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8話

「す、すまない・・・、あまりにも嬉しくて、我が身の痴態を気にしていなかった。お前に私の変なものを見せてしまって・・・」


王女様が真っ赤な顔で俺に謝っている。

いや、顔だけではない。耳も首も真っ赤だ。シーツを体に巻いているから分からないけど、多分、全身が真っ赤になっているだろう。

それだけ恥ずかしいのだろうな。


気持ちはよく分かるよ。


俺の頬には大きな真っ赤な手形が出来ていた。現役騎士である王女様の思いっ切りのビンタを喰らったのだ、あまりのパワーに首が捻じ切れてしまうのでは?と思ったほどだった。


(よく死なずに済んだものだ・・・、一瞬、首がもげたと思ったよ・・・)


ペコペコと頭を下げて俺に謝っている。

初めて会った時から王女様は凛とした態度だったけど、こんな姿の王女様は初めて見る。

何か今の王女様の方が自然で可愛らしいと思った。


俺をまじまじと見つめる。

う~ん、とっても恥ずかしい・・・


「ジークよ、その姿はどうしたのだ?今でのお前と比べると大人っぽくなっているぞ。いや、実際に背も伸びているし、間違い無く成長している。この私の隣にいてもお前が16歳だとは見えないだろうな。私と同世代にしか見えない。私としてはそんな姿のお前が隣にいてくれるのはとても喜ばしい事だよ。それに、その目もどうした?左目だけ金色の瞳だと?お前は本当にどうなったのだ?」



「それにだ・・・」



少し間を置いてから王女様の視線がアイリスへと向いた。

「この娘は何なのだ?なぜこの遺跡に人がいる?分からない事ばかりで、私の頭が混乱しそうだ。」


「王女様、詳しい事は言えませんが、彼女は我々の味方です。それに、瀕死だった王女様を治療したのも彼女ですよ。まぁ、分かりやすく言えば彼女はこの遺跡の管理者みたいなものです。それ以外の事は申し訳ありませんが、秘密なので詳しく申し上げられません。」


「あまりにも信じられない話だが、まぁ、お前が言うなら私はこの話は信用しよう。こうしてあの大怪我から私は回復した事だし、彼女は信用に値するだろう。だけど、1つ確実な事は言える。」

ビシッとアイリスを指差した。


「貴様は私のライバルだ!なぜか分からないが、私の直感がそう訴えている!貴様のジークを見る目はとても気に入らない!私だって・・・」


(はい?)


「ジークは私の事を恋人にすれば嬉しいと言ってくれた!私の恋人になる言質を取ったのだ!」


(ちょっ!ちょっと!)


「それにだ!ジークは私の裸を見てしまった。私の裸は残念ながら魅力の無い体だが・・・、だけど、私は操を立てていた、結婚するまでは絶対に男には裸を見せないと!私が裸を見せるのは将来を誓い合った男の前だけだとな!まぁ、その・・・、縁談すらこの歳になっても無かったが・・・、しかしだ!その私の裸をジークに見られてしまったのだ!責任を取ってもらうぞ!」


(い、いや!これは王女様の失態だろう!俺はわざと見た訳じゃないぞ!どうしてこうなった?)


アイリスを見るとクスクス笑っている。

「王女様のお気持ちは分かりました。どうやらマスターに恋をされたみたいですね。」



「「はぁあああああああああああ!」」



俺と王女様が同時に叫んでしまう。

(いやいや、それは無い!)


「わ、わ、わ、私が恋だと・・・、だけどこの気持ちは何なのだろう?確かにジークと一緒にいると心が落ち着くし、ずっと離れたくないと思っている。今までに無かった感情だ・・・」


「王女様、俺は平民ですよ。そんな俺が王女様に釣り合う訳が・・・」


ガシッと王女様が俺の手を握った。

目が何だ!かなりマジで怖い!


「ジークよ・・・、やっぱり私ではダメだったのか?私みたいな魅力の無い女は価値が無いのか?お前が言った私が恋人だと嬉しいのは嘘だったのか?」


(だからぁ~、そういう事じゃなくてぇ~~~~~)


「まぁまぁ、王女様、落ち着きませんか?」

ニタニタ顔のアイリスが王女様の肩をポンポンと叩いている。


「はっ!すまない・・・」


アイリスがペコリと王女様に頭を下げた。

「私はアイリスと申します。ご安心を・・・、私はマスターの従者でそれ以外の何者でもございません。私とマスターは結ばれる事が出来ませんので・・・」


「どういう事だ?」


王女様の目がスッと細くなった。


「こういう事ですよ。」


その瞬間、アイリスの全身が輝いて光の玉に包まれる。

その光の玉が少しづつ小さくなった。


光が収まり、そこにいたののは・・・


20cm程の大きさで透明だが虹色に輝く羽が生えたアイリスが浮いていた。


「な、何なのだ?これは伝説のフェアリー族か?私は夢を見ているのか?」


ゆっくりと首を振りニコッとアイリスが微笑む。

「いいえ、私は正確には生物じゃありません。こうして体の組成を変える事によってサイズも容姿も変えられる兵器なのですよ。マスターのサポートをする為だけに生み出された存在、それが私です。」


