表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/27

16話 彷徨

 夜道を歩いていた。

 

 どうなんだろう。


 アパートの階段で、朝が来るまで待つということも考えていた。


 オッケー俺がアパートの住人だとして、考えてみるね。



 私は会社の関係で正月だけど、4日に会社に行くことになっている。

 仕事の鞄を右手に、ゴミ袋を左手に持って、ドアを開けた。

 2階だから、階段をいつも使ってるんだ。

 え、階段に寝ている子供がいる?

 しかも見た目が10歳くらいの、若い子供だ。


 大変だ! なんとかしないと!


 

 目を閉じて、俺は他の可能性をも考えてみた。



 俺は寝ていた。

 そして突然話し声が聞こえてきたのだ。

 

 「えー! 何これ。男の子?」


 目を開ける。

 目の前には俺の母さんと同じくらいの年齢の女の人と、俺と同じくらいの、女の子が立っていた。

 心配そうに俺を、見ている。


 好奇心をも混じった、心配そうな瞳で。


 

 アパートで夜を過ごすのはやめとこ。



 「レイあのさ、そう言えばね、マークさんに言われた」

 「何を?」

 「ボーイフレンドいるの?って」



 「ちょっと母さんのためにさ、アパートの下のポストを確認しに行ってくれない?」

 「はーい」


 ➖ガチャリ。


 「え……」


 たった今、鍵がかかった時の音してなかった?

 ドアを開けようと取っ手を回す。

 開かない。

 インターホンを鳴らしてみた。

 ドアが、開かない。


 インターホンを鳴らしてみる。1回目。

 15秒待って、もう一回鳴らす。2回目。

 ドアが開かないので、もう一回試してみた。


 連打した。インターホンを。

 連打連打、連打。

 ドアは、開かなかった。



 なんで俺が母さんに家を追い出されたのか、心当たりはあると思う。


 あれだ、父さんに母さんのボイフレのことを話したからだ。


 「なんで俺は、話したんだっけ」


 

 俺が英語を話せるようになるため、父さんは俺と積極的に英語で会話した。

 間違ってるとこがあれば、正しい方を教えてくれて。

 何か前の前に物があったら、それを英語でなんていうのか、教えてくれる。

 俺と父さんは、仲良くなったと思う。


 「She has a boy friend」

 「Really?」


 父さんは一瞬驚いたような顔をしたあと、俺にこう聞き返した。

 

 「Yes」


 もう一回、俺が言った言葉を、父さんが繰り返した。

 

 「She has a boyfriend……」



 「なんで、俺は、言ったんだ……?」


 記憶力に自信はある。


 なのに、なんで俺は父さんにそう言ったのか、覚えてない。


 成り行き? 俺はそういう言葉は嫌いだってんのによ。


 我慢できずに、俺は走った。


 目指す場所はない。

 

 周りの景色に目を通す。

 道を覚える時は景色も一緒に覚えた方が、記憶に残りやすい。


 俺は全速力で走った。


 車に跳ね飛ばされるんだっけ?

 大丈夫! 大丈夫だよー

 問題ないんだよね! そうだねーうんうん!

 走るのって、楽しいな!

 俺は走るの好きだ〜


 何かを殴りたいような、そんな気持ちを足に移すようにして、地面を蹴りながら走った。


 疲れたから、走るのをやめて歩いた。


 酸素を肺に満たすため、口を開けたまま呼吸しながら歩く。


 どこで寝ればいいんだろう。


 警察行こっかな。


 交番?


 あのね、あのね、僕ね、ママに、家を追い出されたの!

 それでね、家の中に入れないんだー

 助けて!


 こういう感じかな。


 でも、どうなるんだろう。


 子供ってのは、すごいよな。


 試しに、俺が何か硬いものを見つけて、それを自分の腕にぶつける。

 足にぶつけたり、ももの部分にぶつけたりする。

 何か嫌なことを思い出して、それで泣く。

 それでね、交番に行くんだ〜。


 どうなるんだろうー楽しみー。


 今から、交番に行ってみよう。


「………………」


 結局、行かなかった。



     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 何年後かになって俺は気づく。


 なんであの頃の俺は、交番に行かなかったのか、その理由。


 自分の居場所を失うのが、怖かったからだ。


 そしてまた、無意識に、ただただ無意識に。


 当時はただ、めんどくさいと思ってただけだった。


 でも、そのめんどくさいという意識の片隅にあれはあったんだ。


 小さく、ほんの少し。自分でも気づかないうちに。


 それに気づいて俺はまた泣く。


 あの頃の俺はただの、子供だった。



     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 寝るのに適した公園を見つけた。


 滑り台が一つ、ブランコが3つだけある小さな公園。


 滑り台の左側には大きい木があって、ベンチがその木に隠されるように設置されている。


 誰にも見つからないように隠れるにはもってこいの場所だ。


 「俺は男だからな、悪いやつに襲われる心配はないし……」


 今夜はここで眠ろう。





 寝れなかった。


 まただ。


 最近俺はよく寝れない。


 指を適当に動かして、何かのリズムを作る。


 ありもしない、別の並行世界のことを考え始めた。


 幸せというシャボン玉に囲まれている、すごく優しい、綺麗な世界。


 そんな世界を俺は眠くなるまで、想像し続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 一番最初の場面で、追い出されてどうしようって考えた場面なの?その間になんで追い出されたか理由を入れて、また追い出されたところの場面に戻っていてすごいと思った。 めっちゃ自然に読めた。 [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