7;ハーミアの気持ち 中編
「……王子、大変言いにくいのですが、コーダル王国の財政が危ないことをご存知ですか? 下手をすると、王子の代で破綻します」
「え、マジ? ヤバいじゃん!」
王子は全く知りませんでした。寝耳に水です。確かに昔よりわびしくなったとは感じたのですが、そこまで切羽詰まっているとは思いませんでした。国王夫妻からも、そんな話は聞いてません。
「経理をしているから分かるのですけど、特産物のマンドレイクの収入は年々減り続け、税収もままなりません。インフラも貧弱になり、最近は水道管が腐って折れてしまいました。肝いりで作られたデジタル庁も、広告代理店や就職斡旋業者の出向でズブズブです。オードリートンがいないこの国では、また中抜きされて安い賃金でCOCOBを作るのが関の山でしょう。他の国に移住しようかと言う人も、一人や二人じゃないのです」
「そうなんだ……」
王子はビックリして、うつむいてしまいます。スパダリだと思っていたのに、国が破産したらただの人どころか借金取りに追われる身に早変わり。そんな家に嫁ぐ人はいないでしょう。ハーミアが嫌がるのも、分かる気がしました。
「もし、王国が無くなったら、王子はどうしますか?」
「え? そうだなあ……」
王子には思いがけない質問でした。エドで冒険者をやっていたのも、王国があるからです。どうせ戻れば何とかなると思っていたからで、王子には、何の才能も資格もありません。答えに迷う王子を見て、ハーミアは気の毒になったようです。
「すいません、失礼なこと言って……」
「いや、いいよ。だからハーミアは僕と付き合うのが嫌なの?」
「いえ、そういう訳でもないのですが……あ、別に王子に悪い印象はないです。今だから言いますが、王子、ちょっと天然なところが女子で人気でしたよ」
「マジ!」
良いのか悪いのか微妙な評価ですが、嫌われてないと知って王子はホッとします。
「それにお化け屋敷でも、迷い子の女の子を助けようとなさっていましたし。心優しい方と思いました」
「だまされたけどね」
「まあ、仕方ありません」
ハーミアは微笑んでいました。王子も苦笑いします。
「ただ、デートは相手があってのことですから、もう少し気遣っていただければ、とは思いましたけど」
「あ、ゴメン……」
ここは目が笑ってないハーミアを見て、もう一度あやまる王子です。寛大なハーミアだからこれくらいで済んでいるものの、現実であんなことやったら一発アウトでしょう。
「ただ今の世の中、王子でも安泰じゃないとだけは、思った方が良いです」
「そうだね……分かったよ。ちなみにハーミアも、この国から出て行きたいの?」
「いえ、私はこの国が好きです。獣人にも分け隔てなく接してくれますし。住み心地は悪くありません」
「そうなんだ。じゃあこれから頑張って国を盛り立てるからさ、一緒にやろうよ!」
ハーミアの気持ちを聞いて気楽に言う王子とは対照的に、ハーミアは慎重な態度を崩しません。
「言うのは簡単ですけど、実行するのは大変ですよ」
「うっ……」
しっかり者のハーミアです。もっともな指摘に、王子は「絶対大丈夫」とは答えられませんでした。
「例えば私が公認会計士の資格を取りたいと言い始めたら、どうしますか?」
「もちろん、応援するよ!」
「その勉強で王子の世話ができなかったり、世継ぎができなくても?」
「え、それは……」
「私の分も食事作ってもらえますか?」
「うっ……」
予期せぬ質問ばかりでした。次期王である以上、子供は当然必要と思っている王子です。食事もハーミアが作るものと思っていたので、その点もまったく考えていませんでした。
「それに子供を育てるって、大変なんですよ。結婚した姉がいて、ときどき姪っ子と遊ぶのですけど……かわいいのですが、怪獣が来たみたいに散らかるし、言葉も通じないからひとときも休まりません」
「子育て、僕も手伝うよ!」
「本当にできますか? たまにお風呂入れて遊ぶだけとか、思ってませんか? 姉からさんざん結婚生活の愚痴を聞かされているので、どうも不安で仕方ないのです」
「ギクっ!」
見透かされたような言葉に、王子は返答できません。世の男性陣も、気をつけましょう。
「い、いや、これから頑張るからさ……」
頑張るしか言わない王子の弁明にハーミアはすぐに返事せず、しばらくは黙って食べていました。王子も、大人しくしています。
「……私、頑張ってコーダル大学に入って一番の成績で卒業しました」
「そうなんだ。やっぱり凄かったんだね」
高校で一番だったハーミアなら当然でしょう。ちなみに王子はビリから数えた方が早かったのは、みなさんご想像の通りです。
「だから王国の為に政策立案をしたいと企画部を希望しました。でも配属されたのは経理部で、それはそれで大事な仕事とは分かっているのですけど、最初の半年はお茶くみばかり。まだこんな課長島○作みたいな世界があるなんて、ビックリでした」
「そうなんだ……」
王子には返す言葉がありませんでした。確かに、王国の法律や政策を決める会議に出席するのは全員男性です。自分も将来は父と共に参加するでしょうが、そこに女性がいる姿は想像していませんでした。
「頑張れば、何とかなるよ」
「どこがですか? 同期で二番だったマーロン君はもう課長補佐まで出世してるのに、私はヒラのままです。そもそも彼は役員との親睦会に誘われていると聞きます。全く呼ばれない私は、どうやって自分を売り込めば良いのでしょう? 失礼ですが与えられた仕事は誰でもできる計算ばかりだし、空いた時間で企画書を作っても上司は受け取ってくれません。機会がないのに、どうやって出世できるんですか?」
「それは……」
ハーミアの言うことはもっともです。完全に言い込められて、王子も暗くなってしまいます。ハーミアも言い過ぎたと思ったようで、少し気まずくなりました。
「……すいません、王子様のせいでは無いと分かっていますけど、つい愚痴ってしまいました。最近は上司からも家族からも早く結婚しろ結婚しろとうるさくて、もう嫌なのです。実はこのお見合いも、王子様が帰省する前に国王夫妻からのお達しが出て、みんなが忖度した結果で断りづらくて……王子が悪くないとは、分かっているのですが……」
「そっか……悪いことしたな……」
あの二人ならやりかねないと、王子は思いました。それに職場としても体の良い追い出しなのでしょう。一転してハーミアがかわいそうに見える王子でした。
読んでくださり、ありがとうございます。思ったより書くことが増えてしまい、もう一つ分けました。次の話は明日10/19か明後日10/20に更新します。すいませんが、よろしくお願いします〜