9;結末
まだお酒が残っているのでフラフラしつつもウキウキしながら茶の間に行くと、国王夫妻が待ちかまえていました。早く聞きたいと、ヤキモキしているのが丸わかりです。王子は出された朝食をとりながら、二人に報告しました。
「ハーミアの誤解は解けたよ。付き合うことになった」
王子の言う誤解が何なのか作者も分かりませんが、その言葉を聞いて二人は目を輝かせました。
「ほんと? 良かったぁ」
「おお、そうかそうか。どうだ? 海辺の別荘にでも行ってくるか? 用意させるぞ?」
「いや、良いよ。自分でやるよ」
付き合うと言っても、まだLIMEをやりとりするぐらいです。女心は秋の空。いつハーミアが心変わりするか分かりません。まず自分の力で何とかしようと思った王子は、二人の申し出を断りました。
「そういえば、うちの国、財政きびしいの?」
逆に王子は二人に聞きました。夫妻は顔を見合わせ、何とも不思議な顔をします。
「え、そうなの?」
「どうかな……報告は受けるのだが、いつも最後は万事大丈夫の言葉で終わるから、大丈夫じゃないのかね……」
二人は、自信がなさそうです。
「お城もボロボロじゃん。オレが国王になった時、破産すんのはヤダよ」
「まあそうよね……召使が減ったり城の修繕費が減ってるのは、グローバル化でSDGだからどこの国も同じですよって言われてるのだけど……さすがにレジ袋有料化は万引きが増えて、止めたみたいだけどね」
「そう言えば、このまえもエド大学出た外資系コンサルタントが来たな。お金1億かけて3ページのレポート残していったよ。難しくて理解できなかったが、非正規を増やして中抜き率80%にすれば税収アップとか、死亡保険を国受け取りにすれば借金がいくらでもOKとか書いてあったけど、どうなのかな……」
名門エド大学出の優秀な人が、そんなヤクザみたいなアコギな商売を勧めるとは思えませんが、今の世の中そんな人はいるのかも知れません。
「このままじゃマズいって、ハーミアが言ってたんだよ」
「そうか。今度、大臣に聞いてみるか」
かつぐ神輿は軽いほうが良いとはいったもので、頼りない二人です。こんな二人を見ていると、しっかりしないとヤバいと思ってきた王子でした。ただ実務は大臣達の指示ですから、王様ができることは少ないのかも知れません。いずれにせよ、手を打つなら早いほうが良いでしょう。
❖ ❖ ❖
昼時に王子が城の庭を散策していると、お妃様が先代王を車椅子に乗せて庭を散歩していました。
「やってあげようか?」
「あら、助かるわ。地面の凸凹が大変なのよ。おじいさんも外に出たほうが良いと思ってねえ」
王子はお妃様と交代して、先代王を池まで連れて行きました。モゴモゴ何か言っている先代王は、心なしか楽しそうです。王子がヘマをしないかと心配らしく、お妃様も一緒についてきます。
「おかんはさあ」
「なに?」
「若い頃、何になりたかったの?」
めずらしい質問に、お妃様は思わず王子を見返しました。いつも自分勝手で相手のことを考えない王子が、他人の話を聞こうとするなんて今までありません。
「そうねえ。音楽の先生になりたかったかな」
王子にとって意外な答えでした。そんな話をお妃様はしたことがありません。宮廷の演奏会でも、お妃様が演奏される姿を見たことはありません。ただ言われてみると、著名なピアノ演奏家が来客した際、お妃様はいつになく熱心に話を聞いていた時がありました。それに王子が物心ついた頃からクラシックに親しんでいたのも、お妃様の好みだったようです。
「へえ。そうなんだ。初めて聞いたよ。じゃあなんでおやじと結婚したの?」
「うーん。まあ勢いかねえ。あの時は国王のお妃探しもウルトラクイズなみに盛り上がってね。あれよあれよと勝ち上がっちゃって、告白タイムでお断りしずらい雰囲気だったのよ。自宅の住所や電話番号まで新聞に載っちゃう時代だし」
「へえ」
「まあ、後悔はしていないけど。人生ってそんなもんよ」
「ふうん」
王子には想像もつかない話です。でもそこでお妃様が頑張ってくれたから今の王子がいるわけで、世の中とはそんなものでしょう。
❖ ❖ ❖
とにもかくにも、王子とハーミアのお付き合いが始まりました。
最初はぎこちなかった二人だけど、王子も彼女のことを知ろうと努力したおかげで、ハーミアもだんだん打ち解けていきます。身だしなみにも気をつけ、買い物の時には重い荷物を持ってあげたりハーミアの話を聞いてあげたりと、王子も気遣いのできる男になっていきました。
映画の好みは、やっぱりホラーだったようです。王子は最初こわくてブルブルふるえていたものの、一緒に観るうちに好きになっていきました。
他にも好きな食べ物、好きな色、好きな場所、好きな本などなど……お互いを知るにつれ、合うものもあれば合わないものもありましたが、そんなもんだねと笑っていました。
「あ、あのさあ」
あるデートの帰り道、王子はハーミアに問いかけました。
「ハーミアはオレのこと、好きなんだよね?」
今までちゃんと言ってもらってなかった王子は、自信なくうつむきながら尋ねました。王子なりに、気になっていたようです。
「ええ、好きですよ」
その言葉に王子も安心します。
「オレも好きだよ」
「ありがとうございます」
「ちなみにオレはハーミアのこと全部好きだけど、ハーミアは、オレのどんなとこが好き?」
「そうですね……」
少し考えこんでいるハーミアを見て、王子は答えを聞きたいような聞きたくないような気持ちになります。そんなオドオドしている王子を見て、ハーミアは微笑みながら答えました。
「色々ありますが、私のために泣いてくれたことですね。今まで告白してきた男性って、マウント取ってくる疲れる人ばかりでした。だから、あれでキュンとなりましたね。ありがとうございます」
あの時は酔っていましたが、今もハーミアへの気持ちは変わりません。ハーミアが共働きを望むなら、サポートしようと思う王子でした。
「あと、あの時ですね、酔った王子を送るのに女将さんに手伝ってもらったんです」
「え、あの女将に?」
「その時に女将さんから言われた言葉も、ありますね」
「あの女将、なんて言ってたの?」
まさか、ささやき女将がそんなことをしてるとは知らなかった王子です。王子は焦りましたが、「内緒です」とハーミアは笑っているだけでした。
そして一年後、めでたくゴールイン! 結婚後二年目にコーダル五世は亡くなりましたが、二人を見て満足そうでした。
十年後、王子はコーダル七世として即位し、立派に王国を統べました。王子が思ったように絵に描いたような幸せな家族で、子供もたくさんできました。
ハーミア女王はその能力をいかんなく発揮して、コーダル王国を存亡の危機から救いました。もちろんコーダル七世となった王子も、育児や家事を手伝ってお互いの仕事を頑張りました。
ハーミア女王の死後は救国の聖母としてハーミア神社が建てられ、コーダル七世ともども末長く人々から崇め奉られたそうです。
めでたし、めでたし。
読んでくださり、ありがとうございました。この話はこれにて終わりです。もしよろしければご感想やご意見をいただけるとうれしいです。あとポイントも気が向いたらよろしくお願いします。