表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

5話

「がはっ!」


王女様の口から大量の血が溢れ出し、インケンメガネが剣を抜くと力無く倒れてしまった。

あまりの光景に俺は体が硬直してしまって動けなくなってしまった。


「ロ、ロイド・・・、貴様・・・、気が狂ったか・・・」


王女様は顔だけを上げ目の前のインケンメガネを睨んでいるが、口からは止めどなく血が溢れ、床にも大量の血が流れ出していた。

その光景をインケンメガネがニヤニヤ笑いながら見ている。


「さすがは姫騎士と呼ばれるだけありますね。咄嗟に躱して心臓を串刺しにされなかったとは・・・、即死とまではいきませんでしたが、致命傷に間違いないでしょう。これだの出血量、もう少しすればあなたもあの連中の仲間入りになりますので安心して下さい。」


クイッと視線を動かすと俺も一緒に視線を動かしてしまう。

俺の目に映ったのは・・・

親父騎士を始め何人もの騎士が背中を滅多切りにされ倒れていた。大量の血が流れピクリとも動いていない。

その倒れている騎士達の後ろに数人の騎士が血まみれの剣を持って佇んでいた。


「姫様、冥土の土産に教えてあげましょう。」

ニヤニヤとインケンメガネが王女様を見下したように見つめている。

「私達の主はアルフレッド様ですよ。」


「に、兄様だと・・・」


「そうです。我が王国の第1王子アルフレッド様こそが、この大陸の覇者にふさわしいのです。姫様、あなたは国民を大事にすると言っていましたね?はっ!そんなバカな事は言ないで下さいよ。この世はアルフレッド様が頂点に君臨し、我々選ばれた貴族や騎士が愚民を支配するのですよ。その為にエーテル・ナイトを集め、他のどの国にも負けない軍事力を作り上げるのです。」



「我々はあなたの部下のフリをしてジン殿の情報を集めていたのですよ。ジン殿の研究はあなたに受け継がれましたから、アルフレッド様は手を出せなくなりました。あなたの成果は全部アルフレッド様へと報告させていただきましたよ。全ては選ばれた我々の為に・・・、ふはははぁああああああああああああ!」



そして俺に視線を移してきた。

「ふふふ、ジン殿の研究も大変参考になりましたよ。さすがは我が王国の英雄!全てにおいてトップクラスの人材でしたからね。この王国の軍事力はジン殿のおかげで飛躍的に向上したのですよ!」


(と、父さんが・・・、そんな事を・・・)


「ふ、ふざけるな!ジン様はそんなお方ではない!常に私に平和を説いていた!」

王女様が俺に向かって叫んでいる。

「ジークよ!父であるジン様がなぜ王都を去ったか分かった!自分の力を軍事利用されたくないかったからだ!」


「五月蝿いですね。」


ザクッ!


「ぐはぁああああああああああああああああ!」


インケンメガネがうつ伏せで倒れている王女様の背中に剣を刺した。そのまま腹まで突き抜けたのか、腹部当たりの床に大量の血だまりが出来てくる。


「しぶといですね。さすがに首を刎ねればすぐに死ぬでしょうね。ふふふ、さようならです。」


「ジークよ!逃げるのだ!この遺跡はお前の力が無いと稼働しない!このペンダントを制御出来るお前は殺される事はないはずだ!だから逃げてくれぇえええええええええええ!」


「えぇええええええええいっ!さっさと死ねぇえええええええええええ!」


剣を振り上げ王女様へ振り下ろそうとしている。


「ふ、ふざけるなぁぁぁ・・・」

全身がガクガク震えると、突然世界が変わった。


(どうなっている?)


振り下す剣がとてもゆっくりと見える。

そして、目の前にペンダントが輝いて浮いていた。


なぜだろう?自然と右腕がペンダントへと伸びる。


グッとペンダントを握った。



【マスター、やっと戻って来たのですね・・・】



(何だ、この声は?さっき聞こえた声と違う。)


ペンダントを握った右手が熱い!燃えるように熱い!


だけど、今はそれどころではない!王女様を助けなくては!


まだ視界はゆっくりと見える。剣は王女様へと届いていない。


「間に合えぇえええええええええええええ!」


足にグッと力を入れ、思いっ切り床を蹴った。

そのままインケンメガネの顔面を右手で思いっ切り殴った。


ドカッ!


