4話
「信じられない・・・」
王女様が冷や汗をかきながらホールを見渡している。
俺も信じられない光景だよ。
王女様達が用意した明かりを灯す魔導具よりも遙かに明るい光源が天井のあちこちに埋め込まれていた。
あの明かりだけでも歴史的な発見ではないだろうか?
(どうしてこうなった?)
「ジークよ、お前のその胸、光っているが何が服の中に入っているのだ?」
王女様が俺の胸を指差しながらプルプル震えている。
(俺の胸に何が?)
視線を胸元に移すと、余りの驚きで声が詰まってしまう。
「こ、これは・・・」
言われた通り俺の胸が光っていた。
いや、違う。これは・・・
慌てて服の中に手を入れると手に感触を感じる。それを握り服の中から出した。
「輝いている・・・」
「ジークよ、これは何なのだ?」
王女様が興味深そうに俺の手を見ている。正確には俺が握っている物だが・・・
「はい、これは父の形見のペンダントです。唯一父が私に残してくれた物です。ですが、村長に見てもらった時は単なる価値の無いペンダントだと言われました。しかし、こうやって光を放つのは初めて見ます。」
「そうか・・・」
王女様が納得したような表情で俺のペンダントを見ている。
「これはこの遺跡の認識装置みたいなものだ。この壁にあるスイッチに反応したのだろう。」
「スイッチ?それは何なのですか?」
初めて聞く名前だ。だけど、王女様はどうやらこのペンダントの事が分かっているみたいだ。
「スイッチとはアレだな。壁に輝いている物があるだろう?アレはエーテル・ナイトの操縦席の周りもあるものだ。似たようなものだから間違いないだろう。」
そして剣を俺に差し出してくれた。
「私のドラグーンの認証装置はこの剣だよ。この剣の所有者がドラグーンの搭乗者になれるし、呼び出す事が出来る訳だ。まぁ、機体に意志があるみたいで認められないと乗り込む事も出来ないがな。」
王女様の剣と俺のペンダントを見比べてみた。
「そうなると、これのペンダントは、もしや?」
「うむ、ジークの予想通りのモノだろうな。」
ガシッ!と王女様に肩を掴まれた。
「ジーク!でかした!これがあればこの遺跡の扉を開ける事が出来るかもしれん!頼む!協力してくれないか?」
「分かりました。」
まさか・・・
父さんの残した物がこんな凄い物だとは思わなかった。
だけど・・・
当時、父さんはあの扉の前で何も出来ず帰っていったけど、俺がその先を行けるんだ。
(まてよ?)
父さんはなぜ当時はこの装置を起動出来なかったのだ?このペンダントは俺が小さい頃から父さんが持っていた。こんな遺跡があったのを見つけた父さんだ。このペンダントの使い方を知らない訳が無いはず・・・、間違いなくこの遺跡に来た時も持っていたのは間違い無いと思う。
分かっていたから、このペンダントは父さんの形見として残っていた訳だし・・・
何だろう?考えれば考えるほどに訳が分からなくなってきた。
【今は気にしなくていいよ。】
!!!
(誰だ!)
「ジーク!」
「はっ!」
「ジーク、大丈夫か?」
王女様が俺の顔を覗き込んでいた。
とんでもないキレイな顔が俺の目の前にあった。自分でも分かるくらいに顔が真っ赤になったと思う。
「だ、大丈夫です。ちょっと変な声が聞こえたもので・・・」
「声だと?私には何も聞こえなかったが・・・」
また覗き込んでくる。
「本当に大丈夫か?急に黙ってブツブツ言っていたから少し心配したぞ。それに顔がかなり赤いな。一般市民が騎士と一緒に行動したのだ、行軍で無理をさせたのかもしれないな。すまない。」
王女様、俺の顔が赤いのは王女様のせいですよ。こんなに顔が近いと意識してドキドキしてしまう。王女様は自分がキレイ過ぎる事を自覚していないのかな?
「本当に大丈夫です。」
これ以上近づかれるとマズイ!今まで女っ気が無かったからすごく意識してしまう!
