第十六話【錬金術で建築もしてみせます。】
ジェイド王子が送って下さった使用人の中には建築業に携わる家の者や、商家の者、漁師の家の者、とても珍しい家柄の人達がいる。そのおかげでラーメンスープも無事作る事ができて、商人とも引き合わせてもらえた。肝心な店は今日やっと建築できるとこまできていた。
建築業に携わる家の出の使用人にお願いして土地の回りだけ木で囲ってもらい、そこに布を被せてもらっている。直ぐにポンッと建ててしまったら周囲に怪しまれるし錬金術士だってバレてしまう。一応錬金術が使える事は秘密にしないといけない。だから裏の屋敷の使用人は口が硬いジェイド様の使用人に任せていた。それとクルス先生とジェイド王子の魔法契約で縛られていて秘密だと言った事は関係者以外の人には何も話せないようになっている。
早速建築予定地に到着した。布をぺらりとめくって中に入った。中には大量の木材、大量の鉄のインゴット、大量の石材、粘土、大量の羊の毛、牛の皮、ガラス、そして染料がぐちゃぐちゃに置かれていた。
「お嬢様、材料は全て揃えてあります。それから人払いも済ませてあります。」
「ありがとう。じゃあ錬金術士としての初めての大掛かりな錬金を始めるとしましょう。」
先ずは錬金術で道具全て混ぜ合わせ黒い塊に変えてしまう。その黒い塊は長方形で高さは10メートルはありそうだった。手の平にインクで錬金術式を書き地面にあてれば、井戸のようなものが出来上がった。それから井戸を錬金術で加工して自動で水を吸い上げられるようにし、浄化装置も取り付けた。これらも全てドーリッシュのスキルのお陰である。地面に錬金の術式を書いた札をペタペタと何枚も貼り付けて、土台を作成するとその黒い塊が少し小さくなったように見えた。これは資材を消費している証拠である。
土台が完成したらインクを使ってビッシリと錬金術式を書き込んで、その上に重ねるように何層も札を貼って用意しておいた札を全て貼り切った後、テントから出てテントに札を貼った。その札に触れるとガタゴトと大きな音とゴゴゴゴといった地響きのような音が鳴り始めて地面も揺れた。
数分して揺れも音もおさまった。錬金術で土地を囲ってあるテントを解体すれば立派な店が立っていた。
「これは…。まさかここまでのものとは思いませんでした。」
使用人がとっても驚いていた。
「ふふふ。秘密よ。」
「くぅ…言いたい。」
早速店の中に入ってみるとボックス席が20席、カウンター10席。
次に調理場に入ってみた。水道は問題なく使えて、お湯も出せる。換気扇も問題なく動くようだ。
最後にやらなければいけないのは排水処理と下水処理だ。これはクルス先生がどうしても自分にまかせてほしいというので、到着を待つしかない。
先に二階へ上がってみた。まずはお貴族様が来られても大丈夫なようにVIPルームを一応2つ用意して、さらに宿屋もできるように3畳ほどの部屋が2つと5畳の部屋を用意した。ベッドや家具も問題無く錬成されているようだ。3階にも部屋を作った。これはこの店に住み込みで働いてもらう為の従業員用の部屋だ。
4階には屋上があって、洗濯物を干す為にある。だから洗濯機もわざわざ屋上に用意した。前世の世界だったら屋上に洗濯機を置くのはきっと苦労するだろうけれど、この世界はありがたい事にファンタジーが詰まっているから、大体の事は都合良く進められるようになっている。そう、錬金術や魔法でね。
「お嬢様、リスメギス様が御到着されました。」
「わかったわ!」
一階へ降りてみるとクルス先生が青く薄いバリアを張って現れた。
「どうされたのですか?そのバリアは魔法ですよね?」
「はい。この排水処理に使う物体は非常に危険ですから、こうして私に触れれぬようにしてあります。言い忘れていましたが、国全体の排水や下水処理は全て国家錬金術士によって管理されています。ですから下水や排水の処理を施す際には必ず国に申請する必要があるのです。無料ですから、誰でも申請は可能です。」
