後編
「私、幽霊なんです」
廊下で泣いていた女性がそう言った。
確かに顔色も良くないし、全体に透明感がある。
職業柄あまり驚きもせず、何気なく尋ねてみた。
「堀之内さんとはお会いになれましたか?」
「ええ、お話は出来ませんでしたがお元気そうで、奥様とお幸せそうにされてました。結婚されてたんですね」
「先月、新婚でこのマンションに越してきて挨拶にこられました。お知り合いなんですか? 」
「私、元カノなんです。三年前、私が死んだ時、すごく悲しんでくれて、二人の想い出のあるアパートも引き払って越して行かれたみたいなんです。幽霊になった私にも探しようがなくて……やっと、今日見つけたんですが」
「冷たいようですが、生きている人にとっては亡くなった方の想い出は想い出として、新たな人生を出発する方が大事だと思いますよ」
「そうですね。でも、私、これからどうしたら……」
ぼくは彼女の手を引いてエレベーターホールに行った。
「このマンションは20階建てです、でもあなたは21階に行けるんですよ」
エレベーターに乗り込むと21階のボタンを押す。
「魂がこの世を離れた瞬間から21階が現れるんです。そこが天国です。実はぼくも先週死んだばかりなんですよ」