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6話 駆ける


 エルブイの動画を見るためにチャンネルをスライドしていた。


 そういえば人気な動画とか、過去の動画を見る機能があったっけ。

 その機能にして、一番人気な動画を見てみたい。


 探した、見えた。

 右下に、それがある。


 一番人気な動画、それは意外なことにマインクラフトじゃなくて、リアクションの動画だった。


 世の中には色々な動画が存在する。

 壁を走って飛び越えるやつや、高いところを命綱で渡る動画。

 壁を走って越えるやつって“パルクール”と、他のユーチューブが言ってた気がする。

 それらを見た自分の反応、リアクションを収めたのがリアクション動画だ。

 後で見てみるか。


 一番古い動画は、どれだろう。

 古い順に動画は並んでいる。


 一番上、つまり一番古い動画の下には、“一年半前投稿”と書かれていた。

 チャンネル登録者数は15万人。

 一年半で登録者15万の伸びはどうだろうか。そんなに多くはないと思う。

 150,000人がこの動画はおもしろいと思って登録ボタンを押したってわけか。

 俺の町の人口より1万人多いじゃん。

 まぁ、引っ越すけどさ。


 「はぁ…」


 一番古い動画のタイトルは“登録者数300人記念 エルブイのおもしろ場面”と書かれていた。


 サムネには何かのホラーゲームの怖い化け物が見える。

 化け物+エルブイのおもしろ場面。

 ほほ〜ん。

 こりゃおもしろそうだ。

 一番古い動画が300人記念なのは、古い動画を消しているからだろうか。

 まぁ、なんとなく分かりそうな気がする。

 

 ふと、4、5列下の方の動画に目が止まった。

 その動画は“登録者数5000人記念 gun SYNC”と書かれていた。

 開始3秒、解説が目に映る。


 “えーSYNCは海外で流行っている銃系の音楽動画。以上”

 文字なのに話し言葉というのもエルブイらしい。

 すぐに銃の音が聞こえた。


 「え……」


 チキンサバイバルの動画を見た時みたいに心臓が高鳴る。

 なにこれ、めっちゃ新鮮。

 銃の発射音を曲に挿入してドラム代わりにするものというのが分かった。


 「めっちゃいいじゃん」


 しばらくそれを聞いていた。

 銃が発射される映像も臨場感ある。

 gun SYNCって好きな人は好きだと聞いているけど……俺はどちらかと言えば前者の方だろうか。


 ずっと映像を見ていた。

 引っ越し……。

 ドラムの回数が多いからかもしれない。

 連続で発射される銃の音が、俺の心臓をえぐっている気がする。

 しばらく、ずっと、その動画を見続けた。



 「ほぉ、はぁ、ほぉ、はぁ」


 外を走っていた。

 正しく繰り返されている呼吸の音に、安堵感を覚える。

 まぁ、走っていることは俺の習慣なんだけど。

 

 「いいか、レイ。じいちゃんはなぁ、小さい頃に毎日走っていたんだよ。だから今はあんなに元気なんだ。分かるだろ?ほら、ほら」


 筋肉の腕を俺に差し出すじいちゃんがうざかった覚えがある。

 じいちゃんは昔記者だったらしい。詳しくは、従軍記者。

 取材していたところは、ベトナムだ。

 なんという偶然というべきか……。

 ベトナム戦争の話をよく聞かされる。


 「それで、じいちゃんの隣に、なんとあの地雷が。そしたら遠くの方で光が見えたんだ。南方の軍に見つかっちゃういけないなと思って、でも地雷があるから、一か八かの選択を……」


 ベトナム戦争の時代のベトナムは北、南と両方に分断されたらしい。


 「それで?何が伝えたかったの、じいちゃん」

 「毎日走っていた方が、健康にいいってわけだ」

 「はぁ?」


 もちろん最初は嫌がっていた。

 走っていてつらいし、息が苦しい。

 でも走り終わると、体が謎の苦しみと爽快感に包まれていて、なんとも言い難い気持ちになる。


 あれなのか、体を限界まで使って走る。命を使って走る。それが気持ちいいのではないか。

 とにかく俺はじいちゃんを見習い、毎日5km走っている。

 

 「ほぉ、はぁ、ほぉ、はぁ」


 走っている時は、嫌なことが思い浮かばない。

 ただただ、目の前を見て、足を動かすだけ。

 引っ越しのことか…。


 限界を超えて走ろう。

 死んでしまったらそれもそれでいいのではないか。

 限界を超えることに意味があるんだ。

 何もかも忘れて、ただ考えずに走って。

 空がオレンジ色に染まっていくなか、俺はいつもより長く、家の周りを走っていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公に感情移入できました。 今回はいつもと違った感じですね。 続き楽しみにしてます! 無理はダメですよ。あと、テストが近かったら気をつけて下さい(前回やらかした人です)
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