第二話【婚約パーティー】
お茶会から数週間後、聖女から例の偽神託が下り、国の安泰の為を思い、それぞれが急ぎ婚約を果たした。
私もそのうちの一人だ。
ドーリッシュもサノアルもギャラクレアも皆、日にちをずらして婚約パーティーを開いた。
今日は聖女様の婚約パーティーでギルクライム公爵家に来ていた。流石公爵家、豪邸ではなく城だった。
当然私もクラリアス公爵令嬢として参加する義務があったのでモブキャラの兄にエスコートされて参加した。一応婚約をしているのだ、流石に声くらいはかけないといけないので手紙でジェイド様に聞いてみれば「行きたくない」という手紙が毎度帰ってきたので、それを聞き入れた。
婚約でさえも手紙と書類のみのやり取りだけだ。家族が心配して心配して仕方がない。
「本当に大丈夫か?神託をもみ消す事もできたのだぞ?」と心配してくれる兄エルミロード。」
「もう、ミロード兄様はそればっかり。私の心配よりも自分の嫁探しに集中したらどうです?」
「う、うーん。」
「ほら!あの侯爵令嬢なんてどうですか?美人ですよ!」と兄の背中を押してあげた。
私は一人壁の花になっていると、会場がざわつき始めた。
金髪のサラッサラしたおかっぱヘアーに翡翠色の瞳。誰がどう見ても、その人も王子様に見えた。恐らく自分より10歳は年下なのだろうか、かなり幼く見える。そんな人が私の前までやってきたのだ。
あぁゲームのジャケットに描かれていた人物だなぁと脳裏に過った。
ん?ジャケット…って。
「は?」と思わず声を出してしまった。今、私の目の前にいるのは間違えなくジェイド・スイートローズ。
この国の第二王子だったからだ。
「エルヒリア・クラリアス…であってる?」と怪訝そうな顔をして私に尋ねる。
「え?あ、はい。あってます…けど。」
「いくよ。ダンス。」と言って手を差し伸べてくれるジェイド様。
何が起こっているのかわからないと言わんばかりに目をパチクリさせてしまうが、差し伸べられた手の上に手を置いた。グイッと引っ張られてホールへと出て、ダンスを踊った。
「僕が行きたくないって言ったんだから君も行かなければ良かったじゃん。」
「しかし、公爵家としては出席しておかないと不味い気がして…。」
「君、僕の事舐めてる?第二王子だよ?僕の婚約者になったんだから、こんな下らないパーティーなんてすっ飛ばしてしまえば良いのに。」と引きこもりにしては綺麗見事に踊る自分より背の低いジェイド様。
「それもっと早く教えて下さい。参加しなくて良いって知ってればしてませんでした。」と言えば少し驚いた顔をするジェイド様。
「まさか知ってたら本当に参加しなかったの?」
「はい。私には沢山やる事がありますから。」
「やる事?」
「はい、まずは平民向けの飲食店を展開する事です。」
「平民向け…?公爵令嬢が?」
「はい。なのでジェイド様は引き続き、安心して引きこもり下さい!」
「引きこもりだと?僕は好きで引きこもっているわけじゃない。」
「まぁ、お好きになさって下さい。」
「おい、体とか辛くないか?」
「はい?流石に一曲踊ってるだけで辛くなったりしませんよ。」
「大丈夫ならいい。僕は生まれつき魔力が強くてな。こうして触れていると具合を悪くする奴が多いんだ。」と表情に影を落とすジェイド様。
「そうですか、まぁ私の体は頑丈なので気にする事ないですよ。」
「き、君、本当に公爵令嬢か?品というものが欠けている気がする。」と少し青ざめた顔をするジェイド様。
「すみませんねぇ。品の欠片もない人生を歩んできてるもので。」
どうしたんだろう?ジェイド王子はゲームの中ではほとんど「…」ってな感じで無口でミステリアスな感じのキャラだったのに、良く喋るなぁ。やっとダンスが終わり、解放されると思いきや、腕を引かれて肌寒いテラスに連れていかれてしまった。
「どうされましたか?」
「君、本当に大丈夫なの?こんなに触れてるのに。」
