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9話

「こんなエーテル・ナイトが存在していたとは・・・、しかも、一切汚れもシミも無い。まるで出来上がったばかりのように真新しく見える。」


王女様がカイザーを見てガクガク震えている。

さすがはアイリス、完璧な仕事だよ。


「それに、このエーテル・ナイトは私のドラグーンよりも更に大きいんだな。まるで神が降臨したかのように神々しいぞ。いや、実際にこの機体から感じる雰囲気はただのエーテル・ナイトの雰囲気ではない!」



「はっ!」



何だ?王女様が硬直しているけど・・・


しばらくすると『ギギギ・・・』と音が出るような動きで俺を見てきた。


「このエーテル・ナイトはジークの機体なのか?」


ゆっくり頷いた。


「ジークよ・・・、お前は本当に何者なのだ?翼が生えて空を飛ぶわ、規格外のエーテル・ナイトを持っているし、この遺跡に関しても詳しすぎる・・・、お前が本気になればこの世界の頂点に君臨する事も可能なのでは?クーデターを起こそうとする私の兄なんぞ歯牙にもかけないのでは?」


「王女様、私はそんな大それた人間ではありませんよ。この辺境にあるドコカ村の一農民であるジークです。」


「何をふざけた事を言っている。いくらジン様の息子といえ、単なる農民がナイトクラスのエーテル・ナイトを持っている訳がないだろう。まぁ、今はお前の事は聞かないでおくよ。これ以上聞くと私の中の常識が壊れてしまいそうだ。」


「王女様」


アイリスが王女様の正面に立った。

「王女様は今まで1人で頑張り過ぎたのですよ。これからは我がマスターが王女様の騎士になるでしょう。」


「おいおい!アイリス、何を・・・」


「マスターは黙って下さい!」


アイリスがキッと俺を睨み怒鳴ってくる。かなりの迫力で何も言えなくなってしまう。


「は、はい・・・」


「王女様は差し違えてでも上の連中と戦おうとしていますね。私の分析ではあなた自身の戦闘力、所持しているエーテル・ナイトでは全く太刀打ち出来ないでしょう。いくら強力なナイトクラスを所持しているとはいえ多勢に無勢だからです。ですが、このナイト・カイザーはそんな常識すら覆す力を持っています。」


ギュッと王女様の両手を握った。


「あなたは女性です。別に私は男女だからと差別する事はしませんが、時には女性らしく男性を頼るのも良いと思いますね。マスターは世界最高の人です。特に女性の涙には弱いですからね。必ずあなたの力になるでしょう。」


王女様が俺へ視線を移した。


「ジークよ・・・、お前にこの戦いを頼んでも良いのか?私の部下達の仇を取ってくれるのか?」


「ご命令とあれば・・・」


「分かった!」

王女様がジッと俺を見つめる。そして俺の前に立った。


「ジークよ・・・」


俺に抱き着き唇を重ねられた。


(えっ!)


しばらくしてから唇が離れる。王女様が真っ赤な顔で俺を見つめていた。


「私は命令はしない。今回は依頼とし、報酬はこの私自身だ。兄がこのタイミングで私の暗殺を実行してきたのだ。既に根回しは終わって王城には私の居場所は無いだろう。王城に戻る事も出来まい・・・、そうなれば、この私自身を差し出すしかお前に出す報酬は無いのだよ。最初、私はこの戦いで死のうとしていた。帰る場所が無いと分かっていたからな。それをアイリス殿に見透かされていたようだ。」


そして嬉しそうに微笑んだ。


「しかし、こうしてジークの前に立つとだな、私はジークのおかげで女を意識するようになってしまったよ。さっきも言ったが、私の事をお前の恋人にして欲しい。そう思うと死ぬのが怖くなってきたのだよ。私は死にたくない・・・、だから、私を守ってくれ!報酬という形なら私を断る事も出来ないだろう?」


王女様は全てを賭けて俺に頼ってきた。

そんなお願いを断るほど俺はクズではない!

王女様は居場所が無いと思っているが、俺達は王都の遺跡に行く必要があるから、王女様の手助けはお互いにメリットのある話だ。


(潰すのは第1王子、お前だ!)