「そ、そんな存在が・・・」


アイリスの体が再び輝き元の人間の姿に戻った。

「だから安心して下さい。私は常にマスターの傍にいますが、恋人でも配偶者でもありませんのでドンドンとマスターに迫っても構いませんからね。」


「そういう事は・・・、アイリス殿はジークの小姑みたいな存在なのか?これはこれで面倒だな・・・」


(おいおい王女様よ・・・、よく聞こえないが、ブツブツと何を言っているのだ?)


「それと王女様、これをお預けします。」

そう言って、アイリスが王女様の右耳に手を伸ばした。

手が離れると、耳に小さな赤いピアスが着けられている。


「これは?」


王女様が不思議そうにそのピアスを触っていた。


「今のシーツを巻いただけの格好じゃマズイでしょう。マナ・システムの応用である亜空間収納を付帯した装備を装着させてもらいました。マスターの右腕に装着されているコア・システムと似たようなものですね。」


「これが装備だと?」


「そうですよ。今、王女様用にカスタマイズしておきました、王女様以外には使用出来ません。このピアスに意識を集中して下さい。」


「こうか?」

王女様が目を閉じ意識を集中している。

「おぉおおおおおお!分かる!この使い方が!」


パァアアアアアアアアア!


王女様の全身が輝いた。


光が収まると・・・


(こ、これは!)


黄金の肩当てと胸当て、俺と同じようなガントレットにレッグアーマー、腰にも黄金の鎧が巻かれているが腰部分だけで膝上までの赤色の布のスカートを履いている。頭には羽を意匠した黄金のティアラが装着されていた。


「マスター、どうですか?王女様が一番可愛く見えるようにコーディネートしてみましたが・・・」


アイリスがニッコリと微笑んだ。


先ほどまでの銀色の全身鎧姿の王女様も凛々しくてカッコ良いと思っていたけど、今、俺の目の前にいる王女様の姿は・・・


「アイリスよ・・・、グッジョブだ!」


似合っているってものじゃない!女神様がいればこんな姿では?と思える程に素晴らしい!


「こんな最高の素材、何もしないのは罪ですよ。まぁ、本人自身が全く自覚が無いのもねぇ・・・、これからは私が王女様を磨いて差し上げますよ。」


アイリスも満足そうに王女様を見つめていた。


王女様は恥ずかしそうに俺を見ている。

「ど、どうだ?」


「王女様!最高です!とても可愛いです!」


「そ、そうか、可愛いか・・・、ジークに言ってくれると、とても嬉しいぞ。ふふふ・・・」


何だろう・・・、最初の凛々しい姿の王女様のイメージが・・・

今までは『こうでなければならない』ってかなり無理をしていたのかもしれない。

今の姿の王女様が素の姿だろう。


「しかしなぁ・・・、これはどうも気になるのだが・・・」

王女様が自分の体を見ながら確認している。

「二の腕、太ももにお腹周りが露出とは、少し恥ずかしいし防御力も心配だな。やはり、今までみたいに全身を覆っていないと不安だよ。冒険者の様に無駄に露出の多い防具とは違っているが、これは騎士として恥ずべき姿だと思うがな。」


アイリスがペコリと頭を下げる。

「王女様、ご安心下さい。露出して見える部分ですが、エーテル・ナイトでも使用されています防御フィールドを展開していますので、先程までの単なる金属鎧とは比べものならない程の防御力を有しています。また、このお姿ですが、人類の伝承に出てきました、戦女神と呼ばれる神のお姿を参考にしました。王女様はご自身はお気づきになられていませんが、とても魅力的な女性に間違いありません。女神様を模倣したこの姿は、王女様を更に魅力的に見えるようにしたのですよ。」


「そうか、私も魅力ある女性になれるのか・・・」


チラッと王女様が俺を見るけど・・・


(いくら俺の記憶が戻っても身分は平民には変わらないんだぞ。さっきからアプローチをかけているように見えるけど、申し訳ない、王女様の気持ちに応える事は出来ない。)


アイリスが何やらブツブツ言っているけどよく聞こえない。

「はぁ・・・、変なところで堅物のマスターに、最高の素材なのに自己評価が低すぎる上に、恋に積極的になれない王女様・・・」

「ふふふ、だけどそんなお2人をくっつけるのが私の仕事でしょうね。マスターは身分差を気にしているみたいですが、やはり、マスターにはそれくらいの高貴な方がお似合いだと思いますね。並の女ではマスターに釣り合いません。」


何だ、アイリスが急に上機嫌になった気がする。

そして俺に向けてウインクをしてきたが、一体、何の意味だ?