クルス先生は説明しながらも小さな黒いキューブを取り出して魔法で手の平に錬金術式を書き込んでそれをキューブに貼り付けていく。やはり魔法は将来習得しなければいけないかもしれない。
「すみません、リア様。どちらが排水溝でしょうか?」
「あ、こっちです!」
クルス先生を排水溝へ案内した。
「本当に変わった構造ですね。見たこともない器具や鍋。調理場も不思議なものだらけですね。」と言いながらも排水溝に黒いキューブを埋めてそれが取り出されないように幾重にも錬金術や魔法を施した。
「先生、その黒いキューブはどういう構造をしているのですか?」
「デタラメそのものですよ。適当な錬金術式を詰め込んで無限を作り出します。その無限に圧縮術式を数回重ねて小さくしてからこうして排水溝や下水口に設置してこのキューブに全てを吸収させるんです。」
「なるほど!ブラックホールなのね!何でも吸い込んで消し去ってしまうって感じですか?」
「え、えぇ。その通りですが。リア様の飲み込みの早さにはいつも驚かされますね。」
先生は何故驚いたのだろうかと少し思ったが、宇宙という概念がまだ少しないのかもしれない。だからブラックホールといってもピンとこないだろうし、私が理解できている事が不思議で仕方がないのだろう。
数時間後、ちゃんと完成した店を外から見てジーンと胸が熱くなった。
やっとオープンする事ができる。ドーリッシュのチートスキルのお陰だわ。後で本当にお礼しなくっちゃ。それとクレアの魔法が織り込まれた制服も凄い。服自体は吸収性に優れていて、エプロンの方は速乾性に優れている。服を作る容量で靴まで作ってくれた。靴を作るのは初めてだったらしいが、作りたいと思ったら作れてしまったそうだ。クレアのチートスキルがどこからどこまでの範囲なのかまだ分かってはいないけれど、とてもありがたい。
後は、従業員を育てるだけだ。孤児の中でも、成人間近な子にはマナーを学んでもらい執事教育を受けてもらっている。その子達の中で将来私に仕えたいと願う子に従業員として働いてもらおうと考えていた。
ところで私にもチートスキルとやらが現れないのだろうか。
「ここをお通りになられては困ります!」と護衛騎士の声が聞こえて、ふと振り向けば赤い…否、返り血を沢山浴びているシスター服の女性が大きな斧を肩に担いでこの道を通ろうとしていた。
私が急いで駆け寄り「聖女様!!」と声をかけた。
「リア!!」と私の名前を呼び目を輝かせる聖女様。
「どうして此方に?」
「クラリアス領地に魔物が出たって聞いて退治してたの。」
「ありがとうございます。丁度お店の建築が終わったんです。見ていかれますか?」
「いい。私、血に濡れてるし。」
聖女様がふいっと顔を逸らした。すると私の後ろからクルス先生がひょっこり現れて、杖を取り出してクルっと振れば聖女様にベットリとついていた血が綺麗に落ちてなくなった。
「凄い・・・。これが魔法?」
クルス先生はニコッと微笑んだ。
「そうだ!せっかくだからラーメン!食べていかない?」
「ラー…メン?」
聖女様をお店に招いてカウンター席に座らせた。スープの石を水の入った小鍋に放り込み、錬金術でカタチを変えていたら麺を取り出して元のカタチに戻して、ガラスに錬金術式を書き込んで器にして、そこへ完成したスープ、麺をいれて上に具をのせた。錬金術で割り箸も作ってみた。
「どうぞ。聖女様。」
聖女様は慣れた手つきで割りばしを割って無言でラーメンをすすった。するとポロポロと涙を流した。泣きながらラーメンをすする聖女の隣に座って頭を撫でてあげた。
「まだ学生さんだもんね。色々と不安だったよね。」
「うん。」
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