「王女様、あなたの立場は私達がお守りします。第1王子・・・、そんなのは私には何の障害にもならない事をお見せすると約束します。自分を報酬にするなんて、もっと自分を大切にして下さい。」


「だが!私はお前には何も出す事が出来ないのだぞ。私のこの体以外には何も・・・」


王女様の手を取った。これ以上、王女様を追い詰める訳にいかない。

(本当に真面目過ぎな王女様だよ・・・)


「王女様、だからそんなに心配しなくても良いです。アイリスも言っていたのでは?もっと頼っても良いとね。私の報酬は王女様の笑顔、それだけで十分ですよ。その笑顔を守る為なら私は如何なる障害を排除すると約束しましょう。」



「マスター、カッコつけ過ぎ・・・、鳥肌がぁぁぁ・・・、ちょっと引きますね・・・」



(う~ん、アイリスの独り言が聞こえる。自分でもクサ過ぎるセリフだと思う。)


だけど、王女様が元気になれば良いのでは?

自分でもやらかした感がヒシヒシと感じなくもないが、そう思って目の前の王女様を見ると・・・


「ジィィィクゥゥゥ~~~~~~~~~~」


目がとろ~んとして、完全に自分の世界にトリップしていた。


「王女様、チョロ過ぎ!いくら何でも純情過ぎるわ。こんなクサいセリフを真に受けてしまうなんて・・・、普通は鳥肌ものなのに、完全に予想外だったわ・・・、まぁ、後はマスターに全責任を取ってもらいましょう。知りません、もう私の手から完全に離れましたわ。」


おいおい、アイリスさんや・・・、心の声どころかハッキリ聞こえていますが・・・



王女様がフリーズ状態から回復したみたいだ。潤んだ目で俺を見ているから、ちょっと不安が残るが・・・


「王女様、それでは行きますか?」


「リゼ・・・」


「はい?」


「私の事はリゼって呼んで欲しい・・・、敬語もいらない。この呼び方は私が特別な人だけにしか認めていない呼び方なのだよ。ジークが平民だろうと関係無い。ジークの為なら私は王族の地位も捨てる。まぁ、それは最終手段だけど・・・」


(何でこうなった?)


「ジーク、あなたが悪いのだ。今まで私は王女としてどうやって相応しく振る舞う事しか考えていなかった。だけど、そんな生き方はとても損をしていたと思ってしまった。ジークとアイリス殿の言葉で私は解放されたのだよ!私も『少し』好きに生きて良いのかなってな。」


(ん?少しって部分がやけに強調している気がする。)


「王女様・・・」



「・・・」


(王女様の反応が無い・・・)



「リゼよ・・・、敬語も無し!」


何だろう?今までの王女様の圧とは違う圧を感じる。何か目覚めたのか?

王女様の言う事を聞かないと俺自身にとてもヤバイ事が起きそうな予感が、いや!確信がする!


「マスター、やってしまいましたね。どうやら、王女様は目覚めたみたいですよ。『恋に生きる女』として・・・、しかも、かなりの重症かもしれません。全部、マスターが悪いのですよ。クサいセリフばかり言って、それを全て真に受けたのですからねぇ~・・・、ちゃんと責任を取らないとどうなるか知りませんからね。」


アイリスがニタァ~と笑って俺を見ている。完全に俺に責任を転嫁したな!


王女様に視線を移す。

う~ん、とってもニコニコして俺を見ているよ。


「それでは王『ギロッ!』・・・」


うっ!まるで凍りつくような視線で睨まれてしまった!


「リゼ、行こうか?」


「はい!」

何だ!真逆の視線でとても嬉しそうにしている。

アイリスの言った通り、王女様の未知の扉を開けてしまったのかもしれない・・・


(覚悟を決めるか・・・)


「それと!」


王女様がアイリスへと向き直った。


「アイリス殿も私の事はリゼと呼んでくれ。もうあなたともお友達だからな。」


「は、はい・・・」


アイリスがとても困ったように俺を見ている。

(ふふふ、俺の気持ちを理解するのだな。おまえも道連れだ!)



プシュー


カイザーの胸のハッチが開き頭部を含む胸上部がスライドし、コクピット部分が露わになる。

自分達の立っている床がせり上がり、カイザーの胸部分まで上昇していった。


「な、何だ、この操縦席は?なぜ席が前後に2つもあるのだ?」


王女様が不思議そうにカイザーの運転席を覗き込んでいる。


「このナイト・カイザーは高度の演算が必要な機体ですから、私がオペレーターとして後ろでサポートをする必要があるのですよ。マスターや私1人でも動かす事は可能ですが、真のスペックを引き出すには2人が協力する必要があるのですよ。それだけ強力な機体なのです。」


「そうなのか・・・、では、私はどこに乗り込めば良いのだ?この様な感じの操縦席だから、1人当りのスペースがやたらと狭い気がする。私1人分の隙間も無い気がするが・・・」



