ーUNKNOWN PLAYERー『零.』⑦ トロッコ
アキ:▷エルさ、ファニーラーゼとゴルセーヌの練習の調子どう?
エルブイ:▷平行線状態です……。なんか、ファニーラーゼと、ゴルセーヌの動きが難しいんですよ。
あれから、数ヶ月が過ぎた。
『バトルゴールド』、または『bp』と書いて、『バトルポイント』と読む。
キャラなどを買う時に使うゴールドだ。
戦闘のあとにゲットをすることが出来るが、他に、『アチーブメント』と、『ログインボーナスチェスト』でゲットすることができる。
アチーブメントは、任務みたいなもの。
“100キルする=500bpがもらえます”
“タワーを100回破壊する=700btがもらえます”
俺はそのアチーブメントを中心的に取り組んで、btを貯めた。
そしてついに、価格『24000pt』のファニーラーゼを買うことが出来た。
「え、むずくね?」
俺はワイヤースキルを、移動用のためだけに使っているから、ワイヤースキルを早く使うことができない。
普通のキャラは、一回の使用でクールダウンに30秒がかかって、ストック上限も2回。
だから、連続して、ワイヤースキルを使うことに慣れていない。
敵の近くに飛んで、ファニーラーゼの必殺1を発動させることはできるわけだけど……。
敵に与えられるダメージが少なく、俺が受けることになるダメージの方が多かったりする。
ていうか、そもそもワイヤースキルが外れる。
外れて、敵のタワーの方に飛んでしまう。
右と左の壁に引っかける位置を間違えて飛びすぎて、敵タワーに飛んじゃって、タワーの攻撃で死んでしまう。
ファニーラーゼは、難しかった。
次に俺が買ったキャラは、『ゴルセーヌ』だった。
なんで俺は、難しいキャラを買ってしまったんだろう。
ゴルセーヌの必殺2は、5つのダガーを、広範囲に投擲する。
広範囲だ。
だから、遠いところから相手を狙っても、1つのダガーしか当たらない。
だから、近くで、ダガーを当てる必要がある。
1つのダガーは低いが、5つも集まると、違う。
“当たったダガーの回数で、次のダガーのダメージが10%も増える。それが、10秒持続する”
“ゴルセーヌのダガーは、近距離で敵に当たった時、その距離が近ければ近いほど、ダメージが増える”
以上の2つの理由でゴルセーヌのダガーを近距離で当てると、ヤバいくらいのダメージが生じる。
必殺1は、『マークダガー』を1つ投げて、相手に当たったら、マークする。
相手に当たってマークした4秒後、もう一回使用したら相手の背後に、飛ぶことができる。
それで、相手に接近をするのだ。
必殺3は、ゴルセーヌの周りの、決められた円のどこにでも、テレポートすることができる。
テレポートをすると、必殺2と3のクールダウンは、0になる。
クールダウン0=必殺2を使用したあとに、もう一回必殺2を使用できるということだ。
ゴルセーヌは、バーストキャラだな。
ゴルセーヌも、ファニーラーゼは、職業がアサシン。
動きと、コンボの量が多く、とても覚えられないほどだった。
ユーチューブの攻略動画を見て、コンボとかを知ることができたけど……
「上手くいかないんだよなー」
ファニーラーゼのワイヤースキルは、2つの壁、左と右にワイヤーを引っ掛けて移動するもの。
でも、飛んでいる状態で、もう一つワイヤーを、つまりワイヤーを三箇所に引っ掛けると、飛ぶ方向が変わるらしい。
『ワイヤー三連コンボー』と呼ばれている。
当時の俺にとっては、覚えられそうにない技ばかりだった。
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アキ:▷そういえば、エルはラインをやっているの?
エル:▷え、急になんですか?
アキ:▷いや、エルと話してみたいなって。もう、数ヶ月くらい友達になってるっしょ?
エル:▷あ、まぁ、そうですけど……
アキ:▷教えて、俺はエルとそっちでも話したい。
心臓が一瞬、飛び跳ねたような、そういう感じ。
トランプリンをやった時の、何かが体からすーっと、抜けていくような。
エアコンをかけているけど、なぜか、暑い、すごく暑い。
時が早くなって、遅くなる。その繰り返し。
俺の気のせいか、でも、指が震えていて。
我慢できなくなって、iPadを机に置いた。
周りの空気を吸って、その空気が鼻を通って、肺に入る。
それを、たしかに感じて。
「はぁ……」
「何分経った?」
「3分……」
エル:▷ここでも、話せるんじゃないですかね。
アキ:▷そうだけどさ、スタンプとかあんまり使えないじゃん?
エル:▷そう、ですけどね……
汗が、止まらない。
心臓が、すごく、振動が、伝わる。
音が、心臓の音が、自分の身体の中で、すごい鳴っている。
それを、とても強く、感じた。
「ははっ」
なんか、笑っちゃうな。
好きな人と二人きりの時って、こういう気分?
アキ:▷あ、ごめん。飯落ち。
エル:▷了解です。
アキ:▷まぁゆっくり考えればいいよ。明日返信待ってる。
エル:▷おけ。
「マジで、どうすりゃ……」
ラインは親しい人としかやっていないですとか、そういう感じ?
怪しまれるのか……。
「いいや、もう」
眠気を感じた。
残りは、明日考えよう。
「今は、ただ……」
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そんな、必要もなかった、らしい。
さっきから、俺はディメンショナル・オンラインの画面を見ていた。
「ローディング中……」
「ゲームの中に入れない……」
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで?
故障?
ゲームシステムになんかあったの?
だるっ。
「だりぃな……」
ファニーラーゼとゴルセーヌの練習は上手くいかなかった。
左上にある、自分のアイコンをタップする。
戦績のとこに入った。
“プレイヤー『エルブイ』勝率:51.12%”
は?
いや、自分が下手だからって分かるけどさ。
アキさんは、まだ仕事中だろうね。
オンラインもしていないし。
ユーチューブの方。
“解説! アサシンで難しいキャラ、ゴルセーヌ。使いこなせば強いんです”
他の人、普通にプレイできてんじゃん。
「あー! いいこと思いついたー」
わざと、陽気な声で俺は言う。
「ポチッと、ね!」
“『ディメイショナル・オンライン』を削除しますか?”
“『はい』//『いいえ』”
「はーい」
「は、はは」
そういえば、『サブ垢』って言うのがあるんだっけ。
アカウントを消して、最初からやり直すやつ?
キャラクター育成ゲームとかで、よく見かける。
初期に育成すべきキャラを間違えて、それで消し、最初からやり直すみたいな。
このゲームは育成じゃない。
アカウントを消しても、何も、変わらないと、思う。
自分が買ったキャラがなくなって、それでまた買うのに時間をかけるだけ。
さっきまでiPadの画面にあった、ディメンショナル・オンラインのアイコンがいた場所をなぞる。
なぜか、色々な言葉を思い浮かんだ。
人は簡単に、死ぬ。どんな強い人でも、銃弾一つで。
あの判断で、全ての人が救われた。
生死の一択。
あそこでお前が気をつければ、この子は助かったんだ!
誰?
俺って最近、妄想し過ぎじゃね?
なんだろう。
ゲームを消したのに、まだ、そこにいる感じ。
俺が一時間休憩して、iPadを開いたら、すぐに入れる感じ。
また、誰かにすぐ会える感じ。
そこをタップすれば、また入れる感じ。
「タップ一つで、全てが変わるんだね」




