアが動いてくれないとどうにもならないから。」

「うっ・・・はい。」

「君の事が好きだよ。エルヒリア。世界で一番幸せにしたいと思ってる。僕は本気だよ。」

読んで下さってありがとうございます!感謝!

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