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6話

まさか、俺の背中に翼が生えて空を飛ぶなんて・・・


「はっ!それよりも王女様は!」


王女様の顔を覗き込むと唇が紫色になって顔色も土気色に変わっている。


(絶対に死なせない!)


俺の右腕の手の甲が緑色に再び輝き、その光が王女様の全身を包み込んだ。


「リカバリー!」


しばらくすると顔色も良くなり目を覚ました。


「ここは?私はどうなったのだ?」


(良かった・・・、傷を塞ぐ魔法だったけど、どうやら無事に回復したみたいだ。)


「王女様、ここは遺跡の地下です。裏切りに遭い辛うじて脱出し、今は落下中ですが・・・」


「何だと・・・」

王女様は驚きの表情になったが、目を閉じすぐに諦めたような感じになった。

「落下中とはな、ふっ・・・、短く何も無い人生だったよ。生れて23年、この歳で独身、周りからは行き遅れと言われていたが、一度でも恋というものをしてみたかった・・・」


しばらく黙っていたけど、ボソッと呟いた。


「ふふふ、こうしてジークの腕の中で死ねるのだな。男と一緒に死ねるとは、神も粋な事をする・・・」


弱った、王女様は盛大な勘違いをしているよ。どう説明すれば良いのだ?


「あのぉぉぉ・・・、王女様・・・」


「ジークよ、どうした?最後は私と一緒では不満だったか?まぁ、男女みたいな奴と一緒では死んでも死に切れんか・・・」


「違いますよ。助かります。」


「どうしてだ?落ちているのだぞ。助かる訳が・・・」


王女様が俺を再び見てから固まった。いや、俺の後ろにある銀色に輝く翼を見ている。


「ジ、ジークよ!それは何なのだ?人がそんな翼を生やす訳が無いだろうが・・・、これはまるで教会の伝承に出てくる天使では?それに、私の傷はどうなったのだ?あれだけの傷だったのに痛みがほとんど無いぞ。」


考え事をしていたのかしばらく静かになった。


「それにだ、落下の感覚が無い!もしかして宙に浮いているのか?我々は助かったのか?」



俺がゆっくり頷くと王女様の顔が真っ赤になった。


「ジークよ!さっきの私の言った言葉は忘れてくれ!いや!命令だ!絶対に忘れろ!」


(そんなの無理です。)


それにしても、王女様って意外と乙女だったのには驚きだ。そして、自分が絶世の美女との自覚も無かったとはなぁ~、普段からかなり無理をしていたのだろう。


「でも、元気になって良かったです。ギリギリ回復魔法が間に合ったみたいですね。ですが、応急処置みたいなもので、単に傷を塞いだだけですし、かなりの血を流していましたから無理は禁物ですよ。」


「わ、分かった・・・」


あぁ~、まだ恥ずかしいみたいだよな。人間ってこんなに顔が赤くなるとは思わなかった。王女様の肌は元々が色白だったし、余計に赤くなっているのが目立っているのだろう。そして、そっぽを向いて俺の方へ顔を合わせようとしない。


(王族ってもっと天上の人かと思っていたけど、ちょっと親近感が湧いたかも?)



「こうやって男の人に抱かれたのは初めてだ・・・なぜだ?胸の高まりが止まらない。」



(ん?何か言ったのか?よく聞き取れなかったけど・・・)




ゆっくりと穴を降りているけど、まだ底が見えない。まぁ、真っ暗だし俺の輝く翼だけが光源だからそんなに光が周りに届いてないのもある。


「一体、どこまで降りれば地面に着くのだ?」


ピクッ!


(何だ?誰かが呼んでいる!)


