8;ハーミアの気持ち 後編
「すいません。やはり結婚も仕事も単純ではないですね……」
「まあ、そうだよね……」
ハーミアは恐縮しつつ、お酒を飲み始めました。結構いける口のようです。王子もつられて飲んでいます。
「それに失礼ですが……お妃様、私にお手伝いさん代わりを期待していませんか? 死遊病にかかった先代王の世話をしろとか、言うのではないですか?」
「そ、そんなこと、た、多分ないと思う……」
王子は返答に窮します。昔はお城にも召使が沢山いましたが、少子化と効率化によって格段に減りました。王子が結婚しても、専属召使の予算が下りるのは先のことでしょう。先代王の世話も、ヘルパーさんが来ない時はお妃様がやっているのです。
国王夫妻がハーミアをあてにしているのは事実で、違うと言えない王子は困惑しました。『農家の嫁は角のない牛』とか言われていた時代もありますが、このご時世でそんな考えの家に嫁ぐ人はいないでしょう。
「……ごめん」
「すいません、言いすぎて。私も少しストレスがたまってて、意地悪になっちゃいました」
ハーミアが謝ることではないのですが、予想以上にハーミアとの人生観はちがうようです。嫁姑戦争でも起こされたら、王子は板挟みになって困ってしまうでしょう。ただ裏表なく率直に話をしてくれるハーミアに、王子は好感を持ちました。
「まあ、飲もっか」
「そうですね。いただきます」
また一口、また一口と、ハーミアのお酒が進みます。王子も付き合いで飲みつづけ、気づけば王子の顔は真っ赤になってしまいました。どうやら酔ったようです。大丈夫でしょうか?
「すいません、面倒な女ですよね……」
しこたま飲んだハーミアは、ぼそっとつぶやきました。やはり疲れているのでしょう。
「王子にも済まないですね。こんな女に付き合わせて。他の人の方が良いんじゃないですか? 王子なら、もっと良い人いますよ」
さみしげな顔をして自虐的な言葉をはくハーミアです。ふつうに受け取れば婉曲なお断りですが、そんなハーミアを見て王子の心の何かに火がつきました。
「ち、ちがーーーーーうう!!! そんなことにゃいよ! オレはハーミア好きにゃんだよ!」
「え?」
思いがけない王子の言葉にハーミアはきょとんとして、おつまみを取る箸が止まります。
「ほんとは、前きゃら好きだったんだ! ハーミアきれいだし、性格良いし。だからお見合いって聞いて、すっごくうれしかった! ホントにゃよ!」
「そ、そうでしたか、ありがとうございます」
どうやら王子はすっかりお酒が回ったらしく、ろれつが回ってません。勇気を出すためか、更にお酒を一気飲みしました。良い子はまねしちゃいけませんね。ただハーミアも、ちょっと頬を赤らめています。
「王子に失礼なことを言って、幻滅されたのではありませんか?」
「ううん、全然そんなことにゃいよ! ひゃっきり言ってくれて良かった! 仕事もがんばってきたんだにゃ! ハーミアえらい! ハーミアだいしゅき! ほんと、働くのは大変にゃんだよね……うぐっうぐっ……がんばりを認められないのは、嫌だよね……くやしいよね……うぅっうぅっ……」
感極まったのか、王子はきゅうに泣き始めました。どうも酔うと泣き上戸みたいです。
「ハーミア、かわいそうにゃにぇ……」
「そんな、王子、泣かないでください」
自分のことで泣かれると思わなかったハーミアはびっくりして、おろおろしつつもハンカチを王子に渡しました。王子が受け取って涙をふくと、ハンカチはぐちゃぐちゃになってしまいました。
「ううぅ……ごめん。でも王国、ほんとに無くなっちゃっうのかにゃ……」
「すいません、言いすぎて。大丈夫ですよ。消費税減税して中抜きやめて、昔の中間層並みまで所得を上げれば、ワンチャンあります。あと富裕層を海外へ逃さないのも大切ですが」
「そんなこと、できるのかにゃあ……」
「王子が頑張れば、大丈夫ですよ」
「ま、とにゅきゃきゅ、LIMEだけでみょ、こうきゃんできにゃいかにゃあぁ……」
話を聞いているのか聞いていないのか分からないのが、酔っ払いあるあるです。けどハーミアはあつかいに慣れているようで、平然と対処していました。
「いいですよ、王子」
ハーミアは苦笑いしながら、スマホを取り出しました。何だか大きな子供を見ているお母さんのようです。酔っ払いなんて、みんなそうかも知れません。
「ありがちょう、ハーミアにゃん……ぐぅう……」
王子は、そのままテーブルに顔をうずめてしまいました。
❖ ❖ ❖
「はっ!」
目が覚めた時、王子は自分の部屋にいました。一瞬何がどうなったのか分からなかったのですが、二日酔いで頭に痛みを感じると、昨日のことをおぼろげながら思い出してきます。
(ヤベえ……)
ハーミアと食事をしたのは覚えていますが、どうやってここまで帰ってきたのか記憶がぬけています。服も床にちらばり、素っ裸です。もちろんハーミアはいません。きれいな布があるなと思ったら、ぐしゃぐしゃになった女性物のハンカチでした。
「ん?」
落ちてるスマホを見ると、LIMEが来ています。何だろうと見てみたら、ハーミアからでした。いつの間にか、交換していたようです。
『昨日はありがとうございました。大丈夫でしたか?』
「マジ!」
何も覚えていない王子は、慌てて返信します。
『ありがとう。昨日、オレ何かやっちゃっいましたか?』
……
すぐに既読はついたものの、返事が来たのは少し経ってからでした。
『覚えてないんですか? あの言葉は嘘だったんですか?』
悲しそうな絵のスタンプ付きです。
これはマズい、何かあったとさすがの王子でも分かります。必死になって昨日の出来事を思い出そうと、頑張りました。
(…………)
(あ……)
(やばいぃいいい!!!!!)
やっと、王子は昨日のことを思い出したようです。まずいですね。あれが嘘なら女性にとても失礼です。気をつけましょう。
『好きです、大好きです! 嘘じゃないっす! 本気です! ハーミアじゃなきゃだめなんだ! これからもよろしくおねがします!』
王子は焦りながら返事を出しました。心臓が止まるような思いで返事を待ちます。永遠につづくかと思われたその瞬間は、意外とすぐ終わりました。
『ありがとうございます。今からお仕事がんばってきます〜』
メッセージには、笑顔のスタンプが付いていました。
読んでくださり、ありがとうございます。念のためですがこの作品は全くのフィクションであり、特定の政治思想はありません。残り1話の予定ですが、長くなったら分けるかもしれません。明後日10/22までには投稿すると思いますので、よろしくお願いします〜