ープロローグー 零
「仲良しほーるどー」
「え……あ、そっか」
レイシは隣で寝ていなかった。
レイシだと思っていたもの、あれは普通の抱き枕だった。
「はぁ……」
母さんに友人(嘘)と2泊してくるって言ったのに、3日も不在って……。
「未読無視……最長記録」
仕方ない……のかもしれない。
レイシはまぁ、マイペースだし? 今まで何十回か、「少し散歩する」って言ってそのまんま帰って来ないこともたくさんあった。
何十回。ここ大事。
レイシの“少し”はちょっと規格外だからね……。
だけど……既読もついてないということは、今まで一度もなかった。
どんなに長く家を出ても、メールを送ればすぐに既読が付く。
もしかして、他の人と……?
「うぅ……」
そんなことない。レイシは私のものだよね?
だって、ほら、あれだよ?
そこまで思い出して、私は赤面をした。
帰って来たら一度殴ってもらおう。
『小説を書こう』のサイトに行って、メッセージボックスを開く。
私がレイシからもらった鍵で、レイシの家に入る1時間前に届いたメール。つまり3日前のもの。
“やっほー。ちょっとさー俺家出するねー。
あとさ、『不眠』の小説ある程度完成したからそれを投稿してもらってもいい?
書き溜めていたんだよ、俺の本気作。
今回は日間ランキング行きたい。
下のやつの指示通りにやって欲しいんだけど大丈夫?
覚えているだろうけどさ、俺のアカウントのパスワードも書いてあるからよろしく。
毎回ありがとう“
そのあとの内容は、“夜の9時に投稿してね”とか、“数分だけずらして”とか、詳しいことも書かれていた。
「日間ランキング9位……!」
「それなのにレイシは何をやってるの」
9位という文字の後に、レイシの作品の題名を見た時は驚いた。
PVは毎時間、レイシの前の作品と比べて何倍と増えているのに、実感が湧かない。
多分、そういうものだと思う。小説を書いたのが私ではなかったからというのもあるかもしれない。
こういう大事な時にレイシは連絡を1つともよこさないという。
『~○○能力者の成り上がり~ 「○○」は連中が思っていたよりもチート能力だったようで』
これが今回のレイシの小説の題名だった。
一昨日、それを読んだ時は、本当の意味で震えた。一晩でレイシが書き溜めていた所まで読んだ。
レイシから構成とか、内容は聞かせてもらったけどやっぱり小説だと感動が違う。
最初の数話で読者を完全に小説の世界に引きずり込むような、そんな書き方だった。
特に、主人公が幼馴染を亡くす場面。
間の取り方が上手くて、主人公にすごい感情移入できて。
『○○』という能力の隠れた強さや、その使い方にも、驚いて、私は泣いた。
日間ランキングに載っているということはレイシもう知っているのかな。
早くレイシに会って、レイシが喜ぶ顔が見たい。
「すごいじゃん」って。そして私が「よかったね」とか言って。
自分の朝食を食べ終わって、私はソファに座った。
なんとなく、テレビをつけてスマホをいじる。
今日の天気とかを考えていると、テレビからニュースキャスターの声が微かに聞こえた。
「次のニュースをお伝えします。
昨晩、H港で身元不明の遺体が・・・・」