「ぐひゃぁあああああああああああ!」


俺の右手に殴った手応えを感じた。その瞬間、時間の流れが元に戻った。インケンメガネはメガネを吹き飛ばしながら吹っ飛んでいった。

ゴロゴロと転がっているアイツを無視して、慌てて王女様へ駆け寄り抱き起した。


「うっ!」


王女様の胸と腹の鎧が切り裂かれ、そこから血が止めどなく流れている。


「王女様!しっかりして下さい!」


「ジ、ジークか・・・、私はもうダメだ。お前だけでも逃げるんだ・・・、これは王女としての命令だ。」

しかし、血が喉に詰まったのか、「ごほっ!」と咳き込んでしまい、再び口からも血が流れ始める。


「いえ!この命令は聞けません!奴らが俺を殺す事が出来ないなら、このまま王女様を抱えて逃げます。俺は絶対に諦めません!」



「このぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!ガキがぁああああああああああああああああああ!」



俺が顔面を殴った際に鼻が折れたのか、大量の鼻血を噴き出しながら鬼の様な形相で奴が俺を睨んでいる。


「ガキの分際で舐めた真似をしてくれたなぁぁぁ、もう構わねぇ!お前を殺してペンダントを奪ってやる!このペンダントが鍵と分かったからな、お前がいなくても稼働出来るはずだ!多少時間がかかるかもしれんが、必ず解析してやる!」


ゆらぁ~と立ち上がり剣を構えた。

素人の俺でも分かる程に奴から大量の殺気が溢れている。


(確実に俺達を殺す気だ・・・)


剣を俺へと振り下した。

咄嗟に右手を上に掲げた。なぜそんな行動をとったのだろう?自然と体が動いた。


ガキィイイイイイイイイイイイイイイン!


「何だ!」


(何が起きた!)


奴の剣が俺の目の前で止まっている。いや、正確には俺の差し出した右手の手前で止まっていた。


「「この右手は!」」


奴も俺も同時に同じ言葉を発してしまう。それだけ俺の右手が異常な状態になっていた。

手の甲にペンダントが埋め込まれているようになっていた。そのペンダントが緑色に輝き、血管のような緑色の光の線が俺の右手首まで輝いていた。


あの時、咄嗟に握ったペンダントが俺の腕と同化した?

それに、今の攻撃を防いだのはどうして?

何か見えない壁のようなものがあるのか?


「そんなバカな!騎士でもないガキが障壁の魔法を使えるだと!あり得ん!」


(魔法だと?俺にそんな力が?)


再び奴が俺に切りかかってきた。今度は冷静に右手を前に出す。不思議だ・・・、魔法なんて知らないのになぜか頭の中に浮かんでくる。


「シールド!」


ガキィイイイイイイイイイイイイイイン!


さっきと同じように剣が俺の前で止まった。良く見ると、剣が止まっている辺りに薄いガラスのような板が見えた。

これがシールドなのか?


「フレイム・ボム!」


そう唱えると、今度は俺の周りから火の玉がいくつも浮かび上がり、高速で奴へと飛んで行った。


「くそぉおおお!」


奴が俺の放った火の玉をことごとく剣で切り裂いた。


(クソ!さすがは現役の騎士だ、にわかの俺の攻撃なんて牽制にもならない。)


「くそ!くそ!くそぉおおおおおおおおお!」


奴が俺を見て激昂している。

「ガキが生意気だよ!さっさと俺に殺されろ!」


「何だ、この汚い言葉は?」

奴の態度が最初の頃と全く違う。

「これがお前の本性なのか?醜いものだよな。」


「う、うるせぇええええ!ガキが生意気言わずに死ねぇえええええええええええええ!」


何だ!奴の剣が何十にも見える!これが奴の技なのか!


「ブラッド・スラッシュ!」


慌てて右手を前に出し再び障壁を張ったが・・・


パリィイイイイイイイイイイイン!


何て事だ!障壁が砕かれてしまった!


「ぐはぁああああああああ!」


そのまま吹き飛ばされてしまう。だけど、瀕死の王女様は絶対に手放せない。俺が必ず救うと誓った!


(だけど、ジリ貧だ・・・)


周りを見ると、インケンメガネ以外にも親父さん達を殺した騎士達も俺へと近づいている。

戦闘経験の無い俺と、現役の騎士達・・・

勝負は既についていると言っても過言でない程に絶望的な状況だった。


だけど・・・


(絶対に諦めない!)



ゴゴゴゴゴォォォ



再び遺跡全体が振動した。

(何が起きているんだ?)


ウイィイイイイイイイイイン!


(嘘だろ?)


さっきの奴の攻撃を受けた際に床にある扉の上まで飛ばされていた。


(まさか!こんな時に足元の扉が開くなんて!)