慌てて扉へと走っていった。
「ま、待て!ジーク!そんなに慌ててどうした?」
扉の前に立つと王女様が追いついて俺の後ろに立っている。
「王女様、これが本当に認識装置なのか試してみます。」
そう言ってペンダントを扉の前に掲げた。
再びペンダントが輝き光を放つ。
(やっぱり)
『マスターキーヲ認証シマシタ。ロックヲ解除シマス。』
さっきと同じ声がホール内に響き渡った。全員が作業を止め扉へ視線が集中した。
ゴウン!
ホール全体がグラッと揺れた。
ゴゴゴゴゴォォォ・・・
「「「おおおぉぉぉ・・・」」」
「「「扉が・・・」」」
扉が左右に分かれゆっくりと開いていく。
「本当にこのペンダントが鍵だったなんて・・・」
あまりの感動で全身がガタガタ震えている。
ギュッ!
突然、後ろから誰かに抱きつかれた。
「どうだ?落ち着いたか?」
王女様が俺を後ろから抱きしめてくれている!こんな平民の俺に・・・
だけど、王女様の鎧がゴツゴツして背中が微妙に痛いのは気のせいか?
でも、後ろから良い香りがする。これが女の人の香りなんだろう。
「は、はい・・・、もう大丈夫です。あまりにも驚き過ぎたもので・・・」
「分かるぞ、その気持ちはな。私も今日の新しい発見に心躍っているぞ!」
王女様も興奮したように顔が赤く、扉の奥へ視線を向けていた。
パパパァアアアアアアアアア!
真っ暗だった扉の奥が、俺達のいるホールと同じように明るくなっていく。
「ジーク!世紀の発見に間違いない!行くぞ!」
「は、はい!」
俺も興奮している。王女様に手を握られているけど、それどころではない。
あの扉の先に何があるのか・・・
「これは・・・、ははは・・・、言葉も出ないな・・・」
王女様が唖然として部屋の中に入った。
「姫様・・・、まさか、ここまでとは・・・」
「デイビッドよ、私は夢を見ているのかな?こんなに多くのエーテル・ナイトは見た事が無いぞ。しかも、どの機体も新品同様に全く汚れていない。」
「そうですね、普通のエーテル・ナイトは地下に埋もれた遺跡から発掘されるものですから、ここまで保存状態の良いものは初めて見ます。しかも、こうして遺跡が稼働しているなんて初めてですよ。そうなると、王都にある地下遺跡も未発掘部分は、もしかしてこのような場所もあるかもしれませんね。」
「おそらく・・・、王都の遺跡は広大な迷宮だ。可能性は高いな。」
俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。
踏み込んだ部屋は、今までいたホールよりも更に巨大な空間が広がっている。
その部屋にはまさかのエーテル・ナイトがズラッと並んでいた。
「ゆ、夢じゃないだろう・・・」
直立姿勢だったり片膝を着いた姿勢をしている機体もいる。
そのどれもが黒色のエーテル・ナイトで、しかも数が10数機もだ・・・、そんな機体が壁を背にして立っている。しかも、どの機体も汚れも無くピカピカの状態だ。
「こんな遺跡があったなんて・・・」
目の前の機体は、王女様の真っ赤な機体に比べると少し小さく、見た目の鎧も簡素な感じがするけど、それでもエーテル・ナイトは最低でも1機で騎士数百人分の戦力と言われている。
そんなのが10機以上もあるなんて・・・・
「俺も乗れるのかな?」
自分があの機体に乗っている姿を想像すると体が熱くなってきた。
【何を考えているんだい?あんなゴミみたいな機体、乗るだけ無駄だよ。君にはもっと相応しい機体があるからね。】
まただ!変な声が聞こえる!
(どうして?)
「うっ!」
こめかみに痛みが・・・、それに体が熱い・・・、これは興奮している熱さではない、何かもっと別の何かが俺の体の中から出てくるような感覚が・・・
全身が汗びっしょりだ。この遺跡が稼働してから何かが変だ。
(俺の体に何が起きている?)
