3;楽しいデート ※
ランキング5位に載りました! ブクマやポイントを下さった皆様、ありがとうございました!
引き続きお楽しみください〜
(久しぶりだな……)
待ち合わせは、王国で一番にぎわうコーダル銀座の広場にしました。コーダル王国にも料亭や高級レストランはあるのですが、知った仲だし二人で会えばとなり、ここに決めたのです。
知り合いと言っても、高校時代の頃はハーミアさんとしゃべった記憶がほとんどありません。だから王子は緊張で夜も眠れず、朝からドキドキです。
(よっしゃ! やるぜ!)
運命の日です。可愛い嫁がもらえれば、人生勝ったも同然です。エドでのわびしい生活を思い出しつつ、王子は発奮して準備しました。
ただその割に、身なりは冒険者暮らしの時と同じノリで、服はヨレヨレ。髪の毛も寝ぐせ付き、さすがにヒゲはそったものの、鏡に写し出された姿は中肉中背の冴えない男です。大丈夫でしょうか? 逆にこれなら、誰も王子とは分からないでしょうけど。
❖ ❖ ❖
ここコーダル銀座の広場は、学生だった頃にお忍びで来たことがあります。街一番のデパートがあり、周りの商店街も含め昔は人がわんさか居て賑やかだったのを憶えていました。
(マジ?)
ですが、記憶と違い今はガラガラです。場所を間違えたかと思ったほどです。デパートもいつの間にか無くなってました。
(お金ないのかな……)
エドの街に慣れた王子は、久しぶりのコーダル王国がどこもかしこもみすぼらしく見えます。そう言えばお城の手入れも昔より雑になって、汚れが目立っていました。自由を求めて冒険者になった王子ではあるものの、この風景を見ると、複雑な気分になります。
遠回りしていたら、気づけば待ち合わせ時間を十分過ぎていました。
「あ、いた」
もうハーミアは待っていました。かごバックを手にしています。写真通りの清楚で可憐な姿で、加工を疑った王子は心の中で謝りました。白い肌もきれいで、王子を更に刺激します。
「こんにちは。久しぶり、ハーミア」
「あ、王子! 今日は私の為にありがとうございます!」
ハーミアは丁寧にお辞儀をしました。王子もつられて「こちらこそ」と、深々とお辞儀を返します。昔と変わらぬ様子で、王子はホッとしました。
「まあとりあえず、どっか行こっか」
「はい」
「どこ行く?」
残念ながら、王国にデートスポットは数えるほどしかありません。エド近郊にあるネズミーランドなんて、比べる事すらおこがましいです。
それに王子は車の免許証を持ってないから、海や山への遠出は無理でした。レストランの予約なんて、王子はハナから考えてません。まだお昼まで時間があるし、ずっと住んでいるハーミアなら知ってるだろうと丸投げです。
「じゃあ、花の公園はどうですか?」
「そうだね。近いし、良いかな」
そこは王国に咲く花々を集めた植物園で、老若男女を問わず沢山の人達が訪れる名所です。木陰で涼めるし、ちょうど良いでしょう。ここから歩いて三十分ぐらいなので、そのまま行くことにしました。
(いい感じだな)
知った道を、王子はスタスタと歩いて行きます。暑くても海の方から吹いてくる風が心地よく、いい散歩日和でした。
「王子、すいません。待ってください〜」
気付くと、ハーミアは後ろの方にいます。王子のペースに合わず、遅れたようです。手ぶらな王子に対し、ハーミアの持つかごバックは重そうです。やさしい王子は少し立ち止まって待ってあげて、改めて公園まで行きました。
公園も、人出はまばらです。空いているベンチを見つけて二人並んで座りました。手が触れるぐらい距離がとても近く、いい匂いがして王子は更に興奮します。
(なに話すっかな……)
「しかしショボいな……」
「え?」
話題を決める前に、思わず王子の本音が出てしまいます。王子が言った意味をハーミアは分かってないのか、怪訝そうな顔をしました。
「ああ、この公園。久しぶりに来たけどさ、子供の頃はすげえ広いと思ってたんだけど、エドを見慣れると小さいんだなって」
「そうですね。エドの街は大きいですもんね」
王子の言葉の意味を理解したハーミアは、柔かな顔で答えます。
「ハーミアは、エド行ったことある?」
「いいえ。中学校の修学旅行でしか行ったことないんです」
「ああ、そう言えば行ったな。楽しかった?」
「はい、楽しかったです。女子のグループで回ったんですけど、普段はおとなしいネコ獣人のキティさんがムッキーの着ぐるみを見て興奮してたのが印象的でした」
「へえ。そんな事あったんだ」
他にも共通の知り合いが今どうなってるとか、思い出話に花が咲きます。思ったより会話が弾んで王子は楽しみました。エドの話はハーミアも興味があるらしく、王子も会話に熱がこもります。
「そう言えば、王子のお口にあうか分からないけど、きょう頑張ってきたんです」
会話もひとしきり終わった後、ハーミアはかごバスケットからゴソゴソと何やら取り出しました。それは、お昼の手料理です。王子が大好きなカツサンドもあります。モクドナルドのハンバーガーなんか目じゃありません。
「うぉ〜すげえ!」
「はい、どうぞ。あーん」
ハーミアが箸でとってくれたミートボールを、王子はパクッと口にしました。
「うめぇえ!!!」
口の中に広がる美味に王子は感激して、残りの料理もガツガツ食べ始めました。デザートのケーキも王子好みで、ご満悦です。胃袋はすっかり掴まれたようです。
(いい奥さんになれるな、こりゃ)
王子はもう結婚したつもりでいます。
「はあ、食った食った。美味しかったよ」
「ありがとうございます。あ、王子、これで手を」
ベタベタになった手でハーミアを触ろうとした王子を避けて、ハーミアはお手ふきを王子に手渡します。何から何まで気が利く彼女です。
お昼も終わり、することも無くなりました。ここでぼうっとしてるのも良いですが、お腹がいっぱいで眠くなりそうです。さすがにそれはマズいでしょう。
「少し散歩しよっか」
「そうですね」
ハーミアは食器をかごバスケットに片付けて、散歩となりました。エドと違って自然が豊かな植物園は、これはこれで心が落ち着きます。代々木公園並みに広く、野球やサッカーで遊んでいる子供達もいました。
(どうすっかな)
こんなに良い雰囲気ですから、二人っきりになればもっと良い展開が待っているはずです。王子は人影の少ない森の奥に行こうと思いました。それに対し、ハーミアは何かを見つけたようです。
「あ、あれに入ってみませんか?」
ハーミアが指さしたのは、お化け屋敷の見世物小屋でした。
良い子のみんな! このデート、ちょっとまずいことが何個かあるんだ。分かるかな? 分からなかったらお母さんにでも聞いてみてね!
追伸
汐の音様から素敵なハーミアさんの挿絵をいただきました!!
作者の想像以上で、こりゃ王子じゃなくても惚れますね。