3話
「それにしても本当にキレイな人だったな。」
俺は王女様を思い出しながらニヤニヤしている。
「しかも、エーテル・ナイトに選ばれるだけの実力もあるって、身分に美しさ、そして強さまで・・・、神様は不公平だよ・・・」
「でもなぁ・・・」
王女様との別れ際の会話を思い出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ジークはいくつだ?少なくとも私よりは年下だろう?」
「はい、今年で16歳になります。」
「そ、そうか・・・、見た目よりも若いな。」
なぜか王女様が少し悲しそうだけど何で?
だけど急に元気になった。
「そうだな・・・、7歳差か・・・、いつまでも若いと思っていたがそんな歳なのだな・・・、まぁ年下の部下も悪くないかも・・・」
(何の話なんだろう?)
そして俺を見てニッコリと笑った。キレイな人の笑顔の破壊力はとんでもないよ。思わず見とれてしまう。
「私は君と比べて『少し』お姉さんになるのだな。私の最初の師は君の父親だった。ある意味、私は君の兄弟子みたいなものだよ。そしてだ、この調査は君の協力が不可欠だな。もし、君が良ければだが、今回の協力の報酬に君を騎士に推薦しても良いかと思う。もちろん私の名前での推薦だ、下手な推薦よりも確実だぞ。」
「ほ、本当にですか?」
「あぁ、だけどすぐに騎士にはなれないからな。あくまでも推薦だ。騎士になるにはそこから血の滲むような訓練をしなくてはならない。希望を持って騎士の道へと入ってきても、実際に騎士になれるのは一握りだ。だけど君なら試練を乗り越えられると思うよ。何せジン様のご子息だからな。」
「ありがとうございます!王女様の期待に応えるようがんばります!」
「ふふふ、その意気だ。それでは明日の案内は頼んだぞ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「俺も騎士になれるのかな?やっぱり騎士は男の憧れだよ。」
そう思うと体が熱くなってくる。
思いっ切り右手を上に突き出した。
「明日は頑張るぞぉおおおおおおおおおおおおお!」
翌日
朝、村長の家に行くと既に王女様達が家の前にいた。
王女様以外にあの厳つい強面のゴリマッチョの親父もいたし、親父以外にも10数人の人が一緒にいる。どの人も皮の軽鎧を着込んでいるが、剣も腰に差してあるから騎士に間違い無いのだろう。
王女様は昨日と同じ煌びやかに輝く鎧を着込んでいたが、女性があんな鎧を着て重くないのだろうか?
(不思議だ・・・)
俺なりに早起きして来たのに、それ以上に早く来てちゃんと整列して待っているなんて、さすがは王女様が率いている軍隊だよ。
俺を見かけて王女様がニコッと微笑んでくれた。
「おぉ!来たか!」
「すみません。みなさんが既に準備されているのに1番最後に到着してしまいまして・・・」
「構わないさ。我々も色々と準備があったから、必然的に早くなっただけだ。」
王家の人はもっと高圧的な人ばかりだと思っていたけど、王女様はとても気さくな方だと思う。だけど、相手は間違い無く王族の人だ。この方は気にしないかもしれないけど、俺が失礼な態度を取れば、後ろの護衛の人達に何かされるのは間違い無いだろう。気を付けて案内をしないと・・・
しばらくすると準備も終わったのか、全員が王女様の後ろに整列し俺の方へと向いた。
「それではジーク、案内の方は頼むぞ。」
全員の視線が俺へと降り注ぐのでとても緊張してしまう。
「は、はい!」
思わず声が上ずってしまうけど仕方ないよな?
「坊主、昨日みたいな態度とは違うな。そんなんじゃ、俺達に付いて来られないぞ。」
あの厳つい親父がニタニタしながら俺を見ていた。
(こん畜生・・・、何だよこの親父は!何か腹立つぅぅぅ・・・)
「姫様から聞いたぞ、坊主、騎士になりたいんだってな。多分、俺がお前の指導をする事になるだろうな。こんな事でビビってたら騎士にはなれんぞ。騎士になるにはなぁ、1に根性、2に根性、3,4も根性、5も根性だ!それくらいの気持ちがないとやれんからな。がはははぁあああああ!」
何だこのノリは!騎士団はこんなところなのか?