「はい。頑丈ですので。」
そう、もともと私エルヒリア・クラリアスは魔塔主ルートに立ちはだかる悪役令嬢で普通の人よりかなり頑丈にできているのだ。魔力なんてへっちゃらキャラだ。
だけど、第二王子にこんな秘密があったなんて、もしかしてBADENDとしか表示されなかったのは、この裏設定で魔力暴走とか起こして死んじゃってたりしてた?まさかね。
「また…パーティーに出席する時は僕を呼べ。」
「いえ、もう行かなくて良いと分かったので当分はないですよ。」
「そうか。」
「はい。」
無事婚約パーティーが終わり、兄と一緒に帰りの馬車にのった。
「しかし、驚いた。まさかジェイド様が現れるなんてな。」
「私も驚きました。でも、これでお母様やお父様に心配されなくて済みそうです。」
「たった1回だ。まだまだ心配するに決まってるだろう。」
「そうですか。」
そんな事より、私は平民向けの飲食店の事で頭がいっぱいだった。
メニューは今の所ほとんどラーメンでいこうと思うけれど、食材の入手ルートと店舗の確保が全くつかめていない。
どうしてラーメン屋を開こうと思っているかというと、前世でラーメン屋に勤務していた事が一番の理由だけど、ラーメンは毎日食べても飽きない。そして、このいくら食べても太らないボディ!!
ラーメン屋を経営しなくてどうするのだ。
前世では親の残した莫大な借金のせいで、相当な極貧生活をして過ごしていたが、バイトで入ったラーメン屋の店長が1日3食食べさせてくれて、私を100キロまで育ててくれた。むしろ炭水化物以外食べるものが無くて、それで腹を満たそうとすれば太ってしまう。貧乏太りというやつだった。
太り過ぎてスーツも入らなくて、まともに就活をする事もできず、ただ毎日ラーメンを提供し、食らう日々。
そんなどうしようもなかった私が、今世は公爵令嬢。やりたい事をめいっぱいして、遊んで暮らすぞー!!
「おー!!!」
「エルヒリア、とうとう頭がおかしくなってきたのか?」と兄がとても心配そうな顔で此方を見つめる。
「あら、失礼致しました。オホホホ…。」と言って口元に手を当てて笑って誤魔化す。
寒冷地体のクラリアス公爵領に馬車の中から外をチラりと見れば雪がちらついていた。しばらく見ていると道端で蹲っている小さな体が見えた。それを見た瞬間、前世での自分が頭に過った。
借金を残して逃げた父親、お母さんはどうにかしようと働いて、体を壊して死んでしまった。
一人家に残された私は飲み物や食べ物がなくて調味料を舐めたり、トイレの貯水タンクの水を飲んだりと酷い生活をしていた。幸い餓死する寸前で大家さんに発見されて施設入れてもらって助かった。
蹲っている子供が小さい頃の自分と重なって見えた。
「兄様、馬車を止めて頂けますか?」
「ん?」
馬車がとまり、降りて先程の子供が蹲っているところまで走って駆け寄った。
これは私だ。あの頃の私。
「おい、放っておけ。」
「嫌です。」
「孤児は沢山溢れてる。」
「溢れてるですって?…ここはもうクラリアス公爵領ですわよね?」
「あぁ。」
「雪が降っていますわ。このままでは凍死してしまいます。」
私はその子を抱き上げた。既に体は冷たく、死んでいるのか生きているのか分からないくらいだったが、息があったので生きているという事だけはわかった。
「お、おい!!正気か!?気でも狂ったか!?エルヒリア!」
「正気ですわ。この子を育てます。」
いつになく真剣な顔をして兄に訴える。兄も本気だと分かったのか、溜息をつきながら馬車へ戻っていく。
私もその子を抱きかかえたまま馬車へと乗った。その子供からはとんでもないドブのような泥臭い匂いが馬車内に広がった。兄は顔色一つ変えずにじっと私を見つめていて、私は吐きそうになるのをこらえながら子供を擦って体温をあげようとした。
餓死しかけた私を見つけた大家さんも、こんな感じだったのかな。
いつもありがとうございます。