いきなり体に浮遊感を感じる。


「し、しまったぁあああああああああああ!」


足下の扉が全開になり、真っ暗な穴の中へと俺と王女様が落ちていく。


「く、くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」






穴の縁でロイドが立ち、ジッと穴の中を見ていた。その表情はとても忌々しそうだった。


「ちっ!逃がしたか・・・」


ロイドの後ろに1人の騎士が立ち片膝を着き頭を下げている。

「ロイド様・・・」


「まぁ、仕方ないな。王女はもう間も無く死ぬだろう。あれだけの怪我だ頑張っても5分かな?」

ニヤリと笑う。

「しかし、勿体ない女だった。あれだけの美貌、俺の女にしておくベきだった。アルフレッド様からは確実に殺せと言われていたが・・・、まぁ、命令は実行したのだ、過ぎた事を言っても仕方ない。」


「それにしても、あの小僧・・・」


再び穴の中を覗いている。


「アイツは俺がギタギタに切り刻んでやりたかった。この顔のお返しを・・・」


「ロイド様・・・」


「この穴を見ろ。どこまでも深い穴だ、まるで地獄に続くみたいにな。これだけ深い穴に落ちたのだ、空を飛ばない限りは生存は不可能だ。ペンダントは惜しい事をしたが、この場所の設備やエーテル・ナイトは使えそうだな。」



「ふはははははぁあああああああああああああああ!」


ロイドが思いっ切り笑う。


「これは俺の手柄だぁあああ!これでアルフレッド様の側近になるのに近づいた!バカな姫様だったよ、見事、俺の踏み台になってくれた。」


振り返り、残った騎士達に号令を出す。


「あの村の近くに待機している本体に連絡をしろ!ここの調査を早急に進めるぞ!ふはははははぁあああああああああああああああ!これだけの戦力だ!笑いが止まらん!」






「くそ!どこまで落ちていくんだ!」


かなりの深さまで落ちているけど底が見えない。こんな高さから落ちているんだ、助かる事は無いのだろう・・・


(ちくしょう!王女様を助けると言ってこんなザマとは・・・)


【そうだね、このままだと落ちて水風船のように破裂して終わりだね。】


また声が聞こえる!


「お前は誰だ!何で声が聞こえるんだよ!」


【そんなに怒鳴らないでよ。僕は君の中にいるんだから、思うだけで言葉は伝わるからね。】


(どういう事だ?)


【う~ん、詳しい事は言えないというか、言ったって君は理解出来ないよ。徐々に理解していく事から始めた方が良いと思うよ。】


(そうだな・・・)


【それよりも、このままだと確実に君は死ぬよ。君の胸に抱いている王女様もね。あっ!でも、王女様は地面にぶつかる前に死ぬかも?もう心臓が止まりかけているし・・・】


(何だって!)


【仕方ないよ。あれだけ血を流したから失血死は免れないしね。だけど、1つだけ方法があるんだ。君も王女様も助かる方法がね。】


(どんな方法だ!頼む!俺はどうなってもいい!王女様だけでも助けて欲しい!)


【カッコイイね。かつて僕が惚れ込んだ当時の君と変わらないよ。ゾクゾクする・・・、その方法・・・、それは僕を受け入れる事。それしか助かる方法は無いけどね。まぁ、そうなるようにここに誘い込んだのも僕だけどね。】


(どういう事だ?受け入れるって?だけど、本当に王女様は助かるんだよな?)


【そうだよ。】


(なら決まりだ!それしか方法が無いなら俺は何も言わない。)


【あらら、即決なんだね。いかにも君らしいっていうか・・・、益々君の事が好きになってくるよ。生身に戻ったら絶対にデートだよ!約束だからね!】


(そこは勘弁してくれ・・・)


【ふ~ん、今は僕の事を忘れているから仕方ないか・・・、それじゃ、前を見て。】


その言葉の通りに前を向くと・・・


真っ暗な中でポゥッと白い小さな明かりが目の前に点った。


「何が起きた?」


その明かりが徐々に大きくなって人の姿になってくる。しかもだ!背中に3対6枚の翼が生えてきた!


(人間か?いや・・・、この姿は・・・)


どこかで見た気がする。なぜ覚えているのだ、名前は確かルシ・・・


両手で俺の頬を抱いた、顔らしいものがどんどんと近くなってくる。顔のパーツが無いのっぺらぼうの顔なのに、なぜだ?ニコッと微笑んだ気がした。

そのままキスをされたようになり、光の人影が俺の体の中へと入っていった。


「うっ!」


まただ!体が熱い!さっきよりも更に体全体が熱くなってくる!


【ふふふ、これで君の中に眠っていた僕の力は解放されたよ。しばらく僕は眠る事になるけど、再び会う時を楽しみにしているからね。】


「何だ!これは・・・、力が溢れてくる!はっ!落下を何とかしないと・・・」


不思議な事に体が自然と動いた。背中に意識を集中する。



バサッ!



落下速度が一気に遅くなった。


俺の周りに光る羽が舞っている。

肩越しに後ろを見ると・・・


「ははは・・・、俺ってどうなった?夢でも見ているのか?」


背中に光輝く6枚の翼が生えて、空中を羽ばたいていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