(う~ん、将来がかなり不安になったよ。)
しかし、森に入ってから騎士の称号は伊達ではなかったと実感した。
「はぁはぁ・・・」
「どうした?もうへばったのか?」
隣にいる王女様がニヤニヤしながら俺を見ている。さすがに森の中なので魔獣が出る可能性があったので、俺と王女様が騎士達の中心にいて守られながら歩いている。騎士達は村の大人達でも歩き難いこの森の中をスイスイと歩いていた。
「これくらいでバテたら騎士になれないぞ。ほら!頑張れ!」
重装備の王女様ですら滞りなく森の中を歩いている。騎士は化け物ばかりだと実感した。
「前方にフォレストウルフの群れを発見、こちらへと接近してます!」
先頭の騎士が大声で叫んだ。
「フォレストウルフって・・・、王女様、逃げないといけません。1匹でも村の大人が数人がかりで対処しないと殺されます!それに群れって!危ないです!」
「心配するな。民を守る事が我ら騎士の役目だからな。その為に研鑽をしているんだよ。見ておれ!」
王女様がニヤッと笑うと号令をかけた。
「戦闘配置につけ!殲滅する!」
「「はっ!」」
騎士の人達が短く返事をすると一斉にウルフの群れに突っ込んだ。ウルフの群れは20匹近くもいる。
俺達の倍近くの数なのに、そんなの無理だ!
しかし、あっという間に騎士達がウルフを全滅させてしまった。
「すっげぇぇぇ・・・」
騎士達のあまりの強さに声が出なかった。
ガサッ!
俺のすぐ隣の背の高い木々の中からウルフが飛び出してきた。
完全に意表を突かれて呆然としてしまった。
(こ、こんなところで!)
ザシュッ!
目の前でウルフの首が飛んだ。そのまま俺を飛び越えてゴロゴロと転がって止まった。
「ふぅ、油断大敵だな。」
真っ赤なな刀身の剣を握り締めた王女様がニコッと笑った。
「心配するな。これくらいの魔獣なら目を閉じても倒せるからな。安心して守られるのだな。」
「は、はい・・・」
大人数人がかりの魔獣でも涼しい顔で倒してしまうなんて・・・
本当に騎士になれるのかとても不安だ。
しばらく歩いていると目の前に斜面が見えてきた。
「あの斜面です。」
ただ、あれから10年が経っている、土が露出していた部分も木や草が覆い茂っていた。
記憶を頼りに穴があった場所へ歩いて行くと、辛うじて穴が見えたので、騎士の人達が全員で穴の周りの木を切ったり草を除去してくれた。
改めてこの穴を見てみると・・・
「何かの入り口みたいだ・・・」
「ジークもそう思うか?」
王女様が俺の隣に立って一緒に入り口を見ている。
その入り口の周りは石組みの法面になっていた。おそらく、長い年月の経過で法面の上に土砂が積もったのかもしれない。そして10年前にその土砂が崩れ入り口が現われたのだろう。
「これは期待出来るな。」
全員が嬉しそうに入り口を見ていた。
その時、数人の騎士の視線が鋭くなり、お互いに視線を交わして頷き合っていた事に、王女様も俺も気が付かなかった。
もし、その時に周りの騎士の変化を気づいていれば、あの悲劇を回避出来たのかもしれない・・・
真っ暗な洞窟内を一列で歩いている。
先頭の騎士が明かりを灯す魔導具を用いて照らしながら歩いていたので、そんなに苦労せずに歩くことが出来た。
当時、父さんと一緒にこの洞窟内を歩いていた時は松明だったので、床の凸凹でかなり苦労したが、今回はかなり明るく照らしているからとても楽だった。さすがは王族直属の精鋭だよ。持っている装備から違う。
途中、何度か曲がり道があったが1本道で脇道も無く、体感で500メートルほど歩くと・・・
「「「おぉぉぉ~~~」」」
急に大きなホールのような場所に辿り着いた。
「ここがジークの言っていた空間の事か?」
「そうです、私の記憶ではこの場所に間違いありません。」
「そうか・・・、では!ここを拠点にしてこのホールの調査を始める。」
王女様がそう指示を出すと数人の騎士が背中の大きなリュックから色々な荷物を取り出した。
ホール内が一気に明るくなる。
「これは?」
「これだけ明るくないと調査が出来ないだろう。まずはこのホールの全容を確認しないとな。」
ニヤッと俺に向けて王女様が笑った。
笑ったというよりもドヤ顔かな?
