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第十五話【ギャラクレアのチートスキル】

ミシンが完成して早速クレアに使ってもらう事になった。


「どう?クレア!どう?」


クレアの仕事部屋にはクレアの他に孤児の子が4人縫物をしていた。三人女の子で男の子が一人。4人は縫物が好きという事でクレアが滞在しているうちに学ばせているところだ。

4人の子供達も興味津々といった感じでミシンを扱うクレアを見た。


「凄いわ!本当にちゃんとミシンだわ!これなら沢山服を、いえ、最先端のドレスを作る事ができるわ!」


クレアの一言で私は飛び跳ねながら喜んだ。子供達も目をキラキラと輝かせながらミシンを見ていた。一応部屋に配置されているメイドも驚いていた。

これぞ現代チートなり!!と腰に手をあて、鼻高々に心の中で自慢した。

既に開いたドアにコンコンとノックする音が聞こえて振り向くとクルス先生が微笑んで立っていた。

「先生!」

自然と口角が上がって自然と胸が高鳴った。嬉しいから抱き着いてしまおうと思っていると、さらにその後ろからプレジャデス王子が拍手をして「おめでとうございます。」と言って現れた。ストンとテンションが素に戻ってしまう。

「プレイヤード。」

プレジャデス王子と呼んでしまったら、色々不味いので【プレイヤード】という偽名を使ってもらっている。

「プレジャデス王子じゃない!!」とクレアが大声で立ち上がりながら叫んでしまって、慌ててクレアの口を塞ぎにいった。

「しーっ!!声はそっくりだけど別人なの!!ク、クレアは声フェチだから錯覚しちゃうかもしれないけれど!!あ、あんなに!!そう!!あんなに引っ付き虫だったんだものね!」

とても苦しい嘘をいっぱい並べてクレアがプレジャデス王子だと言い当てたのを誤魔化した。

顔を青くさせたクレアが暴れて私の手をふり解いた。

「ち、窒息するとこだった!!」

「ご、ごめんなさい。」

「コホンッ。失礼致しました。プレジャデス王子と声がそっくりだったもので、つい名前を叫んでしまいました。」と綺麗な作り笑わいをするクレア。

「ギャラクレア様が此方にいらっしゃるとは思いませんでした。初めまして、今日からここに配属されました、プレイヤードと申します。」

プレジャデス王子は丁寧にギャラクレアに挨拶をした。ギャラクレアもまた丁寧に挨拶を返した。

「それにしても凄いですね。ミシンという高速で服を縫うという機械を作り出すなんて。」

「えっと、まぁ。ドーリッシュ様の知識を少しお借りしてなんとか完成させる事ができました。」

「なるほど。あぁ、そうだ。サノアル様にお茶をお煎れしないと。」と言って去っていくプレジャデス王子。

プレジェデス王子が完全に消えてからパタンと戸を閉める先生。それから先生は杖を取り出して防音魔法をかけて下さった。

「はい。これで大丈夫ですよ。」と言ってニコリと笑う。

その瞬間部屋にいたみんなが「ぷはぁ」と息を止めていたかのように息を吐いた。


「何!?何なの!?どうしてオフの王子が堂々といるわけ!?しかも燕尾服まで着て!!」とクレアは私に詰め寄ってきた。

「えーっと、とにかく悪者ではなかったというか。王命だから言えないというか。とりあえずサノアル付きの執事になったと言いますか…。」

「サノアルをアレにまかせて平気なの!?」

「多分大丈夫なはず。」と言いつつも少し顔を引きつらせてしまう。

「それにしても器用な方ですね。王城とクラリアス邸を瞬間移動で行き来して。」

そんな話は初耳で思わず「そうなの!?」と驚いてしまった。

「あぁ、知りませんでしたか。私は王族のお抱え錬金術士なので、この手の情報は誰よりも早く入ってきたりするんです。」

「そうなのですか。」

「王子の事はもちろん驚いたけれど、ミシンを作り上げたリアにも驚きよ。」

「えへへ。クレアに喜んでほしくって。」と正直に言えば少し照れてしまい頭を掻く。

「そうだわ。リアに話しておきたい事があるの。部屋へ来てくれる?」


◇◇◇

クレアの部屋は質素だった。公爵令嬢に相応しい部屋かと言われたらそうではない。一応欲しい物は全て揃えてあげてほしいと使用人には指示を出したはずなのに。ベッドと一般的なクローゼットとテーブルと椅子のみ。壁紙は白いまま。好きな本とかも買えば良いのにと思ってしまうくらい寂しい部屋だ。

「実はね、私ギルクライムの血筋の癖に全くその才能を発揮できないでいて、肩身の狭い日々を送っていたの。使用人からも両親からも冷遇されてね。お兄様はもともと堅物だから冷遇とかはしてこなかったけれど、関りはほとんどなかったわ。本当に居場所がなかったの。前世の記憶を思い出したからといってそれが変わる事も変える事もできずにいたわ。そんな私を見かねてジグルドが私を魔塔に拉致したの。家よりマシかと最初は思っていたのだけれど、ジグルドったら、段々とベタベタしてくるようになってしまって、挙句の果てには部屋から出るなって。だけど、しばらくしてジグルドはジェイド王子に夢中になって、逃げだすチャンスができたの。だからお茶会にも参加できたの。」


かける言葉が見つからなかった。誰もが恵まれていたわけではない。私だって自分の性格が悪すぎて、家族との仲が最悪な状態からのスタートだった。でもそれは、性格を直せば良いだけの話。だけどギルクライムは呪われた血筋のせいで剣術の才を発現する事が暗黙の了解として義務化されていた。そんな中、能力を発現できないクレアは馬鹿にされて当然だし冷遇もされてしまうだろう。

相当辛い人生だったに違いない。私の前世のように。


「そんな顔しないで。」と言ってクレアは私の手を持つ。

「クレア…。」

「私ね。ここへ来れて良かった。また裁縫ができて毎日楽しくって。それに生徒さんまでいるし。今とっても私の人生の中で前世ほどじゃないけど充実してるわ。つい最近なんだけど、ギルクライムの特別な能力が私にも発現したの。」

「え!?おめでとう。剣術?」

「ううん。裁縫のチートスキルよ!」

「えぇ!?裁縫の?」

「私が縫った服には魔法効果が付与されるみたいなの。まだどんな魔法が付与されてるかとかは明確にはわからないけれど、子供同士がぶつかっておデコにタンコブができたのを見た時に、氷水をいれる袋を縫おうとしたの。そしたら氷水を包んでもいないのに袋が氷のように冷たくなったのよ。その他にも夜になると光るハンカチを作っちゃったりしてね。私、無能なお荷物ってずっと言われてたけれど、これでもう誰にも言わせないわ。」

「そっか。クレア、良かったね。でも、ミシンを使っても魔法付与はされるのかな?」

「さっき少しだけミシンで布を縫った時に、ちゃんと魔法が付与されているか分かるように冷たくなるように念じたら、冷たくなってたわ!ミシンを使って作っても問題ないわ!」

クレアはとても嬉しそうだった。

「クレア、いつまででも居てくれて良いからね。」

「ありがとう。でも、この力で自分の人生を切り開いて見せるわ!」

「そっか、応援してる。」

「沢山制服を用意するわ!子供達の服も、それからリアのドレスもね!」

「うん!ありがとう。」


話が終わればクレアはやる気満々で裁縫室に入っていった。

私も、いよいよ店の建築をするとしましょうか。押さえた土地に必要資材を運んで錬金術で完璧な店を建てないと。色んな事が一気に起こったけれど飲食店への道は着実に進めないとね。

感謝!

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