ーUNKNOWN PLAYERー『零.』④ 天へ昇るが如く、龍が巻く
試合が始まる前に、『キャラクターピック』の時間がある。
自分と、マッチングしたチームメイトで何を選ぶのか、決めるのだ。
時間は数えてないけど、大体1分くらい。
その間に、『スペル』というものを選べる。
本当は『バトルスキル』と呼ぶらしいけど長くて時間がかかる。
その理由でプレイヤーの間では『スペル』と呼ぶと、『Jの者』さんから聞いた。
スペルとは、自分のヒーローを助けるサポート技みたいなものだ。
スペルは、『執行』、『狩猟』、『奮起』、『疾走』、『回復の泉』、『守護』、『石化』、『浄化』、『火炎弾』、『瞬間移動』、『降臨』、『報復』の、12スペルがある。
執行だと相手に少量のダメージを与えることができて、疾走はその名の通り、足の速さを一定の時間、速くすることができる。
俺はまだ、執行と、疾走と、回復の泉しか使ってない。
奮起も見てみたけど、その効果は“通常攻撃の速度を上げる”という、地味なものだった。
「メイジを使ってる俺には、関係ないか」
スペルは『プレイヤーレベル』が上がるごとに解放される。
俺はまだレベル9だから、『執行』〜『回復の泉』間のスペルしか使えない。
「回復って、いいよな」
スペルの説明欄を詳しく読むと、hpを25%回復できるって書いてあった。
他にもっと強いスペルはあるかもしれないけど、今はこれを使おう。
試合が始まった。
敵の使うキャラは、『グールドベア』、『趙雲子竜』、『ハナビ』、『ファニーラーゼ』、『ラズリーヌ』か。
ファニーラーゼ?
「どういうヒーローなんだろう……」
試合の、ゲーム開始前は、『ロード画面』というものがある。
その画面で俺とチームメイトは、敵プレイヤー5人の使用ヒーロー、使用スペル、プレイヤー名が見れる。
逆に敵プレイヤー側には、俺とチームメイトの使用ヒーロー、スペル、プレイヤー名を見られる。
ロード画面は、だいたい、20秒くらい続く。
そのあと、ゲームが開始するんだ。
「ファニーラーゼか……」
そのプレイヤー名の名前は、『Misaki ✿ 振』
使用するスペルは狩猟、だった。
ゲームのマップの、ミドル、トップ、ボトムレーンの間には移動できる道があり、その移動できる道の脇に、『ジャングル』というものがある。
ジャングルには、『モンスター』というものがあるんだ。
ジャングルは、ハンターと、アサシン職業がやるものだっけ。
そういう、追加チュートリアル『ジャングルの狩り方』もあったな、俺はやってないけど。
ジャングルとはどういうものなのか、俺ははっきり知らないし……。
「どういうのだろう」
『狩猟』、その響きに、俺は不穏なものを感じた。
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「え、え、え、え、え、嘘だろ?」
ワイヤースキルがどんどん発動されていくって、マジ?
「は? は? は?」
いや、間抜けな声を出してるって自覚はあるけど、あれはないだろう。
ファニーラーゼというキャラから、ワイヤースキルが4回くらい、連続で発動されている……。
「ハッカーぁ?」
“全員のヒーローにはクールダウン30秒の、ストック上限2回の、『ワイヤースキル』があります”
これ、嘘だったの?
「いや、このキャラだけ特別なのか? このキャラだけ、ワイヤースキルのストック上限が多いとか?」
いや、よく観察してみると、Misakiというプレイヤーの、hpの下にある黄色ゲージが減ってる。
それも、ワイヤースキルを発動するたびに。
ヒーローのhpバーの下には、『マナゲージ』がある。
マナは、必殺技を撃つのに必要なものだ。
マナが足りなければ、必殺技は『使用不能』となる。
だとしたらファニーラーゼは、そういうキャラなのか。
ワイヤースキルを使用するたびに、黄色ゲージが減って。
よく見たらワイヤースキルを使用し終わったあと、黄色ゲージがどんどん回復していって……。
「そういうキャラか」
よし、燃えた。
勝つぞ。
ファニーラーゼのワイヤースキルが壁にどんどん当たって、今は空中を飛んでいる。
「てか、立体◯動装置を使って巨人を倒す、あの漫画みたいじゃん!」
ワイヤースキルを二つ出して、移動する仕組みとかほぼ一緒。
ファニーラーゼは俺を通過していき、何かが発動して、俺のhpは減った。
なるほど、そういう感じか。
空中で飛んでいる時、敵まで一定の距離に近づいたら別の必殺技が発動するってやつか。
「対処方、なくね?」
ワイヤーの移動は早く、俺の近くをどんどん通過していく。
俺もワイヤースキルを使って逃げるが、2回しか発動できなくて。
ファニーラーゼの必殺技も、俺を通過するたびに発動されて、最後にウルトらしきもので俺は、倒された。
「早ぇ……」
咄嗟の判断でグールドベアのウルトを最後に発動したけど、ファニーラーゼのhpが残り5割になったとこで、倒された。
試合はMisakiの、無双状態だった。
俺は倒されて、復活して、タワーら辺に出ても、すぐ倒されてしまう。
タワーはどんどん壊され、ついに、ベースのタワーも0になった。
負けた。完敗だ。
画面に大きく、『敗北』の文字が映る。
試合のMVPはもちろん、Misaki。
試合が終わっても、しばらく俺は画面を見つめたまま、放心状態になった。
キャラクターストアで調べたら全然ハッキングとかそういう問題じゃなくて、実際にワイヤースキルを黄色ゲージのある限り連発できるキャラ、『ファニーラーゼ』の説明があった。
すごい……。
「これはすごいよ……」
“必殺技1。ファニーラーゼが飛んでいる状態で、敵がファニーラーゼの通常攻撃の範囲内にいると、発動する“
”必殺技2。ワイヤースキルをエネルギーがなくならない限り、連用できます“
”必殺技3。必殺技1でダメージを与えた時、マークを1つ敵に付けます。一人の敵につき、マーク上限2回。マークがない敵にもウルトを打つことができますが、ダメージは普通です。マーク1つにつき、ウルトの基本ダメージが30%増えます“
ファニーラーゼは近距離キャラだから、通常攻撃の範囲は小さいけどさ……。
ファニーラーゼの容姿は、茶髪の若い女の子。高校生くらい、だろうな。
剣を二つ、手に持っていて、幼い感じの顔で、可愛い。
さっきの、ファニーラーゼが必殺1を繰り出す時の、モーションを思い返してみる。
巨人を、倒す漫画の、リ、あの兵長の動作に似ている感じ。
竜巻みたいに、体を舞わす。
名前が『Misaki ✿ 振』で、『振』がついてたのも、これが理由か。
踊るみたいに、剣を振る。
だから名前が、『振』。
頭の中で、叫びたいという衝動が抑えられない。
言葉が自然と溢れ出るような、そんな感じ。
うるさいって分かる、その衝動を抑えられなく、俺は叫んだ。
「かっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
前話の、『エンパス』のサブタイトルと、主人公のこれからの設定は、アーヤ様の、下記の話を参考にしました。リンクを貼っておきます。
https://ncode.syosetu.com/n2173hn/6/
この作品に出てくるプレイヤーの名前は、自分で作ったやつです。
実在するプレイヤーを参考にしたりとか、そういうのはありません。
もし名前が被ることがあっても、それは偶然ですので。
サブタイトルの意味:龍が巻く=竜巻