当時は松明の明かりだったので詳しく見る事が出来なかったホール内だったけど、かなり明るくなった室内を見てみると・・・
「こ、これは・・・」
ホール全体は四角の長方形の構造をしている。壁は今まで見た事がない材質で出来ていて、鈍く光る金属のようなものだった。
これだけの大きなホールを構成する程の金属なんて、どれだけの量が使われているのだろう?
この金属を持ち帰るだけで巨万の富を得られのでは?と思うくらいだった。
再び周りを見渡してみると、壁に大きな扉を発見した。
(この扉だ!)
やはり記憶は間違っていないと実感したが、ふいに王女様に話しかけられた。
「ジークよ、天井を見てみろ。」
「はい?」
何を言っているのだろうと思って天井を見てみると・・・
「何でここにも扉が・・・それにとてつもなく大きい・・・」
「不思議だろう?天井にも扉があるなんて考えられないぞ。エーテル・ナイトにはいくつかバリエーションがあるが、伝説では空を飛ぶ機体もあったと言われている。多分、その機体用の出入り口ではないかと思う。」
そして床の一角を指差した。
「ほら、床にも大型の扉があるのだ。このホールの階層以外にも上下に階層があるようだな。どうやらこの遺跡は私達が思っている以上に大きいのかもしれない。これは大発見かもしれないぞ!」
だけど、父さんと一緒にここに来た時は見に来ただけで、これ以上の調査はしていないと思う。父さんはこの後すぐに寝込むようになってしまったから・・・
「デイビッド!その扉はどうだ?開けられそうか?」
王女様が親父騎士に聞いているが、親父騎士は首を横に振っている。
「姫様、全く動く気配もありませんし、隙間も全く無く剣が入りません。」
「そうか・・・、無理矢理でも剣で切ることは?」
「いえ、それも試したのですが、傷一つ付きません。エーテル・ナイトの装甲以上に固い金属が存在するとは想像が付きませんでした。」
「それでは、私のドラグーンで開けてみるか・・・、それしか方法が無いようだな。」
みんなが扉の前で何か相談しているけど、どうやらこの扉が開けられないのだろうな。
それ以前に、こんな大きな扉を人力で開けられる訳がない。
(おや?)
扉の横の壁に何か四角いものが飾られている。
「何だろう、これは?」
近づいて詳しく見てみると、絵画の四角い額縁の様なものの中に、何個もキレイなガラス玉みたいなものが埋め込まれている。
ピー
「何だ!この音は!」
聞いた事の無い音が額縁の中から聞こえた。
「えっ!」
ガラス玉みたいなものがピカピカ点滅している。
(何が起きてるのだ?)
王女様が慌てて俺の隣まで走ってくる。
「ジーク!どうした!」
『マスターキーヲ認証シマシタ。ロックヲ解除シマス。』
何だ?言葉が聞こえるが、人の声では無い気がする。それ以前にどこでこの声を発しているのだ?
パパァァァァ!
「「「どうした!」」」
騎士達の声がザワザワと響き渡った。キョロキョロと忙しく周りを見渡している。
混乱するもの分かる。
ホール内のあちこちで明かりが点灯し、全体がとても明るく照らされていた。
「これは・・・、まさか・・・、この遺跡は生きているのか?」
王女様が呆然とした表情で周りを見渡していた。