(気持ちを切り替えよう。)


「さて、王女様の問題も終わったし地上に戻るか・・・」


「はい、では上の様子をモニターに映します。」



ブゥン!



あちこちのモニターに遺跡内部と外の画像が映された。


「これは!」


王女様が画像を見て驚いている。


「エーテル・ナイトに乗り込んだ際に外の様子が中から見られるようになっているが、これだけの数の映像なんて初めて見るぞ。この遺跡は生きているのだと実感するぞ。しかもだ、遺跡内部だけでなく外の様子まで見れるとは驚きだ。」


モニターを見ていると王女様が厳しい顔をして呟いている。

「むっ!ロイドがいないな。あいつだけは私が直々に手を下さないと気が済まん!」

別のモニターを見て固まった。

「こ、これは!」


「どうしました?」


「やはり兄が絡んでいたのだな・・・」


そのモニターには外で待機しているポーンタイプのエーテル・ナイトが映っていた。


「あの機体に描かれている紋章は私の兄が管理している近衛隊の紋章だ。力に溺れるとは、愚かな兄だよ。」

ギリッと唇を噛んでいた。


「だけど、ここは地の底にある場所だ。我々は見ているだけしか出来ないのか・・・」



「マスター、どうやらあの部隊はここで発見したエーテル・ナイトを運び出そうと準備していますね。出入口のハッチは長い年月で土砂に埋もれてしまっていましたから、まぁ、そう簡単には上手くいかないでしょうが・・・」


「出来れば、ここの機体は持ち出されたくないよ。この国の戦争に使われるなんて言語道断だな。」


「そうですね。エーテル・ナイトは人類の守護者でしたからね。人間同士の戦いに使われたとなっては機体も悲しむでしょうね。」


「そういう事だ。」



「お前達!」


王女様が俺達を呼んだ。


「どうかしました?」


「いやな、お前達2人がとてものんびりとしているのが気になってな。上では奴らがのさばっている、そして私とジークはここに落ちてきたのだろう?さっきも言ったが、登る算段が無ければ私達はこの地の底で朽ち果てていくしかないのだぞ。」


「あっ!」


王女様が何か思い出したように俺を見ている。


「そういえば・・・、ジークは空を飛べたよな?私を抱えても問題無く飛べていたはずだ。」


ギュッと俺の手を握った。


「ジーク!お願いだ!私を奴らのところへ連れて行ってくれ!デイビッドを始め私の部下が奴らにことごとく殺された!私は部下の無念を討たなくてはならないのだ!頼む!私を連れて行ってくれ!」


とても真剣な眼差しで俺を見つめる。


「連れていくとしましても、王女様はどう仇を討つのですか?いくら怪我が回復し、鎧も最高のものになりました。しかし、モニターを見る限りでは100人以上の人員が増援に回っているみたいです。しかも、外にはエーテル・ナイトが数機控えています。そんな中に突っ込んで行っても無駄死に確実ですよ。」


「だが!私は!」


ギリギリと俺の握る手に力が入ってくる。


「ジーク!お前は騎士でも何でもない民間人だ。この戦いは私1人がする!これは私の誇りなのだ!お前は私を上に連れて行ってくれれば良い。その空を飛べる能力があれば、奴らに気付かれずに脱出も可能だろう。私を笑いものにさせないでくれ!裏切りに遭い簡単に殺された間抜けな王女とは言われたくない!1人でも多くの奴らを道連れにして討たれてやろう!私の意地と恐怖を見せつけてやるのだ!」


「意思は変わりませんか?このまま逃げてどこかでひっそりと暮らす手もありますよ。俺とアイリスの力ならそれも可能です。どうですか?」


だけど、王女様はその提案に顔色一つ変わる事は無かった。


「断る!私はファリス王国第3王女リーゼロッテだ!そんな事をするくらいなら、私はこの場で首を搔き切って自害をする!」


そう言って腰の剣を抜き、真っ赤な刀身を自分の首に当てた。



アイリスを見ると・・・


ニコッと微笑んで俺を見ていた。


(死なすには惜しい・・・)


「分かりました。私もお付き合いしますよ。怒っているのは王女様、あなただけではありません。」


アイリスが俺の前で片膝を着き頭を下げた。

「マスター、出撃の準備は整っております。いつでも命令を・・・」


「了解だ。ナイト・カイザーを出す。本物のエーテル・ナイトがどんなものなのか、悪夢を奴らに届けてやる。」


「命令を確認しました。出撃体勢に入ります。」



ゴゴゴォオオオオオ!



部屋全体が小刻みに揺れている。


「な、何が起きたのだ!ジークよ!何をする気なのだ!」



壁の一面が開き、真っ暗な空洞が現われた。

どこまでも続く真っ暗な空間だ。



ズズズゥウウウウウウウウ!



何かが下からせり上がってきた。


「何だこれは!」


王女様が大声で叫んでいたが、急に黙ってしまった。


そして呟いた。




「黄金のエーテル・ナイトだと・・・」


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