実際に声が聞こえた訳ではないが、俺を呼んでいる感覚がする。

キョロキョロと周りを見渡してみると、壁の一箇所に横穴が見えた。人が立って歩くには問題無い大きさの横穴だ。


「どうやら、あの穴から呼ばれているみたいだ。」


「ジーク、どうした?」


俺の表情の変化に王女様が気付いたみたいだ。心配そうに俺を見ている。


「誰か分かりませんが、俺を呼んでいる気がします。あそこにある横穴からそんな気配を感じました。」


「今となっては私はジークにしか頼る道しかない。お前の好きにするが良い。」


「ありがとうございます。それではあの穴へ移動し、探索を行いますね。」


フワっと体を翻し横穴へと飛んで行く。思った以上に上手く飛行出来ていた。

横穴へ入り、床へと足を下ろす。

どうやら、さっきの階層にあった素材と同じような感じだ。普通に歩いても問題はないだろう。

しかし、今は王女様を下ろして一緒に歩くのは無理そうだ。

そこまでの体力は戻っていないだろう。

真っ暗なのは相変わらずなので、背中の翼はそのままにして光源にし、王女様を抱えながら通路を歩いて行った。


「ジークよ、重くないか?」


「大丈夫ですよ。王女様はまだ休んでいて下さい。ちゃんと休める場所を最優先で探しましょう。」


「そうか・・・、今の私は無力だな・・・」


「そんな事は無いです。王女様は女性なんですから、私のような男が助けるのは当然ですよ。」


「何を言っている。私のような男女には誰も近寄りもしなかったし、助けてもくれなかったぞ。」


「それは王女様がキレイ過ぎるからですよ。あまりにも美しいから近寄り難いだけだったのでは?」


「わ、私がキレイだと?」


どうして?王女様が俺の腕の中で震えている。


「そんな事は言われた事が無かった・・・、私は本当にキレイなのか?」


「本当ですよ。王女様ほどにキレイな人でしたら恋人は選び放題です。間違いありません、黙っていても求婚してくると思いますよ。それは私が保証しますよ。私も王女様みたいな人が恋人だったらとても嬉しいですね。」


しまった!いくら何でも王女様に失礼だった!元気付けようと思ったけど、調子に乗りすぎた!


「わ、私がジークの恋人・・・、そんな事って・・・」


プルプルと王女様が震えている。

あぁぁぁ~、やってしまったよ・・・、王女様みたいな王家の人に俺みたいな平民の人間が喋る話題ではなかった。王女様が気を悪くして不敬罪で処罰されないか心配だ。


お互いに気まずくなってしまい、黙って通路を歩いている。

何だろう?王女様の顔がまた真っ赤になっているのだが・・・


(やっぱり失礼な話で怒っているのか?)



「ここは?」


行き止まりになってしまった。どこかに扉が無いか探してみると・・・


「あった!」


扉を見つけ近づくと俺の右手が緑色の光を放つ。


ガコン!


ゆっくりと扉が開いた。そして中に入ると明かりが点いた。


「うっ!眩しい!」


ずっと真っ暗な中にいたので、明るさに目が慣れるまでしばらくかかったが、段々と周りがハッキリと見えてくる。


「うわぁ~」


王女様を見て愕然としてしまった。いくら出血が止まっているとはいえ、全身が血だらけになる程の出血でよく生きていたものだと感心してしまう。

そんな王女様を抱いていた俺も返り血で真っ赤になっていた。


「これは酷いな・・・」


王女様も自分の姿を見て愕然としていた。

「これだけの出血でよく死ななかったものだ。こうして治療してくれたジークには感謝しかない。悪いが降ろしてくれないだろうか?」


「す、すみません!いつまでも抱いたままで失礼しました!」


慌てて王女様を立たせようとしたけど・・・


「うっ!」


全身に力が入らないのか、そのまま倒れそうになってしまったので、再び抱きかかえてしまった。


「すまない・・・」


王女様が力無く俺に謝ってくる。


「今の私は力も無く無力だ・・・、しかも、食料も水も無い・・・、このままでは2人揃って終わりだぞ。」

そして俺の手を握ってきた。

「ジークよ・・・、お前だけでも生き延びろ。折角治療してくれたが、私もいつまで生きられるか分からない。幸い、お前は空を飛べるから、ヤツのいない場所へと自由に飛んで行けるだろう。だから、私を無視してお前だけでも逃げるのだ!王族のつまらない争いに巻き込んでしまい申し訳ない・・・」


ポロポロと涙を流している。


「王女様、俺は諦めていませんよ。この遺跡は生きているのですから、何か生きるのに必要なものがあるかもしれません。絶対に2人で地上に戻りましょう!約束ですよ!」


「そうか・・・、そうだよな・・・、お前が諦めていないのに、私が勝手に諦めてしまっていたよ。ふふふ、我ながら情けない。お前に励まされていると不思議だ、とても気持ちが落ち着く。約束しよう、必ず戻るとな。悪いが、今は少し休ませてもらうぞ。」


そのまま目を閉じ気を失ってしまった。

マズイ!やはり血を流し過ぎている、このままでは命を落としてしまう!