・・・



「やっぱり、こうなったか・・・」


「マスター、いいじゃないですか。もう恋人同士なんですからね。うふふ・・・」


(勘弁してくれぇぇぇ~~~~~)


ギュッと王女様が俺の首に腕を回して抱きついてくる。

カイザーのシートに座っているが、その上に王女様が横座りで座っていた。


「ジークよ、私の事は気にするな。私は腐っても騎士の端くれだからな。お前の操縦の邪魔をするつもりはない。」


そう言われても・・・


王女様の顔がすぐ傍にあるし、やっぱり照れているのだろう、顔は赤いしチラチラと俺を見てくる視線がぁあああああああああ!


(気にならない訳がないだろう!何の罰ゲームだよ!)


「ジーク・・・」


ジッと王女様が俺を見つめている。


「リゼ、何だ?」


「私はお前に全てを捧げると誓った。そしてお前の指示に従うつもりだ。だけど!ロイド!奴だけは私の手で討たせてくれ!」


「もちろんだ。リゼもアイツに殺されかけたしな。ちゃんと譲ってあげるさ。」


「ありがたい。それとな・・・」


「まだ何かあるのか?」


「いや・・・、私はこうして騎士として生きてきたから言葉遣いや仕草がな・・・、だけど、これからは女らしくしていきたいと思っている。女言葉を使っても軟弱なんて思わないでもらいたい。」


真っ赤になって俯いてしまった。

う~ん、こんなに王女様が可愛いとは思わなかったよ。


「リゼはキレイなんだから、仕草や言葉も女らしくなるのは賛成だよ。まぁ、無理はするな、徐々にで構わないからな。」


「分かった!いや、分かったわ。頑張るね。」


ニッコリと王女様が微笑んでくれた。

何だろう?俺も今の王女様の姿に見とれてしまった。



「こほん!マスター・・・」


いかん、俺とリゼの2人の世界に入ってしまっていた。


(アイリスよ、すまん・・)



「ナイト・カイザー!機動ぉおおお!」


ブオン!


左右のグリップを握ると目の前の計器類が次々に点灯していく。

ハッチが閉じられると一瞬目の前が真っ暗になった。


パパパァアアア!


前面、左右、上部とあちこちのパネルが点灯し外の映像が映し出されてくる。


「スゴイ・・・、ナイトクラスでもここまで周りを見渡す事は出来なかったのに・・・、死角がほとんど無いぞ・・・、ここまでハイスペックな仕様の機体は見た事が無い。」


「ふふふ、こんなもので驚かれても困りますわ。カイザーの真骨頂はこれからですよ。」


「マスター!システム・オールグリーン!いつでも出撃可能です!」


左右のグリップを握る腕に力が入る。

リゼは俺の邪魔にならないようにギュッと抱き着いていた。


(5000年ぶりか・・・、カイザーよ、また頼むな。)


俺の気持ちに応えるように駆動音が一気に上がった。


「カイザー、焦るな。飛び出したいのはお前だけではないからな!」


「反重力システム及び慣性制御システム異常無し!推進器類オールグリーン!リニアカタパルト射出準備OK!地上格納庫までの隔壁を開きます!」

アイリスが叫んだ。


その言葉を聞き俺も叫ぶ。

「ウイング展開!」


ジャキッ!


カイザーの背中に大きな6枚の黄金の翼が開く。



「飛べぇええええええええええええ!カイザァアアアアアアアアアアアアア!」



ヒュン!



強烈な上昇Gが体にかかると、リゼが呻いた。


「ぐうぅぅぅ・・・、何という加速だ・・・」


頭上を映すモニター映像のずっと真っ暗になっていた画面が、どんどんと明るい部分が大きくなっていく。



バサァアアアアアアアアア!



一気に格納庫の床にあった隔壁から庫内へと飛び出す。

慣性制御されているので、一瞬で上昇していた機体が停止した。


そのまま格納庫内でカイザーが浮いている。


「スゴイ・・・、エーテル・ナイトが空を飛ぶなんて・・・、夢でも見ているのか・・・」


俺に抱き着いていたリゼがうっとりした表情で、モニターに映っている景色を眺めていた。


「ふふふ、こんなのは序の口よ。コイツ等侵入者には地獄を見せないとね。覚悟しなさい・・・、誰1人生きて返さないわよ。」


リゼとは真逆の笑みを浮かべ、ペロッとアイリスが舌舐めずりをしながら、モニターに映っている兵士達を睨んでいた。

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