12話 疑心、あるいは
先に言っときます。これフィクションです。
それと、気のせいの『心做し』から、疑いを抱くの『疑心』になりましたね。
家に帰ってきた。
「それでさ・・・あはは、おもしろいね」
マークさんはまだ仕事中で、六時半まで家に帰ってこ来ない。
母さんはマークさんとの結婚をきっかけに、今まで勤めていた旅行会社を辞めたらしい。
だから、あんなに楽しそうに話しているのか。
iPadを手に取っていた。
母さんは週一時間って言ってる割にあんまり気づかないっていうか……取っていいんだよね?
急いで気づかれないようにiPadを取って、自分の部屋に戻る。
「はぁ」
疲れたな。
エルブイの動画を見るのが最近の、俺の習慣。
母さんがあれのせいであんまり、見ることが出来ないけど。
“ーMinecraftーチキンサバイバル最終話 エンダードラゴンとの戦い……だと思ってたのに……“
何この意味深なタイトル……。
エルブイのことだからヤバそうな予感しかないんだが。
「いよいよ……この日が来ました。
あ、僕はちゃんと準備してきましたからね?
フルエンチャントダイヤ装備にしてるし、頭の中でシミュレーションもしたし、ユーチューブでたくさん攻略動画も見てきました。
まぁこれで大丈夫っしょ。問題ない。行こう」
「これ……フラグじゃね?………」
「大丈夫、問題ない」と、もう一回声に出して言ってみる。
うん。フラグだな。
「ア・エンドだぜ! よーし。塔まで登って、エンダードラゴンの回復を妨害してー。うふふ♪」
ジ・エンドな笑。
「一つ目破壊完了。次は二つ目だ」
エルブイの視界にエンダードラゴンが映る。
「はぁ?吹き飛ばされたぁ?」
塔は奈落の近くにあったので、そのまんま奈落に。
「………………………………………………」
(悲しい音楽がエルブイの動画で流れた)
「………………………………………………」
エルブイは無言のまま、復活ポイントのベッドから起き上がり、家の周りの整地を始める。
「あ……はい。ということで今回の動画を終わりに……したいと思います。はい。
俺も頑張っているつもりなんですけどね。もし、次の動画でエンダードラゴンを倒せなかったらこのシリーズを終わりにしたいと思います。ご視聴ありがとうございました。さようなら」
めっちゃ笑った。
お腹がすごい痛くなってきた。
なんで、こんなに面白いんだろうね。
決してマイクラが上手いわけでもないのに……これがエルブイスタイルか。
ていうか、花梨のあれ……聞き間違いだったのかな。
俺が転校してから、隣の席だったけど。
どういう感じの好き? 普通に友達としての? ていうか俺友達になってたっけ。休み時間にはよく話すけど。
これはそのあと、何年が経って、俺が高校生になっても分からない答えだった。
花梨が俺のことを当時どう思っていたのかは知らない。
ただ、“花梨ちゃんの好きな人”と花梨の友達が、“レイシ”と花梨が発音したのは確かなこと。
俺の記憶力は正しいから間違いない。
もし、あのあと、歯車が狂っていなかったら。
もし、俺の家族がそんなもんじゃなかったら。
俺は、花梨と付き合うことになったのだろうか。
それは、分からない。
ただ、時が過ぎてゆく………。
「Where・・・・・・」
トイレに行きたくなって、自分の部屋を開けたら声が聞こえた。
リビングから声が聞こえる。母さんの声だ。
「Wof ・・・love you so much・・・」
母さんは旅行関係の会社に勤め、英語の大学も出ているから、英語ができる。
しばらく立ち止まった。
しばらく、しばらく、しばらく、いやもう5分。
もうちょっと待つ、いや、もうちょっと待った方がいい?
待つ方がいいよね、うん。もう5分くらい。
電話の向こうの相手は明らかに、マークさんじゃなかった。
「When do you think that will ・・・da・・・」
「Love you・・・・」
あーもいいや。
あはは。
トイレに入る。
トイレが終わり、俺はもう一度ドアで隔てられているリビングの方を見る。
中指を立てた。
半透明のドアの向こう側に。
お母様笑が向こうで笑っているであろう、ドアの方に。
中指を。