(どうすれば?)


取り敢えず、この部屋の確認をしないと・・・


グルッと見渡したけど、部屋自体はそんなに大きくない。俺達の家くらいの大きさだろう。

部屋の中にあるのは・・・

中央にベッドのようなものが置いてある。

(使えるのか?)

壁には色々な訳の分からないものが飾られている。ガラスのようなものもあちこちにはめ込まれていた。


「全く訳が分からないな。だけど、あれは使えそうだ。」


気を失った王女様をベッド?へと寝かせた、我が家にある物と比べると固い感じがするが、とても清潔な感じで、一般の物とは違うけどベッドに間違いないみたいだ。


(そして、この部屋にあるものは他に・・・)


部屋の少し奥まった場所に何かを見つけた。

大きな丸い透明な筒のようなものが3本立っていた。高さが3mはあろう天井まで届いている。

その筒に近づくと・・・


「そ、そんなバカな!何でこの中に人がいるのだ!しかも女性だと・・・」


筒の1本に女性が入っている。中には何か液体が充填されているのだろう。水の中に浮いているように筒の中で目を閉じて佇んでいる。

俺と同じ黒髪の女性で目を閉じているが、とてもキレイな顔立ちに見える。

しかもだ!


「何で裸なのだ?」


目の前の女性は裸で筒の中で浮いている。美の結晶と思えるほどのプロポーションで、16歳の俺にはとても刺激が強過ぎた。

特に大きな胸に目が釘付けになってしまっている。


思わず見惚れてしまっていると・・・



ぱちっ!



「はっ!」



中の女性の目が開いた。


ジッと俺を見つめている。


(生きているだと!そんなのあり得ない・・・)


全身に恐怖が突き抜け、慌てて逃げようとすると頭の中に声が聞こえた。


【マスター、ずっとお待ちしてました。】


さっき聞こえたもう1人の女性の声だ!


「まさか、君なのか?」


恐る恐る目の前の女性に声をかけるとニッコリと微笑んだ。王女様にも劣らないとても可愛らしい顔立ちだった。



ブシュ―!



何かが抜ける音がすると、筒の中の液体がどんどん無くなっていく。そして、完全に無くなると女性は筒の中で立っていた。



シュー!



筒が上に動き、天井に吸い込まれた。


目の前の女性がウルウルした目で俺を見ている。そして俺へ駆け出した。


「マスターァアアア!」


そのまま抱きつかれてしまう。


(ちょっと!ちょっと待ったぁあああああああああああああ!)


訳が分からない・・・


「落ち着いて!頼むから落ち着いてくれ!」

とてつもない可愛い子に抱きつかれるのもあるけど、彼女は裸だ!しかも大きな胸がグリグリと俺に押し付けてくる!

若い俺には刺激が強過ぎだよぉおおおおお!


(あっ!鼻血がぁぁぁ・・・)


何とか俺から引き剥がした。

しかし、目の前の大きな胸に目のやり場に困ってしまう。


「今回のマスターは純情ですね。ふふふ、これではお話も出来ませんね。」


ニコニコ微笑みながら俺を見ているけど、いきなり彼女の全身に布のようなものが巻かれた。巻かれたのは一瞬で、すぐに彼女の姿が変わっていた。


「これは、本で見たぞ。確かメイド服?それにしても一瞬で着替えるなんて・・・」


「マスター、よくこの服が分かりましたね。5000年、正確には5168年経っても語り継がれているなんて、このメイド服というものは本当にすごい服なんですね。」


(はい?5000年?)


俺の頭の中に疑問が渦巻いているけど、彼女は全くそんな事は気にしない感じで佇んでいた。そしてビシッと姿勢を正し、深々とお辞儀をした。

「私はオリジナルであるイブのレプリカでありますハイ・ヒューマンのアイリスです。マスターの従者として生涯お仕えします。」



従者、生涯、ハイ・ヒューマン・・・


訳の分からない言葉がどんどんと出てくる。




俺は一体何者なのだ?


そして彼女も・・・


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