ーUNKNOWN PLAYERー『零.』① チュートリアル
新章開始。
ゲーム要素がたくさんあります。
自分の右手を見た。
あの肌色の光がまだ、残っている、俺の軌跡。
なんか、やることないな。
戦争のニュースを見ていたんだ。
巨大連邦国家に侵略されているあの国の、戦争のニュース。
俺に出来ることは、なんだろう。
考えて考えて考えまくった。
結局、何もいい案が出なかった。
ニュースで、侵略されている国の、葬式の映像が公開された。
聖堂に、棺が運び込まれるところの映像。
たくさんの人が泣いていた。
泣いている子供を抱く母親らしき人……。
戦争で死んでしまった戦士の、葬式なんだろう。
「映像の中で泣いている人達にも、それぞれの人生があるんだよな……」
その人にしか、知らないような人生。
生きている人の数だけ、ドラマがあると言われているし。
ふと、自分の人生を文字にして、書いてみたい。そういう衝動に駆られた。
小説じゃなくて、日記みたいな。
パソコンとかは使わない。手で書きたい。
「日記帳みたいなやつあったっけ?」
俺はめんどくさがり屋だし、あんまり長く続かないかもな。
これを書き終わったら、誰に見せる?
「みゅ……」
あの頃は本当によかった。
夢のような、美しくて、綺麗な世界に囲まれた。
あのゲームにハマっていたあの時期は、本当にいい思い出だと思う。
現実は暗いけれど、あのゲームに入っている時は、なんでも忘れることができた。
日記じゃなくてもいいな。
俺がしてきたことを要約して、日記帳に書くだけ。俺自身が、忘れることのないように。
美しい思い出を、文字として残す。
そう決めて俺はゆっくりと、過去に思いを馳せた。
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“白髪の女の人が弓を打つために構えをとっている“
それが『ディメンショナル・オンライン』のゲームのアイコンだった。
本当に、おもしろいのかな。
アイコンをタップして、ゲームを起動する。
“ローディング中”
“プレイヤー名を入力してください”
名前か……何にすればいいんだろう?
エルブイ? かっこいいし。
別に正体を偽るとか、そういうことはしない。名前を借りるだけ。
『エルブイ』と俺は入力した。
”ディメイショナル・オンラインへようこそ。プレイヤーのあなたにはこれから、チュートリアルを受けてもらいます”
言語設定は、日本語にした。
エルブイの動画で、このゲームのやり方は多少知っている。
MOBA。マルチプレイオンラインバトルアリーナの略称。
5vs5のゲームで、2チームになる。
5人のプレイヤーで協力し、相手の本タワーを壊したら勝ち。
タワーディフェンスみたいな感じかな。
できれば、エルブイがパソコンでやっているMOBAの『LOL』をやりたかったんだけどな……。
俺はiPadしか持っていないからしょうがない。
チュートリアルが始まったらしい。
“左の丸いスティックを動かしてください。それが移動スティックです“
”右の剣マークをタップしてください。それが通常攻撃のやり方です”
“通常攻撃のボタンの周りを囲んでいる三つの丸があります。それが必殺技のボタンです”
“下の丸が『必殺技1』。真ん中の丸が『必殺技2』。上の丸が『必殺技3』です。必殺技3は通称、『アルティメイトスキル』とも呼べます”
“ルートは3つに分かれています。『↗︎』『→』『↑』ルートです”
“『↗︎』ルートはミドル。『→』ルートはボトム。『↑』ルートはトップと呼びます”
“一定の時間が経つと、ミニオン兵がスポーンします。ミニオン兵は相手のタワーを攻撃するために動きます”
“ミドル、ボトム、トップルートに行くミニオン兵はそれぞれ3体ずつです”
“このゲームは『本タワー』と『副タワー』があります。本タワーを壊したら勝ちです“
”副タワーは各ルートに三つずつあります“
”タワーの射程圏内に入ると、タワーに攻撃されるので気をつけましょう“
”タワーは単体攻撃しかできません。自陣のミニオン兵がタワーに攻撃されている時に、その隙を見て攻撃しましょう“
”ヒーローは通常攻撃でしかタワーにダメージを与えることができません“
”ヒーローの通常攻撃はタワーの射程より少し短いくらいです。ミニオン兵が攻撃されている時に攻撃することをお勧めします“
”敵のヒーローが現れました。必殺技や通常攻撃を使用して敵を倒ししょう“
“各ルートの三つの副タワーの内の、最後の副タワーを壊したら敵の陣地に入れます”
“敵の陣地に入るためには、最後の副タワーを倒すことでしかできません。倒さずに入ると、タワーの攻撃にやられてしまいます”
”60秒のクールダウンがある、『ミニ回復機能』。自分で設定できる、『スペル機能』があります“
《ここからがこのゲームのオリジナル要素です》
“全部のヒーローにはクールダウン30秒の、ストック上限2回の、『ワイヤースキル』があります”
“このワイヤーを壁に引っ掛けると、壁の方に引き寄せられます”
“移動の時に便利ですので、上手く活用しましょう”
なるほど……こういう感じなんだな。
立体◯動装置を使って巨人を殺す、あの漫画みたいなやつか。
早くチュートリアルをやり終わり、俺は早速マッチングをスタートする。
これはオンラインゲームだから、マッチング機能を使ってプレイヤーを集める。
ていうか、これ意外とおもしろそうじゃね?
言葉では上手く表せそうにない、何かがある。
マイクラとは違う、何かが……。
“まずはゲームに慣れさせるため、それと不正アカウント防止のため、数試合を、AIと戦わせていだだきます”
“ゲームのチャット機能、オンラインプレイ機能はその後にご利用できます”
“皆様が安心して、楽しめるようなゲームを目指していますので、そこはご了承ください”
そうなんだ……。
でも、もういいかな。
「おもしろ、そうじゃん……」
胸が熱くなり、指が震え始める。
何かが起こるような、そういう予感を俺はたしかに感じた。
「早く始めないとな」
画面の左の、移動用スティックを動かすために俺はゆっくりと、指先を這わせたのだった。
ゲームの内容を丸々真似するのはよくないと思い、オリジナル要素を追加しました。
『ディメイショナル・オンライン』は某ゲームを改名したやつです。
ルール説明が少し難しいと感じた方は、ググってみるといいのかもしれません。
15話の伏線に関連する文が出たってことは、お気づきでしょうか。




