5話 乾いた笑み
エルブイの“ーMinecraftーHEXXIT1話 たくさん、たくさんのダイヤ!“という動画を押す。
今回の動画は6ヶ月前のものだった。
Hexxit……ヘシットモード?何それ。
「今回、外国で流行っている”Hexxitモード“をプレイしていきたいと思います。あの、ヘシットMODとはですね…聞いたことないでしょう? 僕もですよ笑。いやなんか僕の、登録者さんがこのモードを紹介してくれました。冒険をテーマとしたMODらしいです。詳しいことはプレイしてからということで」
ここ何ヶ月かエルブイのチャンネルを見て、いくつかのことが分かった。
エルブイは基本ネタバレなしでゲームをプレイする。そして、そのゲームのことを何も知らないでプレイするという、新鮮な状態を視聴者さんに伝えるのがエルブイのスタイルだということが分かった。
視聴者も一緒にそのゲームを楽しむみたいな、そういう感じか。
ワールド作成が終わったらしい。
「え、何これマジ? ダイヤが地上にあんの?」
「は?巨大なダイヤの剣。デカ!」
「攻撃力+15ぉ?」
リアクションがいちいち大きいのはエルブイのいいところなのか、悪いところなのか…
なるほどね、さすが冒険用モードと言われているだけある。
モンスターがとにかくたくさん。夜だけじゃなくて、昼もモンスターがいる。
高さが20ブロック分ある“ジャイアントゾンビー”がいたり、首が3つある犬がいたり…
なるほど、これがMODなのか。
サンドウィッチとかクッキーに似てるな。
中身に卵を入れたら卵サンドウィッチになるし、ぶどうを入れたらぶどうクッキーになる。
マインクラフトとはその中身を挟むやつで、もっと面白く、美味しくしたいなら中身となるMODを入れとけばいいのか。
「ぎゃああああ! 巨人! 巨人! やだー、俺、殺される」
「死にたくない!」
「………………………」
エルブイはそれらのモンスターに出会うたび、叫んで逃げていたりした。
下手さが変わらないっていうには流石に草。
だってほら、6ヶ月も経ってんじゃん?
「はぁはぁ、マジでやばい」
「さすがに勝てないっす」
うんーそこは勝って欲しいかな。
マインクラフトってモンスターを倒して豊かになるゲームだと思うけど。
エルブイは死んで、また生き返って、また死んでというのを繰り返した。
でもダイヤは集めていたのでフル装備になる。
「Keep inventoryってやつ便利ですよね。死んでも荷物は自分の手の中にありますもん」
さすがチキン。チキング。
マイクラには確かにそういう機能あるけど、そういうことをしていいのか?
これって動画だよ?
エルブイおもしろい、色んな意味で。
動画はダイヤのフル装備になったとこで終わった。
相変わらず一つの動画あたりの満足度は高かい。
部屋で動画を見ていると玄関のとこでドアが開く音がした。
足音からして、母さんか。
まぁいいや。俺はまた動画を見続けることにした。
母さんに見られたらiPadを取り上げられる可能性もあるけど、どうせすぐ帰るし。
それにしても最近帰ってくる頻度高すぎだろ。
普段1ヶ月に一回なのに、1ヶ月くらい前から二週間おきにここに帰ってくる。
リビングから喋り声が聞こえた。
「…………引っ越し?」
「……まぁ………いつかは………けど」
アパートだから声は聞こえやすいと思うけどな。
今引っ越しと言ってなかった?
嘘かな……あはは。
また動画を見始めた。
何でだろう。
瞬きをしなかった。
エルブイは動画の中で叫んだりしながら、隻眼のアイアンゴーレムと戦ってる。
目が乾くけど、問題ないか。
人間って悲しくなると笑うって言われているけど、こういうことだったんだな。
俺だけがおかしいか。
「あはは、あはは……」
3日後のことだった。
「あのさ、母さん再婚することになったんだけど……」
「大丈夫?」
そんな目で見つめるな。断れないだろ。
「うん。いいよ」
「引っ越しをすることになるけど、ごめん」
知ってた。知ってた、知ってた。知ってた。知ってた。
部屋で一人、笑う。泣くんじゃなく、笑う。
俺そろそろ頭がおかしいのかもしれない。