「ジーク!」
再び王女様が俺を呼んでいる。
「大丈夫か?」
慌てて俺を支えてくれたけど、すごく心配そうに俺を見ている。
「どうした?顔が真っ青だぞ。仕方ない、ジークは少し休んでいろ。」
「ロイド!」
「はっ!」
王女様が名前を呼びと1人の騎士が俺達の前に立った。年は王女様くらいの感じで、メガネをかけているが何だろう目付きがあまり良くない気がする。
何て言ったらいいか分からないが、常に人を値踏みするような目だ。
「お前はあの並んでいるエーテル・ナイトを調べてくれ。詳細が分かったらすぐに報告だ。」
「はっ!」
敬礼をしてから部屋の奥にあるエーテル・ナイトへと駆け出した。
王女様が肩を貸してくれやっと歩いて、壁にもたれかかった。
「ジークよ、お前はここで休んでいるが良い。後は我々が調査を行う。」
「はい・・・」
返事をするのもやっとだった。
俺の体は本当にどうしたのだ?
壁にもたれかかりながら王女様達の作業を見ている。
王女様が扉付近に立って全体の指揮を取っていた。ホール側はあのゴリマッチョ親父がリーダーみたいだ。俺がいるこの部屋はあのインケンメガネ騎士(俺が勝手に名づけたけど・・・)がリーダーとなって調査をしていた。
かなり体が楽になってきた気がする。
立ち上がって歩き始め、ホールの方へ移動した。
扉をくぐるとゴリマッチョ親父が俺を見つけ近づいてくる。
「坊主、体は大丈夫か?姫様が心配していたぞ。」
「すみません、どうしてこうなったか俺も分からないのですよ。」
「まぁ、帰りもあるからな、それまではゆっくりと休んでいな。」
『がはははぁあああ!』と笑ってくれたけど、こうして心配させてしまって少し気が引けてしまう。
邪魔にならないように、床の扉のようなところの近くで座って休む事にした。何かそこしか空いていない気がしてしまったし・・・
(いきなり扉が開くって事はないだろうな?開いて落ちたら終わりだぞ・・・)
「おぉ!ジークか!ここにいたか。いきなりいなくなったから心配したぞ。」
王女様がツカツカと歩いて俺の前まで来てくれた。
「王女様、俺にそんな気を遣わなくても・・・」
「何を言っている。お前のおかげで世紀の発見が出来たのだ。それにだ、王家が国民を守るのは当然だろう。国民あっての国家だ、お前達のおかげで我々王家や貴族が成り立っていると思っている。だから、私には遠慮するな。」
「あ、ありがとうふございます。」
何て立派な王女様なんだろう。この方は間違いなく国民に人気があるんじゃないか?俺も王女様の部下になれるのかもしれないんだ、頑張って絶対に騎士なって王女様を助ける為に働こう。
「姫様!」
(ん?インケンメガネの声だ。)
「ロイドか、あちらの方はどうだった?」
「はい、発見された機体は全てポーンタイプでした。ですが、どの機体も未登録の機体であり、一切の不具合も見当たりません。騎士団の技術班だけで稼働が可能と思われます。しかし、これだけの機体の数・・・、我が王国が世界の覇者になるのも夢ではないですよ。」
しかし、王女様が不機嫌な表情になった。
「ロイド、貴様、何を言っている?我が王国は戦争なんかに加担する訳が・・・」
「「「ぐあぁああああああああああああああああ!」」」
(何だ!いきなり悲鳴が!)
悲鳴があった方向に顔を向けると・・・
「嘘だろう・・・」
ゴリマッチョ親父の胸から剣が飛び出している。後ろから剣を刺されていた。口から大量の血が溢れている。他にも数人の騎士が床に倒れ背中から大量の血を流していた。
「デイビッドォオオオオオオ!」
王女様が叫んだので俺は王女様へ視線を戻した。
(あれは!)
インケンメガネの視線が鋭くなって腰の剣に手をかけている。王女様は親父の方に振り向いてしまっているので、インケンメガネに対して背を向けた状態だ。
(インケンメガネは間違いなく王女様を狙っている!)
「王女様!危ない!」
思わず叫んでしまった。
その瞬間、インケンメガネが剣を抜き王女様の背中に剣を突き刺そうとした。
「は!」
王女様が俺の声で背中から迫る剣に気付いたが遅かった・・・
王女様の背中から剣が刺さり胸から剣の切っ先が飛び出してくる光景が、なぜかゆっくりと